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モコモコ地獄

リングインしても闘志は沸いてきませんでした。

それどころか、赤コーナーでやる気満々でステップを踏んだり、シャドーボクシングをしたりしている相手を見ながら「そんなに気合入れなくても君が勝つよ」と冷めきっていました。


トランクスがカモフラ柄だったので、今回の対戦相手は『アーミー』と命名します。

テキトーすぎますかね?


アーミーと私は同じくらいの身長だったと思います。

無の極致、もとい諦めモードだった私はフェイスオフでも何も感じませんでした。


そしてゴングが鳴りました。


どちらが先手を取ったかは憶えていません。

ただアーミーのローキックを受けた時「この程度か、じゃあちょっと頑張ろ」と思いました。

当然、痛みはまったく感じませんでした。


私は飛び込んでパンチの連打を浴びせました。

何発か直撃しましたが、カッとはならなかったので追撃はしませんでした。


その後、中間距離の戦いになった時、アーミーがコンビネーションを繰り出してきました。

左ローキックをステップイン代わりして勢いをつけて飛び込み、拳を振りかぶっての右ストレートを繰り出すというモノです。


私はこれをブロックしましたが、嫌な表情をした自覚がありました。

しかし、同時にこう思いました。


(コイツ、パンチへたくそじゃね?)


次に(これコイツの得意な攻撃パターンなのでは?)と予想しました。


そして久しぶりに妖精さんが囁きました。


(誘ったらもう一回同じ事してくれるかもよ?)


私は罠を張りました。

以前にも語りましたが、私は他人を陥れるのが大好きです。

いかにも今のコンビネーションに対応できなかったという嫌な表情で中間距離を維持しました。


結果は大当たり、アーミーは再び左ローキックで飛び込んできて、右ストレートを放つ構えを見せました。


(かかったなバカめ!)(よっしゃもらった!)(くたばれ!)(死ね!)


私はカウンターでコークスクリュー気味の全力の右ストレートを顔面にブチ込みました。


これで1発KO...だったら超カッコイイのですが、そこは当て感の無い私。

アーミーは大きく態勢を崩して後退しました。


追撃の連打も何発か入れましたが、アーミーは倒れてはくれませんでした。

それどころか揉み合いの状態からパンチを返して来ました。


ボコボコというよりモコモコって感じのパンチでしたが、被弾した時「こいつのパンチ重いな」と感じました。それで至近距離での打ち合いは不味いと判断しました。


レフェリーにブレイクされ、再び中間距離の間合いになった時、アーミーは再びコンビネーションを繰り出してきました。


私には動きの全てが見えていました。

ラッキーと思いましたね。再び全力の右ストレートでカウンターが取れました。

そして追撃に行ったところでもみ合いになり、またモコモコパンチを被弾してしまいました。


アーミーはこの試合、合計で5回このコンビネーションを放って来ましたが、最初の1回以外は全弾カウンターで撃ち落としてやりましたがダウンは奪えませんでした。


私は自分のパンチに自信を無くしました。

完璧なタイミングで打ったカウンターが通じていないように見えたからです。


(ヘタクソすぎる!)


自分に嫌気が差しました。

そして追撃のたびに揉み合いになり、モコモコパンチを結構な数被弾していたので焦っていました。

私も連打を返しましたが、手数で上回られたと感じていました。


なので接近戦は捨て、ローキックとミドルキックと前蹴りをバンバン蹴って近づけさせない作戦に切り替えました。


アーミーは接近戦に勝機を見出したのか、顔殴らせろ病に罹っていたのかはわかりませんが、とにかく接近してきてはモコモコパンチを繰り出してきました。


そして1ラウンド終了のゴングが鳴りました。


私はラウンド取られたと思いました。

セコンドの辻倉さんから何かアドバイスを貰っていたはずですが、焦りから何も耳に入っていなかったですね。実際、何言われたのか全く思い出せません。


思えばこの試合、私はミッキー戦や拳ダコ戦の時とは違った形で冷静さを欠いていました。


ゴングが鳴って第2ラウンドが開始しました。

ラウンド取られていたと思った私はなんとか取り返そうと中間距離でのパンチとキックでポイントを取り返そうと必死でした。


アーミーはガードが甘く、パンチもキックも被弾していましたが、構わず突っ込んできてはモコモコパンチをお見舞いされました。脅威でしたね。


私も隙を見て連打を入れたり、カウンターを決めたりしましたが、アーミーの突進とモコモコパンチは止まりませんでした。


(このままじゃ負ける!)


