これがゲームだなんてやってられないよ
「かぁっ。まぁた君だよ。第一号かと思ったら第二号も君だよ。どれだけ死ぬのが好きなんだい?」
童子が笑いながら僕を見下ろしている。哪吒 (なた)だった。
どうやら僕はまた死んだらしい。僕の下敷きになった羊聖の涙がいつまでも流れることなく顔に残っている。これは肉体再生による例の時間停止が起きているということだろう。
「死にたくて死んだ訳じゃあないよ。生き残れないから死んだんだ」
はははと大笑して、哪吒 (なた)は「それはそうだろうね」と真顔で言った。
「では、なぜ、死にたくないのに死んでしまうのか。生き残れないのか。どうしてだい?」
「そんなの決まっている。僕の適正職業が戦闘向きじゃあないからだ。こんな暴力だらけの世界で使えるスキルがひとつも無いからだよ。【商人】がどうやって戦乱の世で輝けるんだよ。チート級のスキルがあれば簡単に死ななかっただろうし、痛い目にも遭わずに済んだんだ」
僕の言葉を黙って聞いていた哪吒 (なた)はだんだんと冷えた目つきになっていた。その口元はそれでもまだ笑いを湛えていたのだけれど、それが返って不気味に感じた。
「ふぅん。そうかい。それは君がそのスキルを使わず。伸ばさず。ないがしろにしていた結果じゃあないかな? 概して君は自身を過小評価する向きがあるね。そこはいずれ直しておいた方がいいよ。でも、まあ、死ぬのも案外悪い事じゃあないよ」
「なんにもいい事じゃないだろ? 痛いし、苦しいし、悔しいよ。それにデスペナルティはないのかい?」
これがゲームなら、死んだことで何かペナルティを受けても文句は言えない。
「デスペナなんて無いよ。今はね。だから、現時点では死ぬ事はとってもいいことなんだよね。なぜかって? だって、僕と会えるんだから」
「ああ、ああ。神様とこうしてお話しできるんだからね。これほどありがたい事はないかもしれないね」
転生なんてしなくてよかったと思えるほどにはこの境遇に不満を持っていた。だから、こんな境遇を押し付けたのであろう神様に対しても当然僕は少なからず怒っていた。
「下手な皮肉だね。でもそんなことじゃあない。このゲームの主催者の一人である僕に会う事で他のプレイヤーよりも早くこのゲームのルールを知る事ができる」
「ゲームだって?」
「ああ、怒らないで聞いてよ。ゲームってのは言葉のあやだよ。あくまでこれは現実。あるルールに則った世界征服大会の選手なんだよ。君は」
「だから、この間も言ったけど、世界征服なんて馬鹿げて……」
「まあ、それより。君は【商人】のスキルが気に入らないようだ。だったら。他のプレイヤーからスキルを奪ってしまえばいい。倒して、奪って、いただき。それもルールの一つだよ。まあ、君の場合はそれ以外にもやりようはあるんだけどね」
再び時間が動き、羊聖の涙はようやく地面に落ちる事を許された。
「董真様?」
傷一つ負っていない身体を起こした僕に驚愕の目を向ける少女に僕は笑いかける。もしかしたらひきつった笑顔になってしまっていたかもしれない。
「無事かい?」
「え、ええ董真様がかばってくだっさったお陰で……。どうして董真は無傷でいらっしゃるのですか? たしかにあのゴンブリとかいう生き物に頭を割られてなさったとおもったのですが。やはり貴方様は聖人?」
一応訂正しておくが、ゴブリンだ。
「当たり所がよかったみたいだね」
「いっぱい血が流れておりましたが、董真様はとっても傷の治りが早いのですね。ね」
説明には多分に無理があったが、彼女はそれ以上は詮索してこなかった。




