彼女が優しすぎてやってられないよ
羊聖と他に3人の奴隷は最前列を歩かされた。急に野盗などに襲われた時の矢避けになるらしい。
一方、腰紐を付けられて馬車に繋がれた僕は、集団の中央近くを歩かされる。僕を繋ぐ馬車には周豊が乗っている。一見、隊商のように見えるこの集団は、周豊を中心としたおよそ50人ほどで構成されていた。
行き先は長安。中華でも屈指の大都市だ。
危険な道中を盾となって歩かされる彼女と離れ離れになってしまうのは心配だった。
「不思議かい? どうして子供であるこの僕が、この群れを率いているかが」
馬車の後部座席から周豊が声をかけてくる。
僕は無言だった。なぜならあまり気になっていなかったからだ。
「まあ、それほど難しい話ではないよ。私の能力は見ての通りだよ。近代文明の兵器を扱える。それはこの世界では絶対的な力だよね。貧しい家に生まれた僕は、一人で動ける年になると、山賊の集落に向かった。そして、スキルで生成した武器でそこの頭を殺し、見せしめにしてやったんだよね」
さも自慢げに腕を組む。
「後は簡単だ、私の力、文明の利器に恐れをなした集落を手に入れてそこのボスになったって訳さ。そこを拠点にして情報収集を行った。この世界の事をもっとよく知るためにね。そして、近くに転生者である君らを見つけたんだよねえ」
この広い世界のなかで、こんなに近くに僕と董戎、それにこの周豊。三人も転生者がいるなんて。いったいこの世界にはどれほどの転生者がいるというのだろう。こんな異能力者がうようよいるだなんて考えると恐ろしい。
長安に向かう道中、周豊はいろいろな事を僕に語りかけた。
警官をやっていたという前世での話やこの世界に生まれてからの10年ほどの話。
よくしゃべる男だった。聞いてもいないのに、前世での自分のやらかした悪事や武勇伝を語り、この世界での苦労話や自慢のスキルについてなどなんでもとにかくしゃべった。
聞けば聞くほどこの男の事が嫌いなる。そんなエピソードばかりだったが、僕はいつかこの男を打倒したいと願っていたので、我慢して作り笑いを浮かべる努力をし、情報を引き出すことにした。この程度の世渡りスキルは前世ですでに体得済みだ。その甲斐あって、ある程度奴のスキルの詳細と戦力を把握できるようになっていた。
適正職は【クリエイター】。絵に描いたようなチート能力で、彼が前世、および現世で触れた物で且つだいたいの用途や構造を把握している物を作り出すことができる能力―――『アイテムクリエイト』を主なスキル構成としている。他には『改良』や『修理』『分解』などがあるそうだ。
非常に便利なスキルばかりだ。特に羨ましいのはやはり『アイテムクリエイト』だが、無尽蔵にアイテムを創り出せるというものではないらしい。この能力には対価が必要でそれは、同価値の物、または金銭だという。それがどういう価値基準なのかまでは、スキル所持者ではない僕には知りようは無いけど、この文明の未発達な世界では非常に強力な能力になるだろう。
周豊が僕を手元に置いておきたい理由はこれで大体予想がついた。僕の【商人】関連のスキルでお金を稼がせて儲けたいのだ。そして、その金で自分の欲しいものを『アイテムクリエイト』で創り出したいというところだろう。嬉しくないことに、彼の能力と僕のスキルはとても相性が良いようだ。
それからもう一つ、彼の話で有用な情報があった。
スキルにはスキルレベルがあり、それは使用する事で伸ばす事ができるという事。また、使用しているうちに別のスキルに変化したり、新たなスキルを覚える事もあるという。
僕はこれまで、【商人】という適正職業もその関連スキルもこの世界においてほとんど役立たずだと思っていた。だから、そのスキルも『値踏み』を気まぐれに使ってみるくらいで、他はめったに使う事もなかった。世に出て行くとするなら儒学や歴史、戦略などを学んで生かす職業、いわゆる文官を目指すつもりでいた。つまり、自分に与えられた能力を軽視していたのだ。
『値踏みLV1』、『値切りLV1』、『収納術LV1』、う~ん、改めて確認してみてもパッとしない。というか、情けなさすら感じる。『収納術LV1』ってなんだよ。片付けの魔法かよ。使った事もないよ。これから得られる新スキルもあまり期待できない気がする。『販売LV1』とかだったりしたら、全然いらない。
大都市長安までは10日程の距離。その間、僕は大してできる事もないので、スキルを練習することにした。
とはいっても、『値切りLV1』は相手と品物が必要なのであまり使えない。『値踏みLV1』でとにかくいろいろな相手を値踏みしてやった。
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周豊 10歳 男
LV 20
身長:133cm 体重:29kg
体力:60/60 腕力:12 すばやさ:46
戦闘技能:なし 知力:74
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これまで『値踏みLV1』で分かったのはこの程度の情報量だったが、
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周豊 10歳6ヶ月 男
LV 20
身長:133cm 体重:29kg
体力:60/60 腕力:12 すばやさ:46
戦闘技能:なし 知力:74 統率力:66
出身地:涼州隴西郡臨洮県王家磨村
適正職業:【クリエイター】
スキル:『アイテムクリエイトLV12』 『改良LV2』 『修理LV3』 『分解LV4』
装備:外套(18000銭)・服(2500銭)・防刃ベスト(35000銭)・ズボン(6000銭)・ネックレス(12000銭)・???・???
