87. 各球団の選択(上)
プロ野球のペナントレースが終わり、朝の空気に肌寒さを感じ始める頃、各球団が将来有望な新人を獲得するためのイベントが開催される。
『新人選手選択会議』
通称『ドラフト会議』だ。
そこで指名される中には毎年、後に球界の至宝となるような原石が何人かいて、引退後に通算成績が一番優秀な選手はその年度の『ドラフトキング』と呼ばれるようになる。
だから気の早いファンの中には、誰が今年のドラフトキングになり得るか推理し未来へ想いを馳せて楽しむ人も一定数いて、そういった話題でインターネット掲示板が賑わう事も多い。
ちなみに、時々3位や4位指名の選手がドラフトキングになる場合もあるものの、やはりと言うか複数球団から一位指名された注目選手がドラフトキングとなる場合が殆どだ。
「てなわけで、各球団が誰を指名するのか楽しみだなぁ!」
「畜生、余裕そうで羨ましいぜ」
「というか、当事者がなんでそんなにリラックスしてるんすか……」
ドラフト会議当日、俺は同じくプロ志望届けを提出したニックや匠と一緒に学校の応接室にいた。
大型テレビが設置されていて、部屋には竹中監督や冬雪先生の他、校長や取材に来たメディアの人達もいる。
ちなみに、我らがキャプテンこと細川流はプロ志望届けを出さなかった。選手としての総合力はニックにも負けていないから少々惜しい気もするが、賢明な判断だとも思う。
というのもプロの一軍ってのは『飛び抜けた何か』がないと厳しい世界らしい。
匠は肩、ニックは長打力という明確なセールスポイントがあるんだけど、細川はオールラウンダータイプだからな。
今後は真田キャプテンと同じ大学に進学し、アマチュアの最高峰である六大学野球に挑戦するそうだ。また将来は、竹中監督のように教師になって八幡に戻ってきたいとも語っていた。
そういう進路も素敵だし、応援したい。
「もうすぐ一巡目の指名が始まりますね」
「湊くんは今、何球団くらいから指名されると思っているのかな?」
記者の人達が聞いてくる。
複数球団から一位指名されるだろうという前提で聞いて来られたんだが、ちょっと返答に困るな。
だって、これで『三球団!』とか大口叩いてゼロだとちょっと恥ずかしいじゃん?
「どうでしょうかね。期待してくれる球団があれば嬉しい限りですが、今の時点ではなんとも」
と言うわけで、玉虫色の回答でお茶を濁した。
いや、一応甲子園で活躍したし、どこかは一位指名してくれるんじゃないかと期待はしてるんだよ?両投げだし150キロ投げれるし……正直、現在の投手能力は黄金世代の他の面子にだって負けて無いと思う。
だが、それを踏まえた上で俺は競合指名はされず……むしろ競合抽選クジを外した球団から『外れ一位』として指名される事になる可能性もかなり高いんじゃないかと考えている。
というのも、高卒一位はポテンシャル……つまり今後の伸び代も重要視される中で、現在の俺の体格はこんな感じだからだ。
身長:178センチ 体重:74キロ
幼少期から食事や睡眠に拘り続けた結果、前世よりも5センチほど身長が伸び、筋肉量も増えて一般的な高校生としては大柄の部類に入ることができたと自負している。
しかしそれでも、180センチ半ばのマツケンや島津、190センチ台の神子やアルベルトと比べると小柄なのだ。
それに、彼らは凄まじい潜在能力の持ち主でもある。前世、プロに入ってさらに実力を伸ばし見事に大成していたからな。
しかも最高球速なんかを見る限り、前世の同じ時期よりも今の方が若干強化されているみたいなんだよね。何故そうなったのかという理由までは分からないが。
勿論、自分だってまだまだ鍛えられる余地があると考えてはいるよ?しかし、プロスカウトが俺の事をどう評価しているかは分からない。
