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クリスマスイベントの幹事なんてやってられないよ




189年暮れ。年が明けると、僕らは12歳になる。


天変地異かと思うぐらいに寒い日が続き、もともと冬の寒い楊陵(ようりょう)は酷寒となった。町は白く雪を被って衣装変えを楽しんでいるようだったが、雪の冷たさを肌身に感じる側としてはたまったものではない。

冬の神様がここにいたら、あまり無理するなよと言ってやったことだろう。


「年末といえばクリスマス会じゃね。クリスマス会やんないとやっぱ年越す感じしないし。今年は派手にやろう。幹事は真。じゃ、よろ~」


雪だけではなく、面倒くさい用事が降ってきた。言いたい事だけ言うと董白(とうはく)は扉の向こうに消えていった。

波柔(はじゅう)の手ほどきで餃子を作っていた僕はしばらく何を言われたのか理解できなくて少し鍋を焦がした。


「あの女はいつも唐突で滅茶苦茶だな。董真(とうしん)氏。忠告しておくけれどあれは絶対嫁にしちゃいけないぞ。どれほど見た目が渋川渚ちゃんに似ていても、惚れてはいけない。下着を覗くまでにしておきな」


どうでもいいが、渋川渚ちゃんとは、彼が好きなアイドルグループの姉妹ユニットで活躍していた『西のセンター』の異名を持つ美少女アイドルだ。外見は確かに似ていても実際の彼女はおしとやかなので中身は全然似ていない。


「しないよ。嫁になんて。第一、あれは戸籍上は従姉妹だから、結婚なんてできないだろう」


「それ、現代での話だろ。この国の常識じゃあないね。親兄弟は無理だけど、親戚なら結婚は可能だし。下着を覗くのに血縁なんて関係ないし」


「結婚も下着覗くのもしないよ。変態。それより、クリスマス会って、言ってたよな。今度は何をやらかすつもりだろう」


夏は祭りで盆踊りをやらされたし、秋にはふんどしで彼女が乗る喧嘩御輿を担がされた。ハロウィンの時は仮装して町を歩かされた記憶がまだ生々しく残っている。

とにかく行事が好きなのはいいけれど、現代日本の風習をこの時代に持ち込むのは止めて欲しい。付き合わされるこっちが奇人変人だと思われてしまう。


「幹事を仰せつかったんだから、やらかすのは董真(とうしん)氏になるんだろ。せいぜい盛り上げてやらないとヒドイ目に遭わされるんじゃないかろうか」


「止めてよ。プレッシャー与えるのは。ただでさえ行事の企画なんてあまり得意じゃないのに」


焦げずに美味くできた餃子を晩餐に振舞う。

手製の蒸篭から白くてモチモチした物を皿に取り分けると、感嘆の声がみんなからあがった。

これが今や僕の至福の瞬間とも言える。

餃子のタレ作りは難しかったので、醤油に酢を混ぜたものを代わりに作ってみたが、それでも十分美味い。

董白(とうはく)は祖父に呼ばれたとかで不在。李霊(りれい)と董戎(とうじゅう)、羊聖(ようせい)が席に着いた。


「く、くりますく? ですか。よく分かりませんよ。よ」


「無理に間違えてないよね」


羊聖(ようせい)はそんなウケを狙ったりはしないことは分かったうえで聞いている。


「私はクリスマスなんて前世でも祝った事無いわ。残念やけど力にはなれそうにないわ」


「なんか……、聞いてごめんね」


心底済まなそうな顔をしている羊聖(ようせい)と、可愛そうな境遇を持った李霊(りれい)。続いて董戎(とうじゅう)の意見。


「おう、俺っちはお祝いは得意だぜ。任せときな。クリスマスっつたらよ。ニワトリの丸焼きにプレゼント交換だ。あと、ケーキは絶対外せねえな。そんでよ。ろうそく立てて、部屋を暗くしたら、火を吹き消す。これがクリスマス会だろ」


