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こんなレベルじゃやってられないよ


言いたい事ばっかり言っていた自称神様が消えると、すぐに時間が動き出す。


「うおおおおおおおおおおおおおお! あにさまああああ~……あ!!?」


鼻水と涙にまみれた顔が不思議そうに首をかしげている。

死んだと思った僕が再び何も無かったかのように動き出したからだろう。倒れた拍子に汚れてしまった三万銭の上着をパンパンとはたく。それから脱いで背中の辺りを確認する。

確かに刃物で刺された痕がある。

さっきのは白昼夢でもなんでもない。確かに僕はさっき一度死んだんだ。

あれだけ熱く苦しかったのに身体のどこにも痛みは無い。きっと殴る蹴るされた傷も全てが再生されたのだろう顔も腫れていない。上着に血も着いていないから、飛び散った血液も身体に戻ったようだ。


「どうせなら服も元に戻ればいいのにな。この服気に入ってたのに」


「うおおおおおおおおおおおおおお! あにさまああああ~!!」


さっきも同じような台詞聞いたぞ。とにかくこいつはいつだってうるさい。


「おいおい、取り乱しすぎだよ」


「だって、だって兄様ぁ。俺っちてっきり兄様が刺されて死んじまったと思ったんだよ。なのに、生きてたぁぁぁああ」


だからうるさいっての。そして、抱きしめるなっての。

お互い見た目は子供だが、こっちは中身がおっさんだ。子供とはいえ男に抱きつかれて嬉しいはずもない。

泣きじゃくる弟をなだめること数分、ようやく落ち着いてくれた。

そして、自称神に聞かされたことをグッチャグチャに噛み砕いて伝えてやった。


「お、おう。よくわからんが。兄様は死なねぇんだな。そりゃあいいことだ。まちがいねえ」


「僕だけじゃなくてお前も死なないんだよ。不死身だ」


「ああ、不死身か~。なるほどな~。そりゃあすげえ」


彼も転生者で、年齢は十歳だが、前世の記憶を合わせれば軽く二十を越える年月を生きているはずだ。しかし、おつむのほうはもう一つ芳しくない。今もいまいち説明が通じてない気がするが、まあいいや。

とにかく、一刻も早く家に帰りたいよ。湯に入って汚れた身体をさっぱりとさせたら、ふかふかのソファにダイブを決めてやる。そう行動計画を練りながら、汚い小屋の出口をくぐろうとした時に異変が起こった。


「な、なんっ……?」


僕の目の前に先端が現れた。

先端とは当然、尖った部分の事なので尖っていない部分も存在する。先端になっている部分の後方は棒状であり、その中間辺りを董戎(とうじゅう)が握っていた。

つまり、僕に向かって投げられた槍を董戎(とうじゅう)が掴んで止めたのだ。

僕は全く反応できない。そればかりか、驚いて後ろに転がってしまう。ほんの数分の間にまた死んでしまうところだった。

見回すと、小屋の周囲は囲まれていた。目視できる範囲だけで二十程度の人影が確認できた。

迂闊だった。そういえば、僕をさらった三人組は、誰かがここに僕を迎えに来ると話していたのだ。

こうなる事は予想できる範疇だった。

董戎(とうじゅう)は手に入れた槍を持って果敢に得体の知れない男達に戦いを挑んでいる。

近寄ってきた奴らを刺す、叩き付けるなどして蹴散らしている。本当に10歳児かよ。

羨ましい。僕もああいう分かりやすいチート能力が欲しかったんだよ。


-----------------------------------------------------------------

董戎(とうじゅう) 10歳 男

LV 10

体力:500/500 腕力:90 すばやさ:65 知力:20

職業適性:【将軍】

スキル:『槍術LV:5』 その他、戦闘系スキル多数 

-----------------------------------------------------------------


今の僕にできる事は何もないので、弟の能力値をこっそりと『値踏み』スキルで確認する。

上限値がよく分からないが、今董戎(とうじゅう)に今、殴られた男の能力値がこれだ。


-----------------------------------------------------------------

?? 30歳 男

LV 14

体力:15/103 腕力:28 すばやさ:33

剣技能:22 知力:27

-----------------------------------------------------------------


レベルというのが何を表すのかよく分からない。人としてのランクなのだろうか。

男のレベルのほうが上なのに、10しかない董戎(とうじゅう)に全く能力値で及ばない。レベルアップ時のパラメーター上昇値は人によって全然違うんだろうな。これ。したがってレベルは相手の戦闘能力の指標にはならなそうだ。