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『値踏みLV3』になってからこのように情報量が増えた。あと、そこらにある石や木や花の名やその価値などの情報もとれるようになっている。
あと、意外だったのは『収納術LV1』で、使ってみると非常に便利だった。何の変哲も無い袋や箱を僕が使用すると2倍の収納スペースを持つようになるのだ。袋の中にある種の異空間を発生させることができるようだ。また、その袋に入れた物の重量も半分になる。ただしこれには大きな欠点がある。一度そのスキルを使用した入れ物は中の物を取り出せるのが僕だけになるのだ。他の誰かがその袋を使用することは不可能になる。物を入れる用途にすら使えなくなってしまうのだ。
いろいろと試しているうちに一行は長安への道のりの八割を消化していた。
「董真様。だ、大丈夫ですか? 生まれた町を出るのはこれが初めてだって聞きましたよ。疲れてはないですかね。ね」
昼食の休憩時間に羊聖と話をする機会があった。彼女は道のりの間もあまり休む間は無く、飯炊きや薪集めや他の者の洗濯などいつだって用事を言いつけられて忙しそうにしていたので、この隊商が出発してから始めて会話する事になる。
自分の方が僕なんかよりよほど疲れているだろうに、まだほんの子供だというのに、なんと気遣いのできる優しい子だろうか。そんな彼女だから余計に仕事を言いつけられるのかもしれない。
「うん。だ、大丈夫。それより君の方が大変そうだ。ご飯はちゃんと食べられているのかい?」
「はい。お腹いっぱいいただきましたよ。よ。私なんかにそんな優しい言葉をかけて下さるなんて、董真様は聖者様ですか?」
そういう彼女のお腹は、嘘だと主張するかのようにぐうと鳴いている。身体は嘘をつかないものだ。
与えられた握り飯を一つ分けてやった。
「同じ奴隷なんだから、様、なんてつけなくていいよ」
断じて奴隷の身分に甘んじるつもりはないが、彼女の手前、そう言っておくことにした。
今思えば、出発の日に彼女が作ってくれていた朝食。あのとき以来、あの朝食以上の量の食事にありついた記憶が無い。あれはきっと二人分だったのだろう。彼女が自分の物を僕に与えてくれていたのだ。僕みたいな者が聖者ならば、君は菩薩か女神か?
「いえいえそうはいきませんよ。よ。なにしろ、聖はもうかれこれ十年くらい奴隷をやっているのですよ。董真様とは年季が違います。筋金入りの奴隷なのですよ。よ」
なぜか、えへん、と腰に手を当てて得意げにしている。
「君はいくつだ?」
「それは誰にも分かりませんよ。でも、多分、だいたいほんわりと十年くらいは生きていると思われるのですよ。あと、女の子に年齢を聞いてはいけないのですよ。よ」
生まれてこのかた奴隷として生きてきたということだろう。別にそれ自体は珍しいことではないが、どうして彼女はこんなに明るく優しく振舞えるのだろう。
家にいた奴隷達は扱いが良かったせいか、そんなことはなかったが、この集団の奴隷への扱いは特に悪い。彼女以外の奴隷達は誰も彼も生気の無い目をして陰気だった。こんな環境でどうしたら彼女のようないい子が生まれるのだろうか。
「それはきっと姉のお陰なのです。昔、離れ離れになったきりどこにいるのかわからなくなってしまいましたけど、姉はいつだって誰にだって親切でした。私も同じようになりたいと思ったのですよ」
遠くから羊聖を呼ぶ声がする。
もう仕事に戻らなければならないようだ。彼女は最後に一口残った握り飯のかけらを慌てて口に放り込むと立ち上がった。
「ありがとうございます。董真様。私なんかの話を聞いて下さって」
と、走って行ってしまった。




