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その野球小僧、前世知識で鍛錬中につき  作者: いのりん


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間話 英雄王のヒストリア

 ギルガメッシュ・ウルク。


 ミオスタチン関連筋肉肥大をはじめとする様々な要因が奇跡的に重なった結果、半人半神のごとき身体能力を持つに至ったスポーツの申し子。


 そんな彼はUー18野球ワールドカップの終了と同時に野球から身を引き、大学で寮生活を始める予定となっていた。


 アメリカでは、9月から新年度が始まるからであり、陸上部に所属して二年後のオリンピック出場を目指すためである。


 しかし、その前にギルガメッシュは一旦荷物を置きに自宅に立ち寄りーー今まで獲得した様々なトロフィーが飾られてある部屋に足を運んでいた。


 目的は今大会の記念メダルと、母親お手製のスクラップブックの収蔵だ。そして、次はここに置こうと予め決めていた場所にメダルを配置した彼は思う。


(うむ……目につくな)


 国際大会の栄えある銀メダルは目立っていた。


 そしてそれは、いい意味ではない。


(物凄い悪目立ちしているッ!金色に染まった室内にある唯一の『銀色』が!)


 体格、パワー、持久力……全ての面で最高水準の能力を備えており、今まであらゆるスポーツで並び立つものがいなかった彼は、『己は唯一無二の絶対王者である』というメンタリティの持ち主だ。


 故にナルシストで目立つのが大好き……褒められたものではないかもしれないが、今まではそれが技術練習に打ち込む原動力にもなっていた。


 圧倒的に勝ち、そして賞賛されるというのは彼のアイデンティティにも等しい。食事や睡眠と同じく、生きていく上で当たり前に必要とするものでもある。



 だが今回、そこに異物が混じった。


 銀メダルである。


 多くの人にとって素晴らしい成果である『二番』という称号を残す記念品。

 しかし今まで一番が当たり前だったギルガメッシュにとっては『デュフフ。でも貴方、今回は最後に負けたんですよねww』という事実を永劫突きつける呪いのアイテムに他ならない。


(くそっ!)


 猛烈な腹だだしさを感じたギルガメッシュは、一旦心を落ち着かせようと大会期間中に両親が新しく作ってくれていた『スクラップブック』を開く。


 これはギルガメッシュの活躍について書かれた新聞や雑誌等の切り抜きをルーズリーフに貼り付けファイリングした物だ。


 ちなみにギルガメッシュはこれを『原典』、近い将来に王の栄光を纏めた歴史的資料になる物だと位置付けている。


 これは彼が唯一敬愛する存在である両親がライバル不在による愛息のモチベーションの低下を懸念し、その対策として小学生の高学年の頃から作り手始めたものだ。


 そしてそれは、大当たりの方法だった。


 自己愛の強いギルガメッシュにとって、己を称賛する記事を纏めたスクラップブックを見るのは、どんな娯楽にも勝る時間である。このために様々な競技に対して熱心に取りんできたと言っても過言ではない。


 加えて言うと彼は目立つ事が好きだった。


 称賛されることはもっと好きで、さらに言うと自分という圧倒的な存在を世間に見せつける事が大好きでたまらない人物でもあった。


 ーー少なくとも、湊鴎賀の一度目の人生において、その為に陸上と水泳を選択してワールドレコードを更新してしまうくらいには。


 そして、競技毎に纏められたスクラップブックを見返すたびにニヤニヤしてから『次のノートも輝かせよう』と心機一転、新しい競技に打ち込むのが彼のルーティーンとなっていた。


 1ページ目から目を通し、次第に口元を緩めていくギルガメッシュ。スクラップブックはページを追うごとに充実した内容になって行き、最後のページが一番豪華になるのがお決まりのパターンだった。しかしーー


(最後のページ……余白が目立つ)


 今回のスクラップブック、最後のページに貼り付けられていたのは、アメリカが決勝で敗れた事が書かれた僅か数行の記事。

 あとは隅に、自分は大会MVPを逃し首位打者からも陥落したことと、敗北を伝える冷たい数字がちまっと掲載されていてーーそれだけ。


 ギルガメッシュを賞賛する記事と栄光の記録がぎゅうぎゅうに押し込められるはずだったそこに、今回ギルガメッシュを讃える文面はない。逆に、ぽっかりとした空白が目立った。


 非常に、目立った。


 画竜点睛を欠くというか龍頭蛇尾というか……まるで2クールかけて散々期待を煽ったアニメが投げっぱなしジャーマンをかました時位に『え?これで終わり?』感の漂う終わり方だった。


