同期生だよ! 全員集合!
「試合にはでないの? もったいないじゃん」
入門して半年くらいが経過した時に木下さんに言われました。
その時には火曜日の初心者クラスの日に加えて、木曜日の一般クラスにも通うほどキックにハマっていましたが、私ごときが試合に出るなんておこがましいと思っていたので「いやぁ、無いですね」と答えました。
ビックリしたのは毎回毎回私をボコボコにしていた木下さんから「もったいない」と言われた事です。
これは素直に嬉しかったです。なにしろ彼は私に『ときめき』をくれた相手ですからね。
そんな彼が子供が産れたのを機に練習に来なくなった事を「よっしゃ」と思っていたクズが私です。
ここで後々の展開のために私とほぼ同時期に入門した会員を3名紹介したいと思います。
ネームドキャラの紹介はあと2人だけなのでご勘弁ください。
一人目は山本さん。もちろん偽名。
年齢は20代前半、身長は170cmちょい。体重は70kg以上でちょっと太めの体型。
確か空手の経験者で、なんでキックをやろうと思ったのかは聞いた事が無いのでわかりません。
辻倉さんから散々「お前バカだな」と罵られていたらしいのですが、私の前ではバカな所を見せた事はありませんでした。
というか私の方が絶対バカだと思っていました。
実力も普通に私より数段上で、後にプロ選手になり、会長と揉めて辞めてしまった大津さんの後を引き継いでジムのインストラクターにも就任しました。
仕事もかなり出来る人だったみたいで、練習も人一倍頑張っていたので私とは正反対な人だなぁと言うのが感想です。
当たり前ですが実力差も開く一方でした。
彼との思い出で一番印象深いのが、練習中に私の背中を隠し撮りして「マエカワさんの背中すごいことになってますよ!」と興奮気味に褒めてくれた事です。
その時は「この人ちょっと変だな」とは思いました。
会長も「マエカワの蹴りは背中で蹴るムエタイの蹴りだな」と言っていたので、練習する内に自然と発達していったのでしょう。
練習後に上半身裸になって汗を拭いていた時、四谷さんにも「めちゃくちゃいいカラダしてるじゃないか!」と褒めてもらったので、入門半年でもやし青年から細マッチョに進化はしていたようです。
プロテインやらサプリやらに手を出し始めたのもこの時期からですね。
後に風俗嬢にも「ギリシャ彫刻みたい」と褒められました。さすがプロ、おだてるのが上手ですこと。
ちなみにやっぱり実家には生活費は入れていません。
体重も52kgくらいには増えていたと思います。
ですが、私は他の会員の太い筋肉が羨ましくて仕方なかったです。
最後に一つ、山本さんの情報。
「〇〇市には僕のオキニがいるんでマエカワさんは遊びに行っちゃダメですよ」
お前もかよ! と心の中でツッコミました。
次に残りの同期生。高校生AとBです。
紹介が雑すぎるのは次のエピソード以降ほぼ出番が無いからです。
Aくんは身長155cmくらいのヤンチャ坊主って感じの子。彼女とのデート費用のために運送業でバイトしていたとても偉い子です。
体型もガッチリしていたのでたぶん私より体重は少し上だったと思います。
高校卒業と同時にキックもやめてしまいましたが、向上心のあるファイターでした。
私とは互角くらいの実力でしたね。
ウソです。内心ガチンコでやったら負けるかもと思ってました。
BくんはAくんに誘われてきたって感じの子で身長は私より少し上、やや細身の体型。
パッと見大人しそうな印象でしたが、Aくんのツレと言う事はこの子もヤンチャなんだろうなと勝手に思っていました。
Aくんとののスパーリングは近距離でのバチバチの打ち合いばかりしていました。
結構強めに打ってきたので毎回困惑していましたが、たぶん私も強めに殴り返していたんだろうと推測します。カウンター打ち込んだ時は結構な力でやってしまった可能性があります。
なにしろ私は手加減がドヘタクソだったので...
Bくんとのスパーリングはジャブの差し合いが多かったです。
ガンガンくるタイプでは無かったので、悪く言えば体力回復に使えるまったりタイムでした。
ローとミドルの蹴り合いもしましたが、威力は全然ありませんでした。
顔を殴られるのをめちゃくちゃ嫌がっていたので、格闘技向いてないんじゃないか? と失礼ながら思っていました。
実際、辞めるのも早かったです。
私より弱い会員はすぐに辞めてしまうので、私は常にジムで最弱で最軽量の男性会員でしたね。
周りは四谷さんとプロばかりというのがキャリアの最終盤まで続きました。
『顔を殴られるのが平気』というのも私の才能だったのかもしれません。
これ読んでる格闘技経験者かもしれないアナタはどうでしたか?
