レッサードラゴンまで出てくるなんてやってられないよ
地下1階。
上階ではあまり感じなかったけど、ここは明らかに人の手が加えられている。
坑道が崩れないように木で支えを作っている箇所があったり、地面や壁を成形して部屋を作っているような場所もあった。
「兄様、宝箱だぜ。開けるぜ」
「ま、待て! 罠かもしれないぞ」
「ら?」
開けると火球が飛び出る仕掛けだったその木の宝箱は、董戎の『弾返し(リバースミサイル)』のスキルを受けて燃えた。
トラップまで仕掛けられている。これはまさしくダンジョンだ。
「だんじょん。なんだそれ? マンションみたいなもんか」
「いわゆる迷宮だよ」
「うん、迷宮入り事件とかの迷宮だな。迷路みたいなもんだろ。俺っち、そういうの得意だぜ」
「ああ、その迷宮だ。合っている。それでいい」
彼に説明するのが面倒になった。好きに理解させておこう。
どうせ何が起きても平気だろう。
ここはもはやゲームとかでよくある地下迷宮だ。中には漏れなく魔物や宝箱があるあれだ。
団子虫の巨大化したモンスターに三匹、蝙蝠型のモンスターに九匹襲われたけど、董戎となぜかついて来ていたメスオーガが前衛を買って出たので、僕はマッピングと松明係に徹する事ができた。
地下2階。
ここでは、イノシシに角が五本生えたようなモンスターが出てきた。あと、モグラの親分のようなヤツも四匹、甲羅に石を生やした亀みたいなのも二体倒した。
やはり僕の活躍の場はなかった。
そして最奥に到達。
「手ごたえのねえヤツらばっかりだったけど、コイツはちと強そうだぜ。なあ、相棒」
「ウガァ、ウガ、ガ」
いつの間にか、メスオーガと意気投合している。
別にいいんだけど、なんなのこの展開は。
そんなことより、僕らの目の前にはこれまでの中で一番広い空間と、圧倒的に巨大な生き物がそこにあった。
「これは、ドラゴンか?」
「俺っちでも流石にドラゴンくらいは知ってっぞ。火とか吐くやつだ。近くで見るとカッコいいぜ」
気軽に近くで見るなよ。
彼は危機感というものを生まれてくる過程のどこかで置いてきたに違いない。
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レッサードラゴン 3歳 女
LV 67 体長:839cm 体重:1920kg
体力:2087/2087 力:567 防御力:187 すばやさ:65 知力:50
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「こいつは龍の下位種みたいだ。それでもかなり強い、これまで出てきたモンスターとは文字通り桁が違うぞ。一旦帰って対策を練ろう。幸い、まだこちらには気がついていないようだし」
暗い緑色の鱗を持つ龍は、まだとぐろを巻いてお昼寝中のようだった。
それにしても、この体躯では、この部屋から出ることはできないだろう。
こんな巨大な生き物が閉じ込められていて、どうやって餌を獲っているんだろう。部屋の奥には飼い主がいて、毎日餌やりでもしているのだろうか。それにしたって、その飼い主はどこから餌を獲ってきているのかという疑問はあるな。この体格だ。さぞかし沢山の獲物が必要だろう。
「コラッ、俺っちがせっかく来たってのに、なんで寝てやがるんだ。起きろ」
脛、が存在するのかよくわからないが、人間でいうとそれに当たる場所を軽く蹴り飛ばす我が弟。
「おいバカ。止めろ」
そのあまりの愚行に驚いて思わず大きな声を出してしまった。
それに反応したのか、小さな丘のようだった龍は、そのどでかい身体をグググと起こしてしまった。
「おう。起きたな。寝たままの奴を倒してもなんの自慢にもならねえもんな。じゃあ行くぜ。そりゃあっ」
大きな龍の横腹に董戎が拳を放つ。しかし、拳はその全身を覆う鱗に弾かれて有効打は与えられていないようだった。
お返しとばかりに寝起きの龍はその長い尻尾を振るって掃き出すような動きで董戎を狙った。
攻撃範囲が広く、逃れられなかった董戎は飛ばされて壁に激突する。
そこにオーガが心配そうに駆け寄るが、董戎は何事も無かったかのようにムクリと起きてコキコキと肩を回していた。
「相棒はちょっと下がっててくれ。本気で行かなきゃこれは殺されるぜ。なあ、デカブツ。ちょっと肩痛めちまったじゃねえかよ」
普通の人間は今ので十二分に死んでるからな。
