65. 王太子の駆引
長かった夏も、もうすぐ終わる。
試合は最終盤へと差し掛かっていた。
「フォークボールで三振を奪い、この回も三人で攻撃終了!湊、2失点13奪三振という堂々たる成績で九回を投げ抜きました」
「与四球、被安打共に一つだけという素晴らしいピッチングでしたね。バックスクリーン直撃の本塁打こそ打たれましたが、あれはもう、打った斉藤くんを褒めるしかない」
「そんなエースの力投に応えることができるか。現在スコアは2-0、八幡高校が九回裏の攻撃に向かいます」
では、ここで一度試合のハイライトをというアナウンサーの言葉で画面が切り替わる。
それは、アルベルトがホームランを打った場面と、ランナーを背負いながらも後続を打ち取る場面だった。
「斎藤はここまで八回無失点。少ない球種で八幡の強力打線を押さえられる秘訣は何なのでしょうか?」
「単純に高校生離れした球速が一番の理由ですが、他にも複数の要因が絡んでいますね。一つは『トルネード投法のタイミングの取りづらさ』、後は『角度』や『首振り』にも注目して頂けると面白いかもしれません」
「角度と首振りとは、どういう事でしょうか?」
「まず『角度』ですが、190センチ近い長身で手足も長い斎藤君がオーバースローで投げることで普通の投手よりもボールがかなり上から来る様になります。これが、球の威力をさらに増幅させているのでしょう」
そう、アルベルトのボールリリースポイントは、湊よりも『13センチ』も高い。僅か13センチと思う人もいるかもしれないが、これは相当なアドバンテージである。
1969年、投高打低の是正を目的として野球のマウンドはそれまでよりも低くなった。投手の利用できる位置エネルギー量を抑制し、ボールの威力を落とすためだ。
そして、その時変更された高さというのが.....約『13センチ』なのである。
「次に首振りですが、斉藤くんは球種が少ない割に、サイン交換の際首を振る事が多い。滅多に首を振らない湊くんとは対照的です」
「つまり、『捕手となかなか意見が一致していない』ということでしょうか?」
「いえ、恐らく『首を振るサイン』を作っています」
「く、首を振るサイン!?」
なんでまたそんなサインを?というアナウンサーに越後はこう答える。
一つはダミーの首振りにより打者に打席内で色々と考えさせる為。しかし、真の理由はーー
「おそらくですが、斉藤くんは『打者の力量や狙い球を察知する能力』も非常に高いタイプです。一方で捕手は春からコンバートされた元内野手。肩の強さとフォークボールを止めるブロッキング能力は高いものの、甲子園レベルの配球を組み立てるには少々経験が足りません」
なので、リードについては実は斉藤くん主導で行っていると考えられます、と越後。
そう、二人の超高校級を擁する春の王者熊大苫小牧を撃破し、八幡をここまで無失点に抑えている最大の秘訣はここにあった。
成長痛で満足にトレーニングが出来ない期間中、野球というスポーツについて深く学びんだアルベルト。
そこに『優れた客観視』、『性格把握』、『微表情察知』という特殊能力を加味してどの球を使うか決めることにより、要所要所で打撃陣の狙いを外してきたのである。
「捕手はセオリー通りの配球でしかサインを出しておらず、狙いを外して裏を書くためにパターンを崩す時は斉藤君が首振りで対応。ただ、それだけだと配球を読まれてしまうのでダミーの首振りを入れる事で読めなくしているというわけですね」
「はー!よく考えられていますね。」
そんな難敵を前に、八幡は現在二点ビハインド。
残る攻撃チャンスは……一回のみ。




