年明けなのにやってられないよ
「明けましておめでとう。本年もヨロシクお願いします」
去年の春節は奴隷のまま過ごしたが、今年はありがたいことに自由に年越しを祝う事ができた。
「そして、誕生日おめでとうございます。ます」
元日で十二歳の誕生日を向かえた僕らを羊聖が拍手でお祝いしてくれた。
「ようやく十二歳だぜ。早く成人して戦場でバリバリしたいぜ」
「目的語がないで。それやと、何か戦場で食べてるみたいやわ」
李霊のつっこみに董戎は意味が分からないというような顔をしている。
正月と言えば、炬燵にミカンだ。手作りの炬燵にみんなで足を突っ込んで、寝そべりながらミカンを口に放り込む。これが日本人の嗜みだろう。まあ、今は日本人ではないけれど。
「それにしても、この炬燵ミカンはさいっこうですね。ね。ここから出る事はむしろ背徳だとさえ思えますね。ね」
勤勉だった羊聖もこの通り食っちゃ寝喰っちゃ寝の悪習に染まってしまった。これは完全に僕の落ち度であり、反省はしているが、止められない。
こうやってのうのうとゴロゴロしていられるのも董卓じいちゃんの後ろ盾あっての事。実際、世間の情勢はかなり厳しい、いや惨たらしい状態らしい。
国の中央では相変わらず売官や汚職が蔓延。各地で反乱が勃発し、また、天変地異が起こっている。モンスター達の活動も増えていると聞いている。これ以上無いくらいに天下は不安定になっている。
とはいえ、僕らだってずっと遊んでいたわけじゃあない。魔法や武術の鍛錬は怠っていない。スキルレベルも伸びている。畑仕事に精を出し、できた農作物を売って金にしたり、武具を揃えたりといつだって有事への備えを怠ってはいない。
僕の袋にはもう既に百人の兵士を二月食べさせる程度の食料を溜め込む事ができている。蓄えは十分。つまり、いつでも戦場で戦えるということである。
それにしても最近は畑仕事が楽しくて仕方が無い。魔法を使ってどんどん収穫できてしまうので、耕地は少なくて済むし、栽培にかかるコストもあまりかからない。品種改良を行って質の向上にも取り組んでいる。
野菜類ではこの間マサイからもらったジャガイモやサトイモ、ほうれん草、キャベツ、ニンニク、大根、タマネギ、ニンジン、キュウリ、ナス、オクラ、大豆など50品種。果物類はリンゴ、柿、バナナ、レモン、ミカン、いちご、ぶどうなど30品種。あと、胡椒やショウガ、とうきびなどの香辛料、香草の類も作り、計100品目を超えるようになった。
中でも、胡椒は作るのも難しく実がなって採れるまでに時間がかかったこともあり、販売できるまでに量産するのは大変だった。その分見返りは大きく、巨額で取り引きができた。
商売スキルはほとんど使っていないけど、販売や取り引きでもレベルは上昇するらしく、それなりにレベルは上がっている。
もともとの【商人】スキルである『値踏みLV13』、『値切りLV7』、『収納術LV15』、『販売LV9』、『契約LV6』。
波柔 から受け継いだ【魔術師】のスキル。『使い魔LV9』、『水魔法LV9』、『土魔法LV10』、『植物魔法LV15』。
そして、董戎の【将軍】スキルから『剣術LV5』、『盾術LV5』、『射撃LV5』、『棒術LV3』、『鼓舞LV1』。
これが今の僕の所持スキルとレベル。
土いじりの成果で魔法系統のスキルが特に上がっている。
『土魔法』はLV10になり、土壌の改善能力が増し、石を生成できるようになった。『植物魔法』はLV15、10を超えると、植物の成長率がグンと上がって、収穫に一年かかる植物も一週間程度で採れるようになった。成長が早いので、気候の影響もほとんど受けず、一年中栽培と収穫が可能。
これではとても収穫スピードが追いつかないので、羊聖と李霊、他の使用人にも手伝ってもらっている。もちろん、無償ではない。
運搬は僕の『収納』袋を使えば苦も無く大量にできる。
