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その野球小僧、前世知識で鍛錬中につき  作者: いのりん


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13.元囚人が記した名著

 相撲界に伝わる至言に『三年先の稽古』というものがある。目先の勝利のために小手先のテクニックを磨くのではなく、将来を見据え基礎体力や技術の土台を地道に作り上げる重要性を説いたものだ。


「じゅ、う……さあぁぁん!」


 現在は平日の昼休み。45分あるこの時間を、俺は三年先を見据えた稽古に使っている。内訳は以下の通りだ。


 移動・ウォームアップ:5分

 ゆっくりした動きで行う自重トレーニング:10分

 昼食(栄養補給):10分

 移動・仮眠:20分


 このトレーニングの目的は二つ。

 一つは関節の強化、もう一つは筋肉の肥大だ。


 スポーツ界で蔓延している誤解の一つに『筋肉は強くなるけど関節は強くならない』というものがある。


 あれは嘘だ。

 関節も『上手に鍛えれば』ちゃんと強くなる。


 関節を構成する腱、筋膜、靭帯、関節包などの軟部組織はそれぞれ可塑性があり、筋肉と同様に適切な負荷をかける事で適応反応がおこるからね。


 ただ、関節は筋肉よりも回復に多くの時間がかかる他、トレーニング中に炎症を起こさないように十分注意する必要がある。一つの例として、筋肉の損傷である肉離れは軽いものだと1〜2週間で完治するが、靭帯損傷や健炎は軽いものでも完治に3〜4週間を要するし、炎症後の軟部組織は石灰化して硬く弱くなってしまうからである。


 そこで『ゆっくりした動きで行う自重トレーニング』だ。人間の身体は自重を動かすために進化したので、外部荷重を使ったトレーニングよりも自重トレーニングのほうが解剖運動学的に人間本来の身体デザインに沿った運動になりやすく、『関節を強くするために丁度良い負荷』をより安全にかける事ができる。



 で、もう一つの目的である筋肥大だが、ダンベルみたいな外部荷重を使わない10分程度の筋トレで筋肥大効果を出せるのかと言われたら……


 出せる、それはもうバッチリと。


 なぜなら『筋肉量を増やすこと』を目的とした筋トレをする時に適切な『負荷量』と『頻度』はだいたいこんな感じだからだ。


(1)8〜15回くらいで限界になる重さで

(2)3セットくらい行う


 1セット目は15回、2セット目は疲れてるから12回、3セット目はさらに疲れてるから8回で限界……くらいが、その人にとってベストな負荷量ということだ。なので一日一種目に絞れば、3セット行っても6〜7分で終了する。


 で、自重筋トレというのは本人のもつ筋力に応じて以下の3つを組み合わせることで負荷量を段階的に増やすこともできる。


(1)弾みを一切使わず筋力だけで動かす

(2)関節の可動範囲を広げる

(3)片腕や片脚に近づけていく


 一例として弾みをつけずにゆっくり、顎が地面につく程深く沈むやり方で、片腕のみで15回の腕立て伏せができないなら、そいつはまだジムに行かなくても充分な伸び代があると思ってくれればいい。


 だって、標準体型の人が片手腕立て伏せをすれば50キロくらいは自重を持ち上げることになる訳だ。ジムであの人すごいねって言われる『ベンチプレス100キロ』って片腕で上げる重量は50キロだからな。


 ちなみに、筋トレで筋肉が太くなるメカニズムは『超回復』によるものなんだけど、その発動条件は筋肉に下記いずれかのストレスがかかること。


 ①メカニカルストレス(筋肉にかかる張力)

 ②代謝ストレス(乳酸など代謝物の蓄積)

 ③筋損傷(筋繊維のダメージ)


 ③筋損傷は筋肉痛の原因であり、筋肉痛が出るようなガンガン勢いをつけて行う筋トレのやり方は超上級向け。だって、関節炎のリスクが高いし筋肉痛は翌日に響くからね。

 そして、実は①と②だけで充分な筋肥大が可能だったりする。勿論めちゃくちゃしんどいけど!


「あー、マジでしんど……背中も腕もパンパンだわー」


 以上の理由から、三年先を見据えた稽古として俺は『ゆっくりした動きで行う自重トレーニング』を中学時代から行ってきた。


 メニューとしては『ビッグ6』と言われる最高にイカした六種目を一日一種目、日替わりで行っている。土日も行うかわりに紅白戦や練習試合後になりやすい月曜日はオフとして、1週間で一周りするスケジュールだ。


 ちなみに、ビッグ6の内訳とメインターゲットにしている筋肉は下記の通り。


 プッシュアップ:鎧の様な胸、鋼の様な三頭筋を作る

 スクワット:パワフルな運動能力を備えた脚の鋳造

 ブリッジ: 脊柱起立筋が二匹の大蛇のように発達

 ハンドスタンド:肩にジープ載せてんのかーい

 レッグレイズ:燃えるドラゴンの様な腹筋群

 プルアップ:鬼の宿る背中と力こぶ、水兵の前腕


 まあ、本当はもっと沢山の部位や全身の筋肉が共同して動いてるんだけどね。特定の筋肉を限定して鍛えるマシントレと違いバランスや協調性も養いつつ全身を連動させる事ができる分、よりアスリート向けの内容となる訳だ。

 で、歴史的な自重トレーニングの名著にはこの六種目をそれぞれ10ステップに分けて段階的に鍛える方法が載っていたりする。例えば腕立て伏せなら両手で壁を押すものから始まって、最終的には片腕一本で深く沈み込む腕立て伏せになると言った具合にだ。


 俺の場合、怪我しないよう万全を期して教本で推奨されていた基準よりもゆっくりした速度で進めているが、現時点でそれぞれのステップの5〜10のレベルに達している。これから筋骨格系が発達していく時期なので卒業するまでには全種目のマスターステップに到達したストロングマンになれているはずだ。

 具体的には片手懸垂や倒立状態からの片手腕立てだって複数回できるレベル。アミノ酸飲料のCMにも出れちゃうね!


 という訳で今日の昼トレノルマ終わり。


 今日は校庭の鉄棒を使って懸垂(プルアップ)をした後なので、クールダウンして汗の始末をした後はベンチに座って昼食にする。ゆっくり噛んで食べたいし二限休みと部活前に補食も食べるから量はやや少なめ、暖かい春の日差しの下でのんびりしたお昼だ。


 ……と思ったら、なんかギャルっぽい三人組がこっちに向かってきたんだが、一体どうした?


「キミって噂の新入生だよね!」

「何で一人でご飯たべてんの?」

「どしたん、話きこか」


 いや、どうもしてないんで早く栄養補給したいんですけど……

次回、明日投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
ああ~…、オーガ君の奇行()が、他人から見たら「イジメ」とか「複雑な家庭事情」によるものって認識になるのかもな…。 特にスポーツに興味ないタイプには。
「肩にジープ載せてんのかーい」に、ノーベル筋肉賞! 昼休みに、大量の白米と梅干1個を詰めた日の丸弁当をかきこんでいたドカベンは、遠い過去の話ですが、2000年代初頭だと、栄養学と筋トレを意識する学校…
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