盗賊の砦なんてやってられないよ
北の山、盗賊どものアジトは意外とすぐに分かった。賊のくせに豪胆にも砦のような建物を建て、夜間にも篝火を焚いていたのだ。
あまりの勢力に政府も無視を決め込んでいるそうなので、好き放題にやっているのだろう。
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白波賊の砦 LV18
防御力:2245/2245
人口:1327人
木造 平屋 物見櫓LV5
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せんさんびゃく!!?
全てが戦闘要員ではないにしてもかなりの人数。ちょっとした町じゃないか。
騒ぎを起こせば即終了だと思っておいた方がいいな。
今の僕の戦力だが、メインで使っていた鞄は盗まれてしまったが、予備の小さな袋がある。そこに入れていた物が今の僕の全てなのだが、それではとても心もとない。
武器になるような物は剣が一振りと盾。槍とクロスボウが一揃い。そして、魔法発動用に道中で川の水を汲んでたっぷりと入れた。
あとは、戦力とは言いにくいが、使い魔のユリリンがついて来てくれている。
一対一の戦闘であれば十分な装備だけれど下手をすれば何十人も相手をするかもしれない。これでは戦力不足と言わざるを得ない。
「これは、結構厳重に見張りがおるな。おまけに物見櫓まである。ここから出て行けばすぐに見つかってまうで。どうする?」
「兄様。水臭いぜ。俺っちを置いて行くなんてよ」
部屋で寝ていたはずの董戎、李霊が隣にいた。
「付いて来たのか。危険だぞ」
「ここからか弱い女の子が町に帰るのも危険やろ。まずは、君の使い魔で中の様子を探らせてや。様子が分かったら、私が見張りを黙らせるで」
と、か弱い女の子本人が言った。か弱い女の子は見張りを黙らせたりはできない。
「見張りを倒したら、俺っちが突撃するんだな。任せろ」
腕を回す董戎の鼻息は荒い。
「アホか。あんたは。それじゃ見張りを黙らせる意味がないやないか。潜入して鞄を探す。見つけたら速やかに撤退。それでええやろ?」
最後の方は僕に向かって確認していたので、うなづいて同意を示した。
「お願い。ユリリン」
ユリリンを暗闇に放つと砦の中に潜入させた。そうして僕は座り込み、目をつぶる。
意識を集中させると、頭の中に映像が浮かぶ。
それは、ユリリンが今見ている景色だ。『使い魔』のスキルで使い魔にした生き物とは、感覚を共有する事ができる。
時刻はおおよそ午前一時ごろで、砦の内部はしんと静まり返っていた。猫の身なので扉を開けることはできないが、この建物には幸い扉はあまり取り付けられていない。
室内では雑魚寝した男どもが折り重なっているのが見える。酒をあおったうえで寝てしまったのだろう。
自分達がどこぞの勢力に攻められるとはあまり考えていないのか、見張りは一応いるが、数は多くないし士気も高くないように見える。
これならコッソリ入って目的を果たして逃げ出すこともできるかもしれない。
僕の鞄があるとすれば人々から奪った物をまとめて保管しておく場所、つまり宝物庫のような場所だろうか。そうなるときっとこの砦の頭領の部屋に近いだろう。だから、この砦の最奥ということになるだろう。
砦の外にこそ見張りはいたが、中には一人もいなかった。そもそもここの見張りは、軍隊が攻めて来る事を想定しての見張りだろう。賊の砦に盗みに入ったりする人間は普通いないから、少人数で忍び込んで来る人間の事を考えて配置してないようだ。これは僕らにしてみれば好都合だ。
ユリリンは誰にも見つかることなく砦の奥に辿り着いた。奥の方の部屋には扉がついているものが多く、あまり中を覗けるところはなかったが、明らかに他と違う作りになった扉を持つ部屋があった。頭領の部屋だろうか。この辺りに宝物庫があると思われるが。
「うん、猫か。こんなところに餌はないぞ。俺の部屋に来るか?」
背後から急に話し掛けられたのでユリリンは飛び上がった。
「悪い悪い。びっくりさせたな」
そこには笑顔の男が立っていた。若いが薄く口ひげを蓄えている。寝起きのようで硬そうな毛髪を持つ頭は寝癖だらけだ。手をこいこいという風に振って、近くの部屋に入っていく。
招きに応じて入るようにユリリンにお願いした。
部屋は広くは無いがそれなりに整理されていた。男は入り口付近にあったろうそくに火を灯し、棚から平たい箱を取り出すと地面に置き、そこに干し魚を入れる。そうしてユリリンに食べるように勧める。男は猫好きなのか、終始ニコニコを顔に貼り付けている。
「おお、おおよく食べるな。なでてもいいか? 怒らないよな」
と言いつつ、背中を撫でられる。ユリリンからは不快な感覚が伝わってくる。今僕はユリリンと視覚だけでなくその他の感覚も共有している。猫は食事中に撫でられるのが嫌いだ。ユリリンもそれは例外じゃなかったようだ。でも、それを受け入れてくれているのは僕のためだろう。
それなりにお腹が満たされてきたので、ユリリンが顔を上げて室内を見回した。改めて室内を確認する。さっき箱を取り出した棚があり、その隣に小さな机と椅子。棚と机の間には大きな長柄の武器らしき物が立てかけられている。柄の先は袋が被せられているので槍なのか矛なのかよく分からない。
そして、机の上には蒼い鞄が置いてあった。それは僕の鞄で間違いない。
「あの鞄が気になるのか? そうだな不思議な鞄だもんな。お前には分かるか。手下どもが町で盗んで来た物みたいだけど、使い方が分からないからって楊奉さんが俺にくれたんだよな。でも、不思議な事に袋に手を突っ込めない。なんだろうなコレ」
食べ終わって空になった箱に今度は水を汲んで再び床に置いてくれる。男はろうそくの火を消し、眠たそうにあくびをすると、敷かれていた布団に寝転んだ。
「俺も寝なおすわ。おやすみ。お前、ここが気に入ったなら、明日もご飯をやるぞ」




