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お礼参りなんてやってられないよ



「ありがとうごぜえます。これでここら一帯で安全に狩ができます」


村に戻ると、丙(へい)一家が村の住民を呼び、一堂から礼を言われることになった。夕食は盛大に宴を催された。主賓はもちろん僕らだった。


「村を救って頂き、お礼の言葉もありませんぜ」


「それは大袈裟っしょ。ウチらはちょっとこの辺りを散歩してただけだかんね」


鼻高々に董白(とうはく)が応じる。彼女はずっと籠の中で、散歩すらしてはいなかったのだけれど、ヤボなツッコミはしないでおこう。


「さあさ、今日は蔵からなけなしの酒を出しましたでな。思う存分楽しんでくだせえ」


村長だという老人から酒を勧められたが、12歳の僕らにはまだ早すぎた。


「このサルの手。意外とイケるぜ。兄様」


「雪男のだろそれ。悪いけど僕はパスかな」


「じゃあ、この雪猪の鍋はどうだ? 美味いぞ」


「いっただっきまーす!」


規模としては村というより、集落といったレベルだったが、総出で僕ら英雄をもてなしてくれた。


「もう遅い。今日も泊まっていきなされ」


とっておきの晩餐を頂いたあと、村長の言葉に甘えて昨日と同じ離れで寝る事になった。


「さて、そろそろじゃん」


いつもなら夜はすぐに寝てしまう董白(とうはく)が今晩に限って夜更かしをしようと言い出したので、夜中にも関わらず、皆眠たい目を擦りながらカードゲームをやっていた。

ちなみにこれでお金を賭けていたなら、僕以外全員が素寒貧(すかんぴん)になるくらいに勝ちまくっていて、顰蹙(ひんしゅく)を買っていた。悪いが、僕はゲームならカードだろうがコンピューターだろうが負けるつもりはないよ。


「え、何が?」


「何が。って、マジ敵襲に決まってんじゃん。準備するっしょ」


表から、何やら雪を踏みしめる音が聞こえる。

誰かが歩いているのだ。気を遣ってそろりと歩いているようで、キュッキュと音はごく小さいが、確かにそこに何かがいる。それも、一人ではない。複数いる気配を感じる。


「囲まれてるぜ。この部屋」


早々に寝てしまっていた董戎(とうじゅう)は董白(とうはく)に蹴り起こされている。


「なんだか、焦げ臭いですよ。よ」


臭いだけではなく、すぐに煙が侵入してくる。そのうちパチパチと薪が爆ぜるような音も聞こえ始めた。これは、この離れそのものが燃えているのだろう。


「ほら、これを使え!」


「おうさ!」


畑を作る為にポケットに入れていた杭打ち用のハンマーを董戎(とうじゅう)に投げる。受け取った董戎(とうじゅう)はすぐに意図を理解したようで、奥の壁を一撃で破壊した。


外は暗いはずなのに、壊れた壁からは明かりが差し込む。そこは炎で満たされていた。そして、なんとその向こうには驚いた顔の猟師、丙(へい)の姿があった。


「へ、丙さん!?」


「何があったんだよ!」


「……」


問いに解はなかった。


『水魔法』で水流弾を飛ばして火を弱めると全員でそこから出た。


すると、建物を取り囲んでいた者達が飛び掛って来た。


「村の人だ!」


やはりそれは先ほど机を囲んだ人達だった。食事を共にした彼ら彼女らだった。


「どういうことや? 説明してえな」


「戦ってもいいのかよこれ?」


ただの村人だと思っていたが、意外に敏捷な動きだ。その手には鋤や鍬の農機具や弓、鉈や剣を持つ者もいた。おそらく、この村人全員がここに集まっている。それは夕食の時に見た顔ばかりだ。

いきなり襲ってきた敵だが、さすがに村人を傷つけるのは躊躇われる。

状況が理解できない僕らは大混乱に陥っている。


「この人たち、操られてるんか?」


同じことを李霊(りれい)も考えたのか、モンスター召喚をして彼らに攻撃を加えさせることを躊躇(ちゅうちょ)しているようだ。


「どうだろうね。操られているにしては、意思疎通もできるみたいだし、しっかり村人同士で連携もとれているみたいだ。なんだか妙だよ」


董白(とうはく)と羊聖(ようせい)、李霊(りれい)の女性陣は戦闘参加せず、背後に下がる。正面に董戎(とうじゅう)。その右に僕。左側を李霊(りれい)のしもべ、オーガのオーちゃんが守るという布陣だ。僕とオーちゃんは董戎(とうじゅう)のサポートに徹する。


