盗品の所有者なんてやってられないよ
ユリリンは男の布団の足元にしばらく寝転んでいたが、ムクリと起きだすとゆっくりと机に近づいた。鞄は猫が楽に2、3匹入れる大きさがあったが、重量は軽い。どうにか咥えて運び出す事ができた。
部屋の外から扉が開けられる。そこにはスライムのスラっちがいた。猫では開けられない扉を開けに来たのだ。二匹は砦内を悠々と出口に向かう。誰も咎める者はいない。
「おかえり。ユリリン。スラっち。ありがとう。大手柄だよ」
砦の外に出てきた有能な二体のお供から鞄を受け取り、その労をねぎらった。お陰で戦いにならずに済んだ。
「なんだ。飼い主がいたのか。それにまだ子供」
ユリリンに餌を与えてくれた男が眠たそうな顔で立っていた。どうやら、ユリリンの後を付けてきたらしい。男は手に長柄の武器を手にしていた。柄の先にあったのは斧。それは巨大な戦斧だった。
「俺は徐晃。猫好きに悪人はいない。お友達になりたいな。だがな、その前にその鞄。返してもらおうかな。一応、上司にもらったモンなんでな」
そう言って手のひらをこちらに開いた。
「これはもともと兄様のモンだろうが。お友達なら間に合ってんだ。帰って寝てろ」
僕の前にズイと出てきたのは槍を持った董戎だった。二人は腰を落とし戦闘体勢に移っている。
「へえ。盗まれた持ち主って訳だ。わざわざ取り返しに来たっての? おもしれえ」
「そうだよ。この鞄は僕のだ。返してもらうのはこっちの方なんだよ」
「でも。元持ち主だ。そうだろ?」
「それは貴方もでしょ」
「くくく、違いない。鞄はお前の手にある。楊奉さんに失くした事がバレたら面倒だから悪いけどやっぱ、こっちにもらうぜ」
巨大な戦斧をバトンのようにクルクルと回しながら近づく男。回すたびにヒュウヒュウと風が鳴いた。凄い膂力だ。
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徐晃 18歳 男
LV 30
身長:176cm 体重69kg
体力:485/485 腕力:144 すばやさ:78 知力:61
戦闘技能:戦斧術:122 剣術:98 拳闘:55 槍術:64
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『値踏み』を使って能力値を確認した僕は目を疑った。なぜなら、この男のパラメータは先日戦ったオーガのオーちゃんよりも高かったからだ。
徐栄もそうだったが、この男は転生者でもないのに上位の魔物を凌駕する能力を持っている。意外とそんな人はゴロゴロいるのだろうか。
「うわっ。なんだコイツ。けっこう強いじゃねえか」
「それはこっちの言う事だ。俺とまともに打ち合える人間に会うのは久しぶりだ。何者だ。お前達。ただの猫好きじゃねえだろ」
斧と槍が交錯し、激しく金属がぶつかり合う音が夜の闇に響く。何十合も打ち合っても勝負はつかない。
まずいな。砦の方が騒がしくなり始めている。こう騒いでいたらさすがに気づかれるのも無理ないだろう。早めにこの場を立ち去らないと囲まれてしまう。
「僕らは董卓将軍の孫で、董真という。命令で徐栄将軍と一緒に洛陽に向かっているところだよ。もうすぐ将軍もここに来てくれる」
当然ハッタリだ。黙って出てきた僕らに増援なんてありえない。
「董卓だって? 只者ではないと思ってはいたけど。そんな大物の名前が出るとは思っていなかったな。じゃあ、官軍が攻めてくるってのか?」
「そうだよ」
「嘘だろ」
嘘だけど。
「本当だったら?」
「……」
疑っていても否定はできないだろう。
「将軍が本気なら白波賊の壊滅だってできるよ」
「でもできてない」
いくら打ち合ってもやはり二人の間に勝ち負けは生まれなかった。
「あなたはなんでそんなに強いのに盗賊なんてやっているんだい?」
「俺が盗賊をやっていることについては余計なお世話だけど、まあ、ある人に恩があるからやってる。それだけだ」
「盗賊を辞めて僕らと一緒に来て欲しいと頼んだら?」
猫好きには悪人はいない、ではないけど、さっきからこの徐晃の行動や話している態度を見ていると、どうにも悪党をやる男には思えない。仲間になってくれるなら頼もしい。
「それは断る。まだ俺はその人に恩を返しきれていないからな」
「そうか、残念だよ。じゃあ、恩返しができたら、また考えて欲しい。あと、この鞄なんだけど、これは僕にしか開けられないし使えないんだ。君が持っていてもなんの得にもならない。だから、今回は見逃してもらえないかな?」
「……」
どうも迷っているようだ。鞄が開けられなかったのは事実で、彼もそれを知っている。中身の使えない鞄なんか無用の長物だろう。
僕はその鞄から、クロスボウとナイフを取り出して見せた。
両方とも周豊が作り出した近代兵器だ。軽くて丈夫、使いやすく威力もこの時代の物より数段高い。
「お友達の印にコレを受け取ってくれ」
これまで開く事もできなかった鞄を僕が簡単に開けたからか、取り出された物の大きさが入れ物に釣り合わないせいか、それとも出された物の異質さからか、その全部のせいか、徐晃は手渡された武器を持ってあっけに取られているようだった。
「これは……」
「贈り物だよ。徐晃さん」
彼の顔が強張り、警戒の色を強めた。
「な、なんで俺の名を知っている?」
そういえば名乗られてなかったな。
「なんでだろうね」
ニヤリと笑いかける。
「妙なガキだぜ」
「貴方だってまだ若いだろ? 若く見られるのが嫌だから髭を剃らないのかな」
「!?」
「じゃあ。考えておいてよ」
僕らが背を向けて立ち去ろうとしても徐晃は追って来ようとはしなかった。
「ああ、またな」
いつのまにか空は白みかけている。