こうなるともう会社といっても差し支えない。しかも月に一千万銭の売り上げをたたき出す企業である。
料理を作るのも楽しい。波柔 は元一流のシェフだった特技――これはスキルではない――を活かして僕や羊聖と李霊に技を伝授してくれる。
彼の言葉を聞く事ができるのはなぜか僕だけだったので、女子二人には僕が教える形になるんだけれど。
この時代の料理も別に不味いという訳ではないけれど、いや、むしろ美味しい物もたくさんあるけど、どうしても現代の味を知っている僕らには味の深みやバリエーションが物足りない。主に調味料が違う。
料理方法も蒸す煮る、が主であり、焼く、揚げるなどはあまりされない。火力が足りなかったり、丈夫な鉄鍋が無いなどの器具が不足しているということも問題だった。
その点に関してはマサイから仕入れたりしてもうかなり克服できてきてはいる。
一年前よりはかなり改善されてきているが、食に関してもまだまだ課題は多い。
「おーい、餅が焼けたで」
七輪でいい匂いをさせていた白い物を挿して李霊が言った。たしかに、それはぷっくりと膨れて食べごろである事を主張しているかのようだ。
それを皿に取り分けて砂糖醤油をたらして、もちもちとみんなで食う。
おう、幸せじゃん。
「さあて、じゃそろそろ、行くんじゃん」
おもむろにまた女主人が立ち上がった。
「え、外は雪ですよ。よ。どこに行くんですか、か?」
「元旦は寝て過ごすのが我が家のしきたりや。死んだ母さんの遺言でもあるで」
女子二人は炬燵でまったりを主張し、どこかへ出かけようとする董白を牽制する構えのようだ。
「若いモンが何言ってんの。それにだってまだやってないんじゃん。臘祭 (ろうさい)の儀」
臘祭 (ろうさい)。それは獣を狩って祭壇に供える古代中国で春節の後に行われる儀式。日本で門松とか鏡餅とか飾るようなモンなのだろうか。羊聖と李霊、董戎は知らないようだったので、簡単に説明してやった。
「祭壇はまあ例によって、僕と董戎が作るとして、獣はどこかに用意してあるのか?」
「ウチがあらかじめ用意なんかする訳無いっしょ」
なぜかふんぞり返る。
「偉そうに言うことじゃあないね。じゃあ、僕のポッケから……」
「何をバカな。呆れて物が言えないじゃん。年が明けたお祝いのお供えに去年の物を使うなんて、神が許してもウチに許される訳ないじゃん」
ぐ、くそ。なんか正論っぽい事言われている。
本当かそれ、本当にそれで合ってるのか。つまり、これから狩に行くって言ってるのか。この女は。この酷寒の中、獣を追いかけて山に入るって、そう言っているのか。正気とは思えませんぜ旦那。
「いいじゃねえか。寒さで腕が鈍ってたんだ。固まっちまって筋トレだけじゃあ、ほぐせねえもんな。こりゃいい運動になるぜ」
この家では特に冬場、よく地鳴りがする。ウエイトトレーニングと称して、董戎が各種大きさの手ごろな岩石を家に持ち込んでいる為、それを地面に下ろす際に地響きがするのだ。
当然、家主である董白からは苦情が出ている。それもなぜか僕に。
なぜかって?
それは董戎がいつも上裸でトレーニングをするからである。直接言いに行くとなるとそのキモイムキムキの身体を見なければならないから、というのがその理由だそうだ。
「そう、でも、普通に鹿とかウサギを狩るんじゃ面白くないじゃん。だから、モンスターを狩りに行くっしょ」
「おおう、それは甘美やな。行きましょう行きましょう。すぐ行きましょう。町での目撃情報は全部頭に入ってるで。巨大な鹿に大毒蜘蛛、熊モグラ。下半身が馬、上半身が人のケンタウロス。牛の頭に人の身体、ミノタウロス。どれにする?」
あっという間に李霊が篭絡され、残るは羊聖と僕だったが。
「あ、あったかくして出かけなきゃですね。みなさんの外套は私、準備しますね。お弁当の準備も必要ですよね。ね」
あ、裏切った。
「今日中に帰れるんだろうな。一応、泊まりの準備は持っていくか」
結局、折れるしかなかった。




