オーガがいるなんてやってられないよ
「グ、ギャギャギャグ、ガ」
一段と広い空間に出たところで一匹のゴブリンに出くわす。フリフリと忙しく腕を振っている。それは何かの合図だったようだ。
「ガハハハッ、兄様、あいつ何言ってやがんだ? 一発ギャグか?」
「違うだろ。仲間に合図したんだよ。ほら、囲まれたぞ」
広間の中央部で僕らはゴブリンの群れに包囲されていた。彼らは手に弓や石を持っている。そしてそれらを一斉に僕らに向かって投げつけてきた。
小癪にも待ち伏せを仕掛けてきたのだ。
「ウォーターウォール」
だが、そんな事は警戒済みだ。すぐに鞄から多量の水を放出させると、水の壁を作り出した。矢や石つぶてはその壁に遮られて一つも僕には届いて来ない。
「なまいきだぜっ」
腕を顔の前で盾のように交差させると、董戎の自動スキルが発動した。
『弾返し(リバースミサイル)』。
飛んできた飛来物を相手の方へ飛ばし返すスキルだ。これによってほとんどのゴブリンが自ら放った攻撃に撃ち抜かれて倒れた。
チートスキルだな。
残ったのは僕に向かって突進してきた五匹。これは、広間の出口を塞ぐように配置されている。そして、僕らの進行方向だった方、董戎と対峙する格好になっている七匹。これが敵であるゴブリンの全てだった。
だけど、董戎の方には二匹、ゴブリンとは少し風体の違う生き物がいた。
成人男子をゆうに超える大きな身体。その身体にははちきれんばかりの筋肉が張り付いている。体色は土気色で頭部には角が二本生えていた。
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鬼 3歳 男
LV 33 身長:189cm 体重:162kg
体力:458/458 腕力:107 すばやさ:45 知力:10
装備:布の服・棍棒
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「お、オーガだ」
「オオーガダ?」
「違う、オーガ、だよ。ゴブリンなんかよりも何倍も強いぞ。それが2体もいる。ちょっとマズいな」
村人が見たのはゴブリンじゃない、こいつが鬼の正体だったのか!?
能力値を見たのとは別のもう一体は女だ。でも二体とも能力値は似たようなものだった。男女で能力差はあまりないらしい。
そしてその能力は一年前に確認した董戎に匹敵する戦闘能力だ。
オスのオーガが雄たけびを上げる。
意識を失いこそしなかったけど、軽い立ちくらみのような感覚があった。あいつも董戎のように『鬨の声』を使えるようだ。
狭い洞窟の中なので声は反響して壁や天井を震わせる。
鼓膜が脳を震わせるようだ。それだけで僕は足が泥に呑まれたように重たくなった。つまりビビったのだ。
住処を荒らされたことに怒りをぶつけたのか、雄オーガは石柱を殴りつけてそれを粉砕。そしてその砕けた物の中から、長めの石をこん棒のように構える。
雌の方も棍棒を拾い、戦闘態勢だ。
目をギンギンに光らせるヤツらの知能はゴブリン以下だ。話のできる相手ではないだろう。平和的交渉などは諦めて、ここも戦うしか選択肢は無いようだ。
ここは、僕がゴブリンを秒で倒して、董戎のフォローに入ってやらないと勝てないかもしれない。
「気をつけて、董戎その鬼、お前と同じくらいの力だ」
走り出す董戎の背中に届くように僕は叫びつつ、僕は袋から拳銃を取り出す。『射撃LV3』スキルでゴブリンに次々と弾丸を命中させていく。
弱い敵を瞬殺するなら、弾はもったいないけど、これが一番だ。僕の前にいた奴らを全滅させて振り返ると、驚きの光景があった。
「おらよいっ!」
てっきり、苦戦すると思っていた董戎は拳の一撃でオスのオーガの顔面を粉砕していた。
「は?」
あまりのことに、僕も残ったオーガもゴブリン達もただその出来事を見ていることしかできていなかった。
しかし、オーガを屠った董戎は止まることなく進撃し、ゴブリンを片っ端から拳の餌にすると、メスオーガに迫る。
「ウガァ、ウーガ、ウガ、ガァ」
するとあろうことか、オーガは持っていた棍棒を放り出して地面に膝を着けて頭を下げた。どう見てもこれは降参のポーズだ。
「……」
拳を振りかぶったまましばらくメスオーガを眺めていた董戎だったが、腕を下ろしてしまう。
「白けた。もういいぜ。どっか行ちまえ」
震えるオーガはゆっくりと顔を上げる。そして、なんとなく許された雰囲気を察しのだろう、涙を流し出した。これぞ鬼の目にも涙というやつだ。
「ウガァ、ガァウーガ、ウガ、ウゥガガ」
メス鬼はゆっくり董戎に恐る恐るゆっくりと近寄ると、彼に抱きついた。そして、そのまま背骨を折りにかかる。……と、いうこともなく、優しく抱擁していた。
「お、おい、なんだ気持ち悪いぜ。止めろ」
押しのけようとするも、雌オーガはスリスリと頬ずりをやめようとしない。
「どうやら、そのメスオーガはお前の事を夫にしたがっているようだな。幸せになれ、弟よ」
茶化したつもりだったが、返ってきた答えは予想外のものだった。
「冗談じゃねえぜ。俺はまだ結婚するつもりはねえぜ。成人もしてねえしよ」
「嘘だろ? 相手に不足は無い感じ? 懐深すぎないかお前」
「まあ、言葉が通じねえのは困るな」
鬼嫁を娶る事にはさほど抵抗はないらしい。なんてグローバルな弟だろうか。
「ところで、兄様。これからどうする?」
「そうだね。先に進もう」
洞窟はここで行き止まりではなかった。
広間の奥には扉があった。
扉。
それは木の扉だったが、間違いなく人工物だ。
粗末な服や武器しか作れないオーガやゴブリンがこれを作ったとは考えにくいから、きっと人間かここにいるモンスターよりもっと高度な知能を持つ生物が作った物だろう。
僕らは扉を開けて先に続く階段を下りることにした。