なんとか決定打を入れたい私でしたが、アーミーは元気いっぱいで、モコモコパンチの威力は最後まで重かったです。


そして無情にも試合終了のゴング。


(負けた負けた何やってんだバカじゃねえの)


落ち込む私に会長が「胸を張れ」と激を飛ばして来ました。

しかし、とてもそんな気分にはなりませんでした。


そしてレフェリーに中央に戻されて腕を掴まれました。

勝ち名乗りの時間です。

私はがっくりとうなだれていました。


「ウィナー!」


レフェリーの声が響きわたりました。

そして手が上がったのは...


なんと私でした。


3-0の判定勝ちです。

思わずレフェリーの方を向いて「えっ?」と言ってしまいました。


それから(????)と思いながらアーミーとタッチグローブを交わしてリングを下りました。

何が起こったのかサッパリわかりませんでした。


「おめでとうございます! やりましたね!」


満面の笑みで辻倉さんが祝福してくれました。

私は訳も分からず「負けたと思いました」と告げました。


「いや、あれはマエカワさんの完勝です」


若干引き気味に返されました。

辻倉軍団からも「おめでとう」と祝福されました。


どうやらモコモコパンチは有効打と見なされなかった様です。

後で自分の試合をビデオチェックしたら、バンバン派手に有効打を当てる私に対して、モコモコパンチは全然印象に残らない攻撃でした。


あんなに重かったのに...今でも格闘技の試合を観る時、揉み合いの中でコツコツパンチを当てている場面を見るたびに「あれ見た目以上に効くんだよな」と共感をしてしまいます。


こうしてモコモコ祭りは終わりました。アマ通算2-2、星が五分に戻りました。

やったー! うれしー!


ちなみに今回も酸欠にはならなかったです。

試合後のダメージもゼロで、横になって休む必要も無かったですね。


ビデオチェックは帰りの車の中で行った事なので、頭の中は(????)でいっぱいでしたが、勝ちは勝ちということで素直に喜ぶ事にしました。


しかし、後には辻倉軍団の試合が控えていたので「応援がんばろ」と思う私でした。



※  ※  ※  ※



「なんのために練習してきたんだ! やり返せ!」


辻倉さんの怒声が会場に響き渡りました。

リングに立っていたのは竹内さんです。

コーナーに追いつめられてボコボコにパンチを入れられていました。


すでにダウンは1回取られていたので、次ダウンを貰ったらKO負けです。

竹内さんは苦し紛れにローキックを出して反撃していましたが、相手の勢いは止まらず、レフェリーが割って入って試合終了。


KO負けです。


やはり最初に会った時感じたように竹内さんは顔殴られるのが嫌だったみたいです。

最初のダウンもパンチラッシュに背を向けてしまった事で奪われていました。


この大会後も竹内さんはキックを続けていたようですが、試合に出たのはこれが最後だったのではと予想しています。

本人に確認取ったわけでは無いのであくまで予想でしかありませんが、明らかに試合に向いているとは思えない戦いぶりだったからです。


私は気の利いた事が言えなかったので、ただ「お疲れさまでした」とだけ伝えた気がします。

仲間意識も薄かったので、悔しさは感じませんでした。

薄情者ですね。


その後、残りの二人も試合に臨みましたが、どちらも判定負けだったと記憶しています。

この二人にも「お疲れさまでした」とだけ告げた気がします。

本当に薄情者です。


大会終了後はみんなで格闘技のグッズショップに行きました。

私は三人を慰める言葉も見つからず、ただただみんなの後を付いて回っていただけでした。


帰りの車の中のムードも暗かったです。

途中「なんすかマエカワさん、一人だけ勝ったんで王様みたいなオーラ出してますよ」とイジられましたが、状況が状況だったので苦笑いするしか無かったです。


竹内さん以外の二人がキックを続けたのかも不明です。

この大会以降、支部に行く機会が少なくなったからです。


理由は色々ありますが、バチバチやるのが嫌になったのとサボリぐせが主な原因ですね。


後は竹内さんのために注文したプロテインの代金をジムに置いておいてもらう約束をしたのですが、回収に行った時に無くなっていたので「そういうことをするヤツがいる」と人間不信になったからです。

揉めるのも嫌だったので黙っていました。


この頃から徐々にキックへの情熱は失われつつありました。

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