おいおい、人外の戦いになってきてないかこれ。
バッグから、盾とナイフ、拳銃などとりあえず使えそうな装備を出して、僕も一応待機。拳銃で龍の顔面に照準を合わせる。
奴からしたらこんなの豆鉄砲ほどにしか効果が無いかもしれない。
「『大薙刀』、『鎧』」
淡く青白い光に包まれた鎧を身に纏う。その手にはこちらも同じように光る大薙刀が握られている。
それは、董戎のスキル。
あれを使うところは始めて見るけど、最高にカッコいいじゃないか。くそ、董戎の癖に生意気だぞ。ズルいぞ。
「グワアアアアアアアアアアアアアァァッ」
相手も董戎を好敵手と認めたのだろうか、雄たけびをあげて威圧してくる。
僕なんかは関係ないのにチビリそうになる。
「よし、じゃあ行くぜ」
言うなり、一直線に飛び出した。
なんのひねりもなく、フェイントもかけず、ただただ、まっすぐに向かっていく。そこを大きな尻尾が狙っている。当然、両者は純粋にぶつかった。
ギインッっと、金属音が響き、そして互いが互いを弾き飛ばした。
「叩き切れねぇな。やっぱり硬てぇぜ」
切断こそできていないが、尻尾の外殻には大きな凹みが穿たれ、尻尾そのものも反対側にズレて曲がっている。「ギュオオォォォ」と、龍が呻いているところを見るに骨折でもしているのかもしれない。
董戎は再び、跳ぶ。
そこへ、今度は龍が放った炎のブレスが襲い掛かる。さすがに炎の中を突っ切る事はできなかったようで、炎の中から転がり出てくることになった。
「あっつい。くそう。直進できねえ!」
バタバタと転がって身体を焦がす炎の延焼を防いだ。
「横にかわせばいいだろ」
「性に合わねえぜ。それに力負けしちまう」
「しょうがないな。僕が魔法で援護するから、正面から行け」
その言葉を待たずに三度飛び出す。やはり、ブレスがそれを遮ってくる。僕は袋から水を取り出すと、両者の間に割り込むように展開させる。
「ウォーターウォール」
さっき見たブレスの大きさから考えて、相当な量の水が必要だと思ったので300リットル程度の水を出したが、多すぎたようだ。瞬時に炎は消えた。
火事なんかと違って燃えている物体、触媒がないからだろう。
行き場を失った水は有効活用させるために、そのまま龍に水流弾としてぶつける。
そんなもので大したダメージは無いだろうが、目くらまし程度にはなるだろう。
的が大きく外す心配がないのでとにかくめくらめっぽうに撃ちまくった。
炎を吐く竜だけに、水は苦手なのか嫌がって龍が後ずさったところに董戎の刃が届く。
その刃は龍の胴体をとらえ、今度は鱗を破って切り裂いた。そこから多量の血液が噴出す。血は雨のように辺りに降り注いだ。
だが、それで龍は死んだりはしない。
凄まじい咆哮を挙げると怒りを顕わにし、無茶苦茶にブレスを吐き散らしながら進んでくる。
董戎が何度も弾き飛ばされながらも腕や横腹を切りつけて傷を与えてはいるようだが、それも構わずにまっすぐ僕の方へ向かっている。
「こっち来てる!!?」
水魔法によるサポートを邪魔に感じたのか、狙いを僕に変更したようだ。
正面切ってドラゴンと向き合う術なんて持ち合わせてないぞ!
「グワアアアアアアアアアアアアアァァッ」
頭がくらくらする。
龍の咆哮を受けたせいだろう。
その巨体が迫っているが、どうにも立ち直れない。
爪の一撃をまともに喰らう。と、思った時、僕を背後へ突き飛ばしたのはメスオーガだった。オーガは龍の突進を受けて壁に叩きつけられていた。
「雌オーガ!!?」
僕を助けた!?
「お前ぇぇぇぇぇっ!」
オーガを吹き飛ばした龍の頭部に今度は董戎が怒りの一撃を見舞う。
「グガアァァァァァァァァァァァッ!!」
暴風のごとく荒れ狂う龍に僕らは近寄ることもできない。
「でも、もう残りカスだ」
スキルで見るまでもない。血まみれ泥まみれの龍はもう見るからに瀕死だった。放っておいても息絶えるだろう。
このまま、物陰に隠れていれば勝利は転がり込んでくるはずだった。
「うおおおおおおおおおぉっ!」
まだ行くのかよっ!?
「空気の読めない弟君だな!」
文字通り竜巻に突っ込んでいく董戎。炎にまかれないように水流弾で無効化してやる。
「ギャガアァァァァァァァァァァァッッッッッッッ!!」
とどめとばかりに振り下ろした大薙刀は、先の一撃でヨレヨレになっていた頭部の装甲を今度は粉砕した。
そして凄まじい断末魔を上げた龍の首は曲がり、白目をむいて倒れこんだ。