「丸焼きにするのは七面鳥だ。あと、最後のはお誕生日会だろ」


まあ、聞くまでも無い。あまり参考になる意見は出なかったので、自分でアイディアを捻り出すしかなかった。

まあ、董戎(とうじゅう)の言うように、クリスマスといえば鳥の丸焼き、プレゼント交換、ケーキ。あと、重要なのがモミの木。それに飾りつけだ。大きく間違ってはいない。


「う~ん。ツリーがいるな」


「ツリー。木かいな。松の木でもええんか?」


本当にクリスマスを知らないんだな。どこの地域で生まれた人なんだ彼女。


「ちょっと近いけど松の木じゃなくてモミの木が欲しいな」


会場の手配もしなければいけない。人を呼ぶなら招待状がいる。


翌日、城内の広場を借りる為に、城主の董卓(とうたく)に許可をもらいに参内する。


「いいぞ。どこでも押さえておいてやろう。金も支援するから、盛大にやってやれ」


董白(とうはく)の発案でイベントを催すつもりである事を告げると、二つ返事で応じたばかりか、招待客は彼自身が声をかけると言ってくれた。

かの針葉樹を切って来るのは董戎(とうじゅう)に任せよう。

あと、飾りつけだけど、これはまあ、電飾はないけれど色を付けた竹や磨いた金や銀を付ければ見栄えは保てるだろう。城内も飾りがいるから、大変だ。これは、兵士を借り出して手伝いをしてもらう事にした。


さて、重大な問題がある。それはクリスマスケーキであるのだが。


「僕的には専門ではないけど、一般的なケーキくらいならもちろん作れるよ」


という波柔(はじゅう)先生のお言葉があったので、早速材料集めを行うことにする。

まずは小麦粉。これは問題ない。鶏卵。市場で手に入る。ラードもしくはバター。これも大丈夫。牛乳。あるある。生クリーム。ないよ。どうやって作るの?


「牛乳と卵白とバターでどうにかなるかな。あと、問題は甘みだな。董真(とうしん)氏。砂糖なんてここでは見たことがないぞ。どうやって手に入れる?」


ということで、西方商人のマサイと会うことにした。呉豪(ごごう)、呉鄭(ごてい)という人間の門を潜って店内に入る。もう常連になっているので、咎められることは無い。むしろ、ニコニコと愛想よく通してくれるくらいだ。


「という訳で、砂糖は取り扱ってる?」


「もちろん。少量ですがインド産の物があります。あまりこの国には買い手がいないので、大量に必要でしたら取り寄せますが」


甘味は果物で摂るのが普通だからね。砂糖は超高級品だ。


「ああ、大丈夫。今回はそんなに量はいらないよ。でも、これからも必要になると思うから、定期的に仕入れはお願いしておくよ。値が張っても構わない」


自前でどうにかして作成した方が安上がりかもしれないけれど、損得抜きで彼から仕入れておきたい。


「ああ、それと、この前にご注文いただいた品で、ジャガイモ。なる物が手に入りましたぞ。南方の海から入って来たものらしいです。私は実物を知りませんので、貴方様が見てご確認下さい」


「うそっ、ほんと!? 見たい見たい!」


木箱に詰められていたのは、まさしくジャガイモだった。長旅で傷んでいたり、だいぶ芽が出ている物が目立ったけど、それは埋めなおして魔法で育てたらいい。何も問題にはならない。


「これは嬉しい。いただくよ。お代はそれぞれいくらになる?」


「いえいえ、お代など要りません。砂糖は少量ですし、ジャガイモも傷んで商品にはなりません。芋の方はなんでも芽を食べると毒らしいですし。なにより、前回譲っていただいた龍の品物がかなり高値で売れました。それで船が十艘も買えましたからね。我が商社はいっそう手広く売買ができます。それもこれもあなたのお陰ですぞ」


あの難しい素材を売ることができたのはマサイの手腕なのだけど、そう言ってもらえると僕も嬉しい。品物はありがたく受け取っておく事にする。うちで育てたコーヒーノキでコーヒーを淹れてやり、分けてもらった砂糖を混ぜて彼に振舞う。


「あの木は、これを作るために必要だったのですな。苦味があってなんとも味わい深い。もっと仕入れてみることにします」


気に入ってもらえたようだ。しかし、呉兄弟は苦そうに舌を出している。


「牛乳を入れるともう少し飲みやすくなるよ。あと、砂糖も好みで入れるといい。いいね。マサイズコーヒー、なんつって喫茶店を開いたらどうだい?」


「おお、なるほど。それは良いですな」


「セレブ御用達のお店になちゃうだろうけどね」


「いや、長安やサマルカンドなどに出して商談の際に振舞えば、喜ばれること間違いないでしょうな。一考の余地ありです」


マサイは案外乗り気なようだった。世界チェーンになったら、僕にもアイディア料くらいは入るだろうか。

それにしてもポテトの材料が手に入った。これは嬉しい。カレーやシチューもジャガイモがないとどうにも物足りないと思っていたところだったのだ。

さっそく栽培を開始しなければいけないな。となると、温室を作るべきだ。

これは忙しくなるぞ。





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