【魔術師】なんて羨まし過ぎてやってられないよ
小高い丘に上がると、もう眼下には大きな城塞都市が見下ろせる位置にあった。
長安。今回のたびの目的地だ。
十二日間長い道のりだったが、今日中には到着できそうだ。
十日で着く予定だったが、途中、ゴブリンに襲われる事件があり、その際に亡くなった者たちを葬る為に日にちを割いた結果、遅くなったのだった。
そこからは平坦な道を行き、特に何事もなく城門にたどり着いた。その頃には昼を過ぎて西に日が落ちかけていた。
城門では、衛兵が厳しい顔つきで荷物チェックを行っている。大都市ともなると検問も厳しいのだろう。
「通行許可証なんてないぜ。でもよ、オレッちは兄様を探しに来たんだ。だから通してもらうぜ」
門の通行を待つ行列の先でなにやら揉めているようだ。
どこかで聞いたような声だった。いや、あれは間違いなく董戎だ。あんなバカそうなしゃべり方の人間を僕は他に知らない。
僕を探してここ、長安までやってきたらしい。ここからは遠くて姿は見えないので、単身なのかどうかまでは分からないけど、多分無謀にも一人でやって来たのだろう。
声のする方へ衛兵が集まっていっている。どうやら暴れだしそうな雰囲気なのだろう。アイツは無理やりにでも城門を突破して行きそうだ。僕がここにいることを知らせる事ができれば、無用な騒ぎを起こさせないで済むばかりか、この囚われの状況を打開できるかもしれない。
「余計な事は考えないことだよね。もし逃げたら、お前が気に入っているあの娘を殺すからねぇ」
いつの間にそこにいたのか、周豊が僕の背後に立っていた。
あの女とはもちろん、羊聖の事を言っているのだろう。そう言われてしまうと、僕も迂闊に動けない。短い付き合いだけれど、世界一優しい彼女を放って逃げるようなマネは僕にはできない。
「くくくく、やはりねぇ。あの娘に情が移ったようですね。その両手にかけた錠よりも重たい枷を自らつけてしまうなんて、度し難い阿呆ですよ。貴方」
色めき立っていた城門付近もどうやら落ち着きを取り戻していた。董戎が城門を通れないまま引き下がるなんてことはまず無いから、きっと何か穏便に済むように事態が運んだのだろう。
僕がここで董戎によって助け出される道は無くなった訳だ。でも、城内に居ればいつか董戎に接触する機会もあるだろう。その時を待つしかない。
董戎が長安に居れば、いつか接触して助けてもらう事ができるだろう。そう思っていた僕は甘かったのだと痛感せざる終えなかった。
なにしろ、長安は大都市。
さすがは中華第二の都市だけあって、往来には人が多かった。大きな荷物を積んだ馬車に揺られる者。甲冑を着こんで歩く者。二人連れでなにやら話しながら歩を進める者。異国風の衣装を着た者など実にさまざまな格好をした人々が行きかっている。
話に聞くと人口は十万を超えているらしい。
そんな中でたった一人を見つけるなんて容易な事ではない。それに、僕は奴隷の身、自由に人探しなどできるような身分ではない。向こうが探し出してくれるのをただ待つことしかできないのだ。
そうこうしているうちに数日が過ぎた。
周豊 一家は無事、長安で古い屋敷を借りることができ、そこを根城にして活動を始めていくことにしたらしい。
僕の仕事は、まずこの屋敷の掃除から始まった。
唯一生き残った、奴隷仲間であり同僚の先輩、羊聖と二人で協力して隅々までキレイにしてやった。集めたゴミは、僕の『収納術』で袋にまとめ、ゴミ捨て場に捨てるので非常に効率はよかった。ちなみに、『収納術』はレベルが2に上がり、容量は4倍になり、重量は4分の1になった。
『周商会』。屋敷の門にはそんな看板が掲げられる。
「今日は、我が『周商会』発足の日。すなわち、創立記念日です。ここから、世界に名を轟かせる大組織になっていくのです。みなさん、張り切って行きましょうねぇ」
満面の笑顔で周豊は自身が創り出した看板を眺め、悦に入っている。
「「はい。お頭」」
「だから、お頭、は止めなさい、と言って……」
通りを歩く、小太りな少年。周豊が言葉を切った視線の先だ。彼は少年を目にすると、ぼんやりと動きを止めてしまった。
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?? 10歳6ヶ月 男
LV 15
身長:143cm 体重:35kg
体力:60/60 腕力:23 すばやさ:33
戦闘技能:なし 知力:85 統率力:23
出身地:司隷馮翊郡郃陽県
適正職業:【魔術師】
スキル:『炎魔法LV4』 『水魔法LV2』 『雷魔法LV3』 『風魔法LV3』『土魔法LV2』『植物魔法LV1』『使い魔LV3』
装備:とんがり帽子(4000銭)・ローブ(6000銭)・服(2000銭)・ズボン(3000銭)・杖(4000銭)・皮袋(2000銭)
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気になって『値踏み』を発動してみたところ、驚いた事に転生者だった。
それも適正が【魔術師】。スキルには魔法の系統がズラリと並んでいて、おまけに使い魔まで使役できるようだ。ちなみに使い魔とは、魔法使いが連れている動物である。それも通常、ただのペットではなく、世界観によってさまざまな能力を付与されているケースが多い。ああ、羨まし過ぎて涎が出る。
とんがり帽子とフード付きの黒いローブなんかかぶって杖まで持っている。あえてそれっぽい姿をしているのが腹立つ。その姿はこの世界では当然浮いていたのだから、彼は当然その姿に酔っているのだろう。
ぽかんと口を開けて少年を眺める僕に語りかける男がいた。
「そうでしたね。貴方には分かるんですねぇ。『値踏み』を使ったんでしょう? あいつは私が前々から目をつけていた男。やはり、転生者だったんですねぇ。そうでしょう」
周豊にうなづく。と彼は上機嫌で部下に何事かを指示する。部下は少年の歩いていった方向に着いていくようだ。居場所を突き止めるつもりだろう。
転生者は全員同じ年の同じ日に生まれているのだそう。だから、同年代で、普通とは違った子供を見つければ、それが転生者である可能性が高いのだ。周豊は乗っ取った盗賊団の情報網で、近隣のめぼしい子供の情報を探っていたのだという。
「探し出して彼をどうするつもり?」
「それはもちろん。私の奴隷にする。それしかないでしょう」
こいつには仲間にする、という発想がないようだな。前世でも絶対に友達いなかった奴だ。僕だってそう多くはなかったけどね。




