こんなに眠くちゃやってられないよ
短剣を取り出して、手のひらに当てる。そうするとすぐに赤い線が走り、痛みが脳を刺激する。だが、その程度では駄目だった。眠気と鈍痛の勝負はまだまだ眠気が勝利を収めている。短剣を握りなおし、今度は手の甲につき立てようと振りかぶる。
「兄様。心配いらねえぜ。だから、ゆっくり寝てな。俺っちと相棒で全部片付けてやらあ。だって、こいつら人間の村人じゃあねえってことだろ。だから、手加減はいらねえ、って事だよな」
まだ手加減してたのか。村人があんな毛だらけで襲ってきたりしないだろ。もうさっさと本気出しておけよ。
「そりゃあそうだけど。お前ももう動けないんじゃ……」
睡眠薬がまさか効いていないのか?
こいつなら十分あり得るけれど。そう考えると自然、安心感が高まり、眠気がそれを凌駕していく。
「だから、心配いらねえっての。オヤスミ。兄様」
董戎の笑顔を最後に僕の意識は闇に呑まれた。
祭壇にはトラの毛皮が祀られた。正確にはトラじゃあなく、獣人の皮だったんだけれど。
今回のモンスター狩の成果としては十分だったのではないだろうか。
僕らが薬で寝てしまってからも董戎はオーちゃんと二人で戦い、獣人達を全滅させた。
そういえば、雪男との戦いの時に、董白から晩メシ抜きを宣告されていたな。言いつけを守って本当に何も食べていなかったらしい。彼が眠らなかったお陰でどうにか無事、家に戻って臘祭 (ろうさい)を執り行う事ができたという訳だ。
「ところでさ。董白。なんで村人が襲ってくるって分かったの?」
「そんなの簡単じゃん。『謀反察知』のスキルがあれば分かるじゃんか」
「知らないよ。そんなスキルがあるなんて。じゃあ、なんで僕らに何にも言わないんだよ。あらかじめ分かってたら、あんな危ない目に遭わなかったよ」
「まさか村人がっ、って、驚いた顔が見たかったからじゃん。でも、先に寝ちゃうなんてマジ残念じゃん」
飾られたトラの毛皮にしばらくご満悦の董白だったが、翌日には退屈に飽きたようで僕らにこう言った。
「さて、今度はどこに狩りに行く? 二月に向けて鬼退治なんてのどう? マジ面白そうじゃん」




