戦利品で商売なんてやってられないよ
「これが……、龍……。ですかな?」
西方商人のマサイは目を丸くしている。それも仕方の無いことだろう。これまでの歴史の中で、龍が存在したと証明する物は無い。そんな幻の生き物が目の前に転がっているのだ。誰だって目を疑うだろう。
転がってるとは言ったが、実際はそんな表現は合わない。
なにしろその巨大な身体は、当然店の中には運び込めなくて裏庭に置いたわけだけど、その店よりも断然大きかった。だから転がる、はそれを現わすには不適切な比喩だったろう。
「そうだよ。いくらで買う?」
相手の気持ちをおもんぱかって、いやおもんぱからずに努めて軽い調子で訊ねた。
「ま、待って下さい。こんな物を取引するなんて始めての事でして、少々面食らっております」
海千山千の商人は、いとも簡単に本音を表に出してしまった。
「そうだろうね。僕だって始めてだよ」
「これは商うには、あまりに大きすぎますな」
「そうだよね。だから全身をそのまま売り物にするつもりは実はないんだ。部分部分で取引したい。でもバラバラにしちゃったら、これが龍の角だなんて誰も信じてくれないだろ?」
この異様な姿を見せつけるために全身をそのまま運んだ。
と、言っても、袋に入れて持ってきただけなんだけれど。
僕のスキルで空間を広げたこの袋には生物は入らないけど、元生物だった物は入る。つまり、生きていた物の死体は入れる事ができるのだ。
それにしても一旦中身を空にしてもギリギリ入るか入らないかの瀬戸際だったけれど。というのは、全部は容量オーバーになってしまって、首だけはみ出してしまっていたから。
「え、ええ。そりゃあ……。そうかもしれません」
「確かに伝説の龍だと確認してもらえましたよね?」
「も、もちろんですよ。認めざるを得ません。このような異様な生き物が龍でないなどとは言えませんからね」
「それは良かった」
「しかし、これを一体どうやって……」
「まあまあ、たまたま手に入った代物ですよ」
「はあ。たまたま……ですか」
「そうです。たまたま。運が良かったから僕の手に渡り、今度はあなたの手に渡っていく。それだけのことですよ」
「そうですな。商売において相手の商品の出所を詮索するなんてのはヤボなことでした。取り引きさせてもらいましょう」
商人マサイは、ようやく普段の振る舞いを取り戻したようだ。
「兄様。もうバラバラにしていいのか?」
「ああ、始めてくれ」
今回は董戎を連れてきていた。龍やジャイアントボア、石亀の解体要員としてだ。
龍の角、二本。鱗四百八十枚。牙、四本。歯が、四十本。爪、二十本。龍の火袋、四つ。龍の目、二つ。竜骨、500kg。肉が2000kg。
ジャイアントボアの毛皮、二頭分。牙四本。角、十本。肉、400kg。
石亀の甲羅が二つ。
以上が解体して得られた物だ。
僕の『値踏み』では、龍の角(5000000銭)、鱗一枚(80000銭)、牙(3000000銭)、歯(100000銭)、爪(500000銭)、火袋(400000銭)、目(100000銭)、骨は1kgで(10000銭)肉は1kgで8000銭だ。
ジャイアントボアの方は、毛皮(300000銭)、牙(100000銭)、角(120000銭)、肉は1kg(2000銭)。
石亀のほうは難しい。石亀の甲羅は甲羅から石が生えている。その部位によって鉱物が異なるのだ。金でできている箇所もあれば、銀の場所もある。鉄や銅も含まれているし、錫やルビー、アメジストも含まれているようだ。甲羅全体で8000000銭程度の価値がある。
普通に流通している物ではないので実際には適正に値段をつけるのは不可能だろう。これが正真正銘の龍やモンスターの素材だと相手が信じなければ、買い手が付かない可能性の方が高い。
だから、ここは以前にコーヒーノキを譲ってもらった恩もあるので、格安で譲る事にする。
「肉は置いておいて、それ以外の半分程を売ろうと思うんだけど、いくらぐらいで買えるかな」
ここで少し、マサイを試してやろうと思って、あちらから値段を出させる事にしてみた。
長い時間をかけてバラバラにされた龍の骨や角、鱗などを確認していた。世界各地を回って歩いたベテランの商売人もさすがに悩んでいるようだ。
うんうんとあっちへ行きこっちを見て、時にお付きの護衛と相談しながら慎重にそれらの素材を鑑定している。
数刻もかけてようやく僕の方を向いてやってくる。
「どうかな。高値はつきそうかな?」
「どれもこれも他では見ない品ばかりで、正直なところ自身がありませんな。これらの素材を一体どう加工してどう流通させていけばよいのかもこれから考えていく必要があります」
「あまり良い返事は聞けないのかな?」
「滅相もない。私、年甲斐もなく少々興奮しているのです。これからの商いのこと。どこでどう売ってやろうかと考えるとウキウキが止まりませんよ」
「それは良い商売ができそうですね」
「はい。できればこの全てを買い取らせて頂きたい」
「安くしておきますよ」
「では、全部で一億銭あれば、売っていただけるでしょうか」
驚いた事に、彼はかなり確かな目を持っているようだ。
スキル『値踏み』で確認した金額に割りと近い数字を提示して見せたのだった。僕はコーヒーの借りがある事と流通させにくい事を考慮してその半額で彼に売ることにした。今後ともご贔屓にしてもらわないといけないしね。