『……』


 言葉を失い、固まるギルガメッシュ。


 まるで彫像の様だ。


 しかしよく見ると腕はぶるぶると震え、その顔は紅潮している。なぜなら、ノートの空白が彼に嘲笑を浴びせてきたから。


 ーーお前は最後の最後でやらかしたんだ

 ーー書く価値、なし

 ーー何が英雄王だ、この負け犬め


 続いて彼が見たのは存在しない記憶。


 決勝戦で彼に苦渋を飲ませた日本人投手が、『今、どんな気持ち?ねえ、世界中継されてる中でボッコボコに負けちゃってどんな気持ち?』と左右にトントンとステップしながら煽ってくる光景だった。


 それはあるいは、『敗北』という彼にとって未知の強度ストレスにより引き起こされた妄想や幻聴の類だったかもしれない。

 しれないが、そう感じる本人にとっては現実以外の何者でもなかった。


 そしてギルガメッシュは


『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』


 激昂によって我を忘れた。





 ーーそこから先、どれくらいの時間がたっただろうか。


 ギルガメッシュがハッと我に返った時、彼は手にバットを持ったまま肩で呼吸をしていた。


 ただ、意外にも母親お手製のスクラップブック全般と今回の銀メダルだけは無事だったーーそれ以外は残らなかったとも言える。


 代わりに、部屋に並べられていた黄金のトロフィーや優勝メダルの類は全てが破砕されていた。


「うおわああ゛あ゛?!」


 いったい誰がやったのか。


 その悲しみと憤りたるや、筆舌に尽くし難い。

 まあ、自分がやった事なのだが。


 ギルガメッシュは泣いた。初めて出た大会の初戦で負けた無垢な小学一年生の様に、鼻水まで流しながら大泣きした。


 それは、『自分と比較すれば周りはすべて凡骨。対等に戦える存在などこの世には存在しないのだ』と言う驕りと諦観を洗い流すもの。

 そして、ボロボロ溢れていた涙がやっと枯れる頃ーー彼はある結論にたどり着いた。


『オーガ……ミナト……』


 泣き疲れたその声は、傲岸不遜な彼が発したとは思えぬ程小さく掠れていた。しかし、ギルガメッシュの耳はその音を拾う。


『オーガ……ミナト』


 今度の声は、もう少し大きい。その名前を決して忘れぬ様、己の脳に刻みつける。


 叫んだ。


『オーガ・ミナト!我は貴様を許さん!』


 そう、王として己に土をつけたものをこのままのさばらせて置くわけにはいかぬ。必ず報復をしてやらねばならない。


 ならば、どうする?

 どうやって、あの男に思い知らせてやる?


 決まっている。何故なら自分は、ギルガメッシュ・ウルクなのだから。


 故に他のスポーツで無双して溜飲を下げる様な陰気でみっともない真似は断じて出来ない。する気もない。


 なら、どうするのか?

 そんなの決まってる。


 世界最高峰の舞台でリベンジするのだ。


 奴はピッチャーとして大会MVPに選ばれていた。ならばこの先、投手としてプロになった奴のボールを、自分はバッターとして打って打って打ちまくってくれよう。


『彼奴に思い知らせてやる……我の方が上なのだと、骨の髄まで刻み込んでくれる……』


 そしてそれを、世界中の民衆の記憶と記録にも遺す。

 溜飲を下げる方法は、これしかない。


 決意を胸に、ギルガメッシュは吠えた。


『メジャーリーグでリベンジだ!首を洗って待っていろ、オーガ・ミナト!!』


 この日、陸上部を辞めて野球を続ける事を両親に伝えたギルガメッシュ・ウルク。


 彼が大学在学中にドラフト一位指名されてそのままメジャーリーグに入団し、ルーキーながら年間80本塁打の新記録を樹立するのは、これから僅か四年後のことである。

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― 新着の感想 ―
???「フッ…。我と同じ名を持つ雑種よ、その程度で激昂するとは未熟よな。王とは、慢心した上でなお頂に立つ者のこと。凡夫どもに覇道を乱される時点でその器に足らぬものと知れ。  とは言え、子どもには過ぎた…
半神半人のギルガメッシュも、これで人間として成長できたようで何より?
さようなら さようならデカスリート ギルガメッシュ そしてハッピーバースデー ベースボーラー ギルガメッシュ
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