対する村人は、正面に近接戦闘ができる者を置いて、左右は長柄の武器と弓で攻撃をする。近接戦闘をする者がほとんどで、入れ替わり立ち代りしてまともに当たろうとしない。本命は左右の弓なのだろうか。それとも何か別の狙いがあるのか。

いずれにしても、迷いがあり手を出しかねている僕らは防戦を強いられる形となっている。


「あなた達がなぜ僕らを襲うんだ?」


打ち込んで来た鎌をショートソードで受ける。ギリギリと押し合いになった相手は丙(へい)の父親。この燃えている家の主だった。


「なぜ。か。確かに理由なんかないべ。ただ、用済みになったから殺す。それだけだべ。この村の事をあまりよそモンに知られたくないからな」


ようやく返ってきた答えはこの雪山よりも冷え冷えとしていた。



-----------------------------------------------------------------

丙(へい) 51歳 男

LV 26

体長:169cm 体重69kg

体力:152/164 力:78 すばやさ:58  知力:47

弓技能:67

-----------------------------------------------------------------


能力は人間の平均値に比べると高い方だけど、それ以上に戦い慣れている感じだ。

他の村人を見ても同じ。僕らが苦戦するような敵ではない。でも、なかなか鎮圧できないのは、こちらが手加減をしているからというだけの理由ではないようだ。


「思ったより手ごわいべ。こちらも本気で行くべ」


丙(へい)の父親がそう言い放つと、村人の目の色が変わった。

目の色が、というのは比喩ではなく本当に色が変化したのだ。赤く。

さらに、変わったのは目だけではない。体毛も極端に伸びだして、全身を覆う程になり、耳も大きくなった。口は横に長く裂けて鼻筋は異様に伸びていった。


「トラ? これは、ライカンスロープ。いや、獣人か」


人とトラが入り混じったような姿。村人全員がそんな姿に変貌してしまっていた。


「兄様、なんだこいつら。本当に村人かよ」


どう見てももう普通の村人じゃあない。立派なモンスターだ。


動きもさっきまでとは違う。俊敏で、力強い。スキルを使っても、攻撃を受けるのがやっとだ。

とても反撃できない。銃や魔法が使える距離ならまだしもこの近距離での白兵戦では僕じゃあ一対一でも勝てないだろう。


いっぺんに何体もの相手をしている董戎(とうじゅう)もさすがに押され気味で、さっきよりやや後退している。



-----------------------------------------------------------------

丙(へい) 獣人 51歳 男

LV 26

体長:172cm 体重70kg

体力:256/270 力:124 すばやさ:98  知力:47

弓技能:67

-----------------------------------------------------------------



やはり、かなり能力値が上がっている。村人達も軒並み強くなっている。


「何者かは知らねえけど、あんたらには感謝してるべ。ここらにいた厄介なヤツラをまとめて潰してくれたんだからな。だから、苦しむ事なく殺してやるべ」


なるほど。この辺りはモンスター達が縄張り争いをしていたのか。


なんだったらもしかして、僕らのこともモンスターと思っているのだろうか。オーガを連れていたり、雪狼をテイムしたりしていたから、そう思われても仕方が無いのかもしれない。彼等からしたら、僕らも縄張りを脅かす存在に映ったのか。


それにしてもさっきから身体が重い。手足が痺れるようで、上手く動かす事ができない。眠気のせいだろうか。それにしてはえらく強烈だ。


「!??」


後ろで何かが倒れたので振り返ると、女子三人が折り重なるように寝転んでいた。


「そろそろ、眠り薬も効いてきたべか。じゃあ、すぐにあの世に送ってやるべ」


獣達は長く伸びた爪を見せびらかしながら、詰め寄って来る。

くそ、僕らは転生者だから、生き返るだろうけど、羊聖(ようせい)とオーちゃんはそうはいかない。死んだらそれっきりだ。絶対にここで倒れる訳にはいかない。






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