今表示されているのは戦闘に関係する能力値だけなので、それ以外の技能や能力はもしかしたら男の方が高いのかもしれない。


この『値踏み』スキルは対象の見たい能力や身長体重などを任意で数値化して表示できる。

その対象は人間だけではなく、物体に関しても見ることができるので、便利なスキルではある。

ただ、地味だ。

というか、発動に呪文や動作は不要であるので、僕があえて言ったりしなければ、誰も僕がこんなスキルを持っていることも分からないだろう。

そんな考え事をしているうちに、董戎(とうじゅう)は十人目の敵を再起不能にしたところだ。

かなりヒヤリとしたが、これならあのチートな我が弟に敵は全滅させられてしまいそうだ。


流れ矢に当たっても嫌だし、敵が董戎(とうじゅう)をすり抜けてこちらに来てもいけないので、僕は小屋の奥へと引っ込む事にした。

僕を拉致した三人組はまだしっかりとのびていて、当分起きる気配は無い。しかし、万が一の備えは必要だ。奴らが持っていた粗末な武器を失敬しておくことにする。

僕の背を貫いた忌々しい剣を拾い上げた時に一対の目と対峙した。


「ご~きげんよう。転生者君」


「!?」


敵!? と、認識はできたけど、恐怖で固まって声も出ない。


「お~う、挨拶もできないガキですか。嫌ですねぇ」


「何者だ?」


「何者、って、もちろん、貴方と一緒ですよ。転生者」


地味な灰色の服を着た痩せ型の少年がそこにいた。

顔色はずいぶん悪く、あまりよく寝ていないのか、目の下の血行が悪そうだった。服装は地味目だが、仕立ては悪くない。価値にして一万二千銭の品だ。


「外の彼はちょっと連れて行くのに骨が折れそうですが、貴方なら訳なくいきそうですね。まあ、もともと私の狙いは貴方だけだったのですから彼の事はもういいでしょう。それでは、大人しく着いて来ていただけますね」


「え、嫌だけど」


「むろん、拒否はさせません。少し、いや、それなりにでも強引に連れて行くことになりますよ」


こんなヒョロい奴に連れて行かれるのか。僕は。戦っても勝てないのか?


-----------------------------------------------------------------

?? 10歳 男

LV 20

体力:60/60 腕力:12 すばやさ:46

戦闘技能:なし 知力:74

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なんだ、雑魚じゃないか。

やたらと強者風に話すのでてっきりかなりの実力者かと思ったじゃないか。これなら僕でも勝てる。

ちなみに僕の能力値はこうだ。


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董真(とうしん) 10歳 男

LV 10

体力:70/70 腕力:20 すばやさ:35

戦闘技能:なし 知力:84

-----------------------------------------------------------------


う~ん。あんまり大差ないな。

勝てるのか?

いや、奴は丸腰だけど、僕は短剣を持っている。これはかなり有利だ。有利なはずだ。勝てる。勝てるはずなんだけど。こいつのあの余裕の態度はなんなんだ。


とにかく、やられる前にやる。先手必勝だ。距離を詰めて短剣を横溜めに振りかぶる。

右から左に薙ぐ。

武術の心得は全くないので、間合いなんて分からないけど、これだけ間合いを詰めれば少なくとも刃は相手に届くはずだ。


キイィィィン


身体を傷つけるはずの刃は男の子の服を切り裂いただけだった。短剣は半ばで折れ、刃こぼれのひどい切っ先は弾かれて僕の足元に刺さる。

どういうカラクリだ?


「私はね。生前警察官をやっていたんだ。だから、こんな物も手に入る」


裂けた衣服の間から、妙に近代的な黒い繊維が見える。


「いいでしょう。コレ。防刃ベスト。この世界じゃ必須アイテムじゃないかい? かなり値は張ったけどね。命には代えらんないじゃないか。ねえ」


防刃ベストだと?

この時代にそんな物があるのか?

いや、ある訳無いだろ。鉄鎧だってようやくできたぐらいの文明レベルだ。恐らくあれは、この不気味な少年の特殊スキルによって生み出されたものだろう。


「驚いた? 驚いたよね~。この時代に防刃ベストだもんね」


ケタケタと僕をからかうように嗤っている。そして、呆然としている僕の腕に何かを嵌めた。


「当然、こういうものもある」


手元を見ると、銀色に輝く手錠が光っていた。アルミ合金。こんなものももちろん古代には発明されていない。


「それじゃあ、行こうか」


少年が合図をすると、何時からいたのか、大柄な男が二人現れた。抵抗むなしく、僕は口輪をされて担がれてしまった。

振り返ってモゴモゴと言ってみても、董戎(とうじゅう)の背中には届かなかった。



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