冒険者ギルド長なんてやってらないよ
決して狭くは無い部屋だったが、その男がいるだけで窮屈に感じた。それは単に男のサイズが大きかったからというだけではない。むしろ大きく感じるのはその存在感の方だ。
茶と軽い菓子を机に並べ、僕ら三人は座っていた。
「久しいな。真。貴様とは二年ぶりか。大きくなったのう」
男から発せられたそれは意外な言葉だった。
「おじい様。お久しゅうございます。先日、誘拐された後にちらとお会いしたのを除けば、おじい様とこうしてゆっくりお話するのはもう五年ぶりになります」
奴隷にされていた僕が助け出された時に少しばかり面談した。その折は形式ばかりの挨拶程度を交わしただけだった。
「おお、そうか。もうそれほど前のことになるか。大きくもなるのう。ひょろひょろでどうしようもなかったお前が今ではなかなかの体格ではないか」
なんと、褒められた。
「身体を鍛えだしたのはここ一年ほどなので、つい最近まではひょろひょろでした。少しは見違えたでしょうか」
「そうかそうか。それはよかった。父親のような詩的なだけで見所の無い男になってもらっては困るからのう。これからも励め」
その巨体を大きな椅子に預けているのは董卓。僕の祖父だ。
西方で異民族とやり合って鍛え上げられた筋肉はその衣装を破かんばかりに発達し主張している。蓄えた虎のような髭も厳しい印象をより強く見せるのに一役買っていた。怒張した頭髪も幅広い鼻筋も、男の全てが見る者を萎縮させる為に存在しているようであった。
父は彼の不興を買って分家に落とされた。背いた男の子であることからか、昔会った時の董卓の態度は今とは比べ物にならないくらいに傲慢でかつ横柄だった。父と僕ら兄弟を貶めることに全力を注いでいたようでもあった。
もとはと言えば、父、董邈が西羌族の討伐に従軍させられる事を拒んだ為でもある。父は優しく、およそ戦争で一軍を指揮するような人柄ではない。草花と書物を愛する詩人だった。西方でブイブイ言わせていた生粋の軍人である祖父からしたら、そこが面白くなかったのだ。
そして、同じく書物ばかり読んで弓一つ引こうともしない僕に対してもいい印象は持っていなかったのだろう。
「じっちゃん。真がいい物持って来たから、見てやって」
「白ちゃ~ん。そうなのかぃ。おお、真、なんだ。見せてみろ」
その露骨な態度の変化をやめい!
さっきまで、威圧の権化のようであった男とは思えない猫なで声が気持ち悪いぞ。
そんな気持ちを押し殺して僕は、懐からあるものを取り出した。それは、毛皮の外套。
「これは、雪男の毛皮を加工した外套です。保温性はもちろん。冷気を通さず、また刃も防いでくれます」
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雪男の外套 レア度 3
重量:3.4kg
防御力:56
特殊効果:耐冷気
販売目安価格:150000銭
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数体分の雪男の毛皮をなめして縫製したものだ。これと、ライカンスロープの毛皮の外套もマサイに発注して作ってもらった。ライカンスロープ毛皮は耐火性と敏捷性が上昇する効果があった。
「ほう。白銀の毛だな。美しい毛並みだのう。雪男の毛皮とか言うたのう」
「はい。最近、山に出没する雪男を討伐して得た毛皮です。お納め下さい」
「おう、孫からの贈り物じゃ。ありがたく受け取ろう。ところで、近頃、おかしな生き物が山中を跋扈しておるようだのう。それも人を襲うと聞く。雪男とやらもその類かのう?」
「はい、これまで存在しなかった怪物が現れ出しております。これらは放っておくと人に害を成し、田畑を荒らすでしょう。それにあまり数が増えると町を襲わないとも限りません」
「それほどまでに危険なものか?」
「はい。虎や獅子にも勝る脅威です。放っておけば中華の災いにもなりかねません」
「なるほど。では、どうすればよい」
「広く目撃情報を募り、討伐隊を組むべきです。怪物の中には軍隊に匹敵する強い物もおります」
「う~ん。軍をのう……」
董卓は難色を示している。彼は将軍ではあるが、自由に兵を動かせる訳ではない。
いくら、住民に危害が及ぶからといっても、中央からの命令も無く軍を動かすのは難しいし、自身の兵のみを使うとなると兵糧の調達などに資金がいるし、損害が出たときや負けたときの保障も無い。
「軍を動かすのには金が必要。怪物を討伐すれば、このような副産物も生まれますが、それでも軍を食わせるにはとても及ばないでしょう。ならば、こういうのはいかがでしょうか?」
「良い考えがあるなら勿体ぶらずに申せ」
「冒険者ギルド方式です」
「ぼうけんしゃぎるどほうしき?」
「はい」
「なんだそれは?」
「はい。怪物退治をする者達の支援を行う組織を作るのです。怪物退治を仕事にして、豪族の部曲(私兵)や町のならずものや盗賊をそこに登録させて報酬を出すのです。これならば武力を維持する資金は小額で済みますし、人力の確保、把握に繋がります。さらには、巷の悪党や食い詰め物を更正の道を歩むことができます」
「ふうん。面白そうじゃん。じいちゃん。すぐにやろう。今やろう」
楽しそうなことやにぎやかな行事に目が無い女。常に刺激を求めている董白がすぐに食いついてきた。こうなるともう本命の篭絡はすぐだろう。
「あ、ああ。そうだのう。白ちゃん。すぐに作ろうな」
「楽しみじゃん。運営は真の仕事じゃん」
指をさすな。というか、本当に頬に刺さっている。
「いや、ギルドの運営は子供じゃ無い方がいいよ。提案した以上、もちろん手伝いはさせてもらうけどね」
「そうか。ではその手の組織運営の得意な張済あたりにでもやらせるか。お前はその施設の副長をやれ」
冒険者がモンスターを討伐してその毛皮や角なんかの素材を持ち帰れば、それを買い取って新たな品物を作れるかもしれない。僕自身も冒険者になってモンスター討伐をすれば、力試しにもなるしいいとこばっかりだ。
「よっ、責任逃れ。いいとこ取りじゃん」
うるさいよ。あえて言わなくていいことを言うなよ。
「では、本題にろうか。この度、お前を呼んだのには理由が二つある。一つはまあ、任務を任せることだ。そして、それに伴って、もう一つ。正式にワシの直属として召抱えることにした」
それはつまり董卓の部下になるということだ。
「そ、それは。ありがとうございます。精一杯頑張らせていただきます」
「お前の父とはいまだ復縁はならん。なので、立場としては血縁ではあるが、いち配下として扱うものとする。お前の弟も同様だ。よいな」
「わかりました。依存はありません」
「一応、地位は保証するが、引き続き、白ちゃんの預かりとする。くれぐれも白ちゃんの命に従うように」
白ちゃんの命。ね。これは半奴隷宣言みたいなものかな。とはいっても、これまで不安定だった僕の立場はこれである程度確立されたと言っていいいだろう。将軍の孫であり、部下というお墨付きだからどこに出ても無下にされる事はない。
ただ、董白がニタニタと嫌な笑いをしている事については心が落ち着かなかったけど。




