雪山のモンスターなんてやってられないよ
翌日は吹雪が止んでいたので、家の長男丙を道案内として連れ、モンスター探しに出かけた。
晴れてはいたが、昨日の天候もあり、一面雪が深い。腰まで雪で埋まってしまう場所もあるほどだった。
「あれが雪狼だ。普通の狼より倍はでけえ。最近よくこの辺りをうろついてやがるだ。体毛が強くて弓で撃ってもきいちゃぃねえ。おまけに動きもはええ、食い殺された奴もいるだ。逃げるべ」
白い毛並みの大柄な狼が二頭。
森の中で動物を狙っているようだ。こちらにはまだ気づいていない。
銃では大きな音がするし、拳銃なので距離があっては狙いにくい。だから、袋からクロスボウを取り出す。
十分に狙いをつけるとスキルを発動させる。董戎からもらった『射撃』だ。スキルのお陰で狙いは外れず、矢は綺麗に狼の眉間を割った。
白く積もった雪に白い獣が倒れ伏す。頭部から流れる赤い物がその白を染める。一発で絶命したようだ。『射撃』スキルには命中精度以外にも威力増強の効果もある。通常の弓矢が効かなくても、これなら問題ない。
「す、すげえべな。一発であの狼をやるだなんて……」
本職の狩人に感心されてしまった。
しかし、
「董真。テ、イ、ム、やで」
あ、忘れてた。思わず殺してしまった。弱らせるために足や胴体を狙わなければいけなかったのだ。そのせいで李霊さんはご立腹だ。
残ったもう一体の雪狼がこちらに駆けて来る。
さすがに早い。平地でも厳しいだろうが、雪の中だ。逃げても到底間に合わないだろう。
クロスボウの次弾の装填は間に合わない。拳銃を引き出せば撃ち殺す事はできるだろうが、あえてそれはしなかった。なぜなら、董戎が僕の前に出たからだ。
口を大きく開けて迫る狼に対して、董戎は丸腰で右手を振りかぶる。
そして、大振りのスイング。それだけで、体調三メートル近い巨体が吹き飛んだ。そうして、2、3回バウンドして木にぶつかって動かなくなった。そこへ、枝に積もっていた雪が覆いかぶさる。
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雪狼 4歳 男
LV 12
体長:260cm 体重179kg
体力:332/585 力:158 すばやさ:178 知力:21
雪魔法:Lv3 氷魔法:Lv3
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決してこの雪狼が弱い訳ではない。能力値だけで見れば、董戎よりむしろ上だ。しかし、この結果だ。相手がいきなりの襲撃で混乱していたことも影響しているだろうが、戦闘スキルの差と、あとは戦いのセンスの差でもあるのだろう。
「大丈夫。私が助けるで」
積もった雪を手で掻き分けて李霊が気絶している狼に話しかける。
スキルで体力を回復してやると、狼は薄っすら目を覚ました。そしてガバっと起き上がり、前足で李霊を引っかく。
しかし、その前足は李霊に届くことなく、太い腕に掴まれていた。赤黒いオーガの腕に。
それは李霊のしもべ、メスオーガのオーちゃんの物だ。彼女の護りの為に召喚していたのだ。
「ごめんな。貴方の仲間を殺してしもうた。でも、できる限りの事はする。そやから、私にテイムされてくれんかな?」
当然だが、李霊の説得にもその笑顔にも雪狼は警戒を緩めない。犬歯を見せてグルグルと唸っている。
そこへ、もう一体、僕に額を射抜かれた雪狼がゆっくりと横たえられる。董戎が運んで来たものだ。じきに止まるだろうが、まだ息はある。
「よかった。これなら……」
李霊は死にかけの狼に寄り添うとスキルを発動させる。『テイム』、そして『回復』スキルだ。すると、額に刺さっていた矢が手も触れていないのに脱落して雪の上に落ちた。全身でしていた弱い呼吸も次第に平静な寝息に変わる。
警戒を見せていたオスの雪狼は、死にかけていたメスの雪狼の顔に鼻を寄せる。彼女の様子に安堵したのか、李霊の膝元に服従を示すかのようにうずくまる。
そうしてオスの雪狼をテイムし、力を使い果たした李霊は狼に折り重なるように倒れこんだ。
「君がゲリ、そして貴女がフレキや」
「良い名前だね。北欧神話からとったのかな」
「知らんわ。噛んでもええよ。フレキ」
「え、嘘、ごめんなさい!」
無事、テイムに成功した二匹の雪狼に名前をつけてご満悦の李霊。しかし、フレキの額をクロスボウで割った僕には冷たかった。雪狼だけに。
「あ、あんたがた、何もんだべな。あんの恐ろしい雪狼をてなづけちまうなんて」
猟師の丙はしきりに驚いている。
「さあ、この調子で雪男も他のもドンドンやっつけるじゃん」
「はいはい」
「任せとけ!」
何もしていない董白は昨日からずっと薪を拾うための籠に入っている。そしてその籠は董戎に背負われているのだ。雪道を歩くと雪で衣装が濡れて重くなるし、何より汚れるのが嫌なんだそうだ。あと、何より籠の中が暖かいのもその理由の一つだ。
「あ、あれがそうかな」
『魔物感知』スキルで一番に見つけたのはやはり李霊だった。
雪男は思っていたものとは少し違っていた。白い毛むくじゃらの人型モンスター。これは予想と違わない。違ったのはそのサイズ。大柄なゴリラっぽいのを想像していたが、どちらかというと猿のようでガリガリにやせ細っていて、集団で襲ってきた。
毛に覆われているので衣類は纏っていないが、石の斧や剣を持っていたりと行動はほとんどゴブリン。ゴブリンに毛の生えたような生き物だったのだ。
「でもゴブリンよりは硬いな。毛が硬質化しているのかな」
動きは遅いし、小柄で力も大して無いようだったけど、切っても殴ってもあまりダメージを与えていないようだった。しかも、雪の中からドンドン沸いて出てくる。十や二十じゃきかない数だ。
「見えにくいけどそこら中にうじゃうじゃいるよ」
「すぐに雪に潜りやがるぜ。うっとおしい」
彼らは巧みに雪の中に隠れたり、出てきて攻撃を仕掛けてきたりの波状攻撃を行うので、行動が読みにくい。いわゆるゲリラ戦術というやつだ。
これは、範囲殲滅が望ましい戦術だった。しかし、残念なことに僕のスキルに今使えそうな物は無い。『水魔法』は雪男には耐性がある。『植物魔法』や『土魔法』は雪に埋もれたこの地形的に使いにくい。
「董戎。これを使って」
僕は、ポケットから長柄の薙刀を取り出すと放り投げた。素手が好きな董戎だったが、それじゃあいつまで経っても埒が明かない。
董戎の掛け声で大薙刀が横に振るわれると、その近くにいた雪男のバラバラになった身体と血と雪が撒き散らされた。そして、それを続けることで、敵のほとんどを全滅させることができた。
「バカの人。お前、晩メシ抜きじゃん」
しかし、その代償として、派手に動き回ったせいで、籠から董白が籠から落ちて雪の上に投げ出された。
「そりゃ、ひでぇ。冗談だろ」
「無論抜きやな」
「ええっ!」
雪男をテイムし損ねた李霊からも視線は冷たかった。
悲しむべき一幕はあったが、雪男の集団は一掃された。