なお、父親が購読した複数のスポーツ新聞にざっと目を通したところだと、俺以外のメンツを評価している球団が多いようだった。
なので、あまり競合指名されるという期待はしていない。外れ一位でも待遇や契約金は変わらないらしいから、後はプロに入ってから結果で示せばいいなと考えている。
……とはいえ、心情的にはやっぱり外れ一位じゃなくて普通の一位がいいな。一球団でもいいから指名してもらえますように。
『確認が終了いたしました。これより、各球団の指名選手を読み上げてまいります』
いよいよだ。
なお、プロ野球は12の球団があって、セントラル・リーグとパシフィック・リーグに6球団づつ別れている。
二つのリーグは同格であり、指名はそのシーズンのオールスターゲームで勝ったリーグの下位チームから順に行っていく仕組みだ。なので、今年はパシフィック・リーグからだな。
『東北シルバーファルコンズ 神子大将』
先陣を切ったのは神子だった。
捕手出身の老将、山村監督率いるファルコンズはデータを用いた組織的な守備が持ち味だから、球種が多い神子が選ばれたのは納得だ。
まあ、ここは予想通り。
さて、次は千葉シーガルズだ。
ごくりと唾を飲み込む。
多分、十二球団の中で俺を一位指名してくれる可能性が最も高いのはこのチームだろう。
と言うのも、一年目の冬から俺を見に来てくれていた木庭スカウトはこのチームの人だし、本拠地である『千葉マリンスタジアム』は海の近くにあって風が強い事で有名なため、俺とは相性が良さそうだから。
と言うわけで、一位指名こいっ!こいっ!
『千葉シーガルズ 斉藤アルベルト』
あちゃー。
だめだったか、残念。結構評価してもらってると思ってたんだけどなぁ……
でも、まあ妥当か。
アルベルトはフォークとストレートが強力なピッチャーだから追い風、向かい風どちらにも適性があるし。
しかし、シーガルズがダメならマジでどこからも一位指名されない気がしてきた。せめてどこか一球団くらいは指名してくれるといいんだけど……
まあ、次の北海道ウォリアーズは期待薄だな。
ウォリアーズは、『お客さんを呼べる、人気と華のある選手』を好んで指名する傾向がある。だから前世ではアルベルトを指名して、6球団競合の末に引き当てていた。
てなわけで、今回も多分、指名するのはアルベルトだ。
過度に期待し、ずっと気を張っていてもいい事は何もないから今のうちに一旦リラックスしよう。
お茶を口に含む。
『北海道ウォリアーズ 湊鴎賀』
吹き出す。
「ごぼっ……は、鼻に入った……」
「何やってんだよ汚ねぇなぁ?!」
「というか、驚きすぎじゃないっすか」
「ごほっ……いや、まさかウォリアーズから一位指名されるとは予想外というか……」
涙目でそう言うと、周囲から『何言ってんだコイツ……』みたいな目で見られた。
え?俺の認識がおかしいの?
いやいや、そんなまさか……
でも、一位指名してもらえたことで少し欲がでてきた。もしかしたらワンチャン、もう一球団くらい指名してくれて二球団競合になったりとかもあったりして……という気持ちにもなってくる。
あるといいなあ、夢はでっかくだ。
なんて事を考えながら、他球団の発表を聞いていく。
『西武ガンマンス 湊鴎賀』
『大阪ケンタロス 湊鴎賀』
『福岡ホエールズ 湊鴎賀』
『阪神ジャガーズ 湊鴎賀』
『広島ギャラドス 松田健太郎』
『東京ラビッツ 島津隼人』
『名古屋ドラゲキン 湊鴎賀』
『神宮ゴットマーズ 湊鴎賀』
『横浜ブロッケンズ 湊鴎賀』
……もしかしてこれ、夢オチじゃないよね?
『なお、湊鴎賀選手に関しましては指名が重複いたしましたので、只今から八球団の代表による抽選を行います』