※ ※ ※ ※
「他県の知り合いのジムでスパーリング大会があるから、せっかくだからおまえら全員で参加してこい」
会長命令の晴天の霹靂です。
私以外の同期生3人が何を考えていたのかはわかりませんが、山本さんとAくんはその後の練習で気合入りまくっていたので燃えていたのでしょう。
Bくんはわかりません。Aくんが出るなら自分も出るかという程度だったのか、実は熱い闘志を秘めていたのかは定かではありません。
私はというと「めちゃくちゃ嫌だけど、おつきあいは大切だから出るか」と言う超ふにゃふにゃな動機で参加することを決めました。
それに加えて格闘技を神聖視していたので、木下さんとの会話でも思った事ですが、自分ごときがリングに上がるなんてダメでしょと考えていました。
後は「絶対ボコボコにされるんだろうなぁ」という不安というか諦めでいっぱいでした。
試合が決まったからといって練習に熱が入ったという事も無かったと思います。
普通に縄跳びして、普通にシャドーをして、普通にサンドバッグを打って、普通にミット打ちをする。
スパーリングでもインストラクターやプロと後にプロになる会員相手に「やっぱり俺ってヘタクソだなぁ」とますます自信を無くす一方でした。
そして、普通に雑談とかに混じることもなく帰るという、相変わらずのコミュ障っぷり。
ドラッグストアが日曜出勤だったので、休みとらなきゃなとか、理由は「用事ができました」で良いとして、顔腫らせて帰ることになったらどう言い訳しようかなとか、マイナスな事ばかり考えていました。
唯一の救いだったのは、会長に「どのくらいの力で殴っていいんですか?」と聞いたときに「全力でいいよ」と言う答えをもらった事です。
この時は「フルパワーでボッコボコにされる」心配よりも「ああ、気を使わなくていいんだ」という謎の安心感に包まれていました。
※ ※ ※ ※
準備期間は1ヵ月と少しだったと思います。
付き添いは中島さんで車も出してくれました。
防具は持参ということだったのでみんなで協力して荷造りをしました。
個々の必要な備品を詰め込んだバッグが4人分に加え、ウォーミングアップ用の各種ミットも持っていく事になったので、かなりの大荷物でした。
この時の私はキックの道具一式をネット通販で揃えていました。
カラーは好きな色だった青で統一しました。すべてムエタイの有名メーカーの品です。
トランクスには金の刺繡入りです。こだわって選びました。
ファールカップのサイズは大人用がLと書いてあったのでそれを選びましたが、中島さんからは「またまた見得張っちゃって」とからかわれたので「いやぁ僕のサイズはLLですよ」と返したら「その情報いらないッス」とスカされました。
実際ゴムはLL~XLでネットで業務用買うまでは馬のイラストのヤツを使っていました。
TEN〇AもUSサイズです。
ゴム使って使いまわしてました。エコでしょ? 真似はしない方がいいと思います。
トイレットペーパーの芯も切れ込みを入れないと挿入りません。
後に風俗嬢からも「身体も立派でチンチンも大きくて良いことだ」と褒められました。
あ、やっぱりこの情報いらない?
チンチンの話とは裏腹に私の闘志は当日になっても全然ビンビンでは無かったです。
何考えてたっけ?
対戦相手の事は会場に行ってからじゃないとわからなかったので、Bくんレベルの人と当たったらいいなと失礼な事を考えていた気がします。
道中、中島さんからは「マエカワさんはローキックとパンチ中心で、Aくんはパンチ、Bくんはジャブとミドルキックを中心に攻めていきましょう」とファイトプランを提案してもらいました。
3時間くらいのドライブだったと記憶しています。
到着したジムは駐車場が広くて、駐車スペースには困りませんでした。
キャンピングカーで来ている人もいて、中島さんは「気合入ってますねぇ!」と興奮していました。
中島さんはでっかい車が大好きな人だったらしく、この時もわざわざ〇ェルファイアをレンタルしてきたくらいです。
ジムは1階建てで、リングを設置してあるだけあって結構スペースがあったのですが、大会参加者がかなりの人数だったので、すし詰め一歩手前は言い過ぎですが、かなりゴチャゴチャした状態でした。
実は超有名な芸人さんが2名観戦に来ていた事は後に記念の集合写真を渡された時に知りました。
我々はそんな人込みをかき分け、なんとかジムの隅っこに陣を構える事に成功しました。
まずは一安心です。
次に興味が移ったのは当然対戦カード。
さてどんなヤツが私を公開処刑してくれるやら、期待ナシの不安だけで胸を膨らませて、貼りだしてあった対戦表を確認しにいきました。
結論から言う。なにもわからん。
名前と所属ジムと階級(私とABは最軽量の55kg級、山本さんは70kg級)だけが書いてあるだけの簡素なモノでした。
私は肩透かしを食らった気分で対戦表の前から離れました。
ちなみにこの時、Aくんはたぶん対戦表を見ていない。理由は後に分かる。
それからは自分と階級が同じっぽい人を探して「あの人かなぁ?」と偵察して回りました。
ジムTシャツなんかを手掛かりにしたかったのですが、結局わからず仕舞いでした。
今思えば、計量の時に張り付いていれば正体分かったなと思います。
しかし、私含めて(中島さんも)全員がそれをやらなかったのはヌケていたのか、緊張してそれどころじゃなかったからなのか、面倒くさがりだったからなのか謎ですね。
収穫ナシでとぼとぼと自陣に戻ってきた私は、他にする事も無いので、更衣室で早めのお着換えをすることにしました。
そして、着替えが終えて戻ってきた所で自陣の近くにいた集団の中に一際目を引く人物を発見しました。
身長は180cm以上、ショッキングピンクの髪色に気合の入ったヘアタトゥー入りのオシャレ坊主、トランクスも当然ピンクで、トドメとばかりに白のレガースにはピンクのファー付き。
私は心の中で『ピンクマン』とあだ名を付けました。
そして猛烈に嫌な予感がしました。




