表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/17

ウィンク

両足の裏をくっつけて上体を倒すストレッチ。

やったら危険なヤツかもしれないので一応真似しないでくださいと書いておきます。

私はこれが得意で、結構深い位置まで倒すことができます。


辻倉さんが「ストレッチ手伝いますよ」と半笑いで背中を押してきた時、私が悲鳴を上げると予想していたのか「身体やわらかいっスね」と驚かれました。


ちなみに開脚してのストレッチは苦手です。全然開きません。

身体はかなり硬い方だと思います。

ついでに体幹も弱いです。


会長は「ストレッチもちゃんとやっていれば体力が付く」と言っていたましたが、私はほどほどでしたね。

縄跳びの代わりに10分くらいしかやってなかったと思います。

始めたばかりの頃に大津さんからは「結構本格的なのをやってるね」とは言われました。

両膝に手をついて肩を内側に入れるというイ〇ローのパクりです。


ツギハギの闘志を燃やせた事に加えて、試合開始まで大分時間があったので、体育館のすみっこで、ストレッチをして過ごすことにしました。

一人で集中していたとか書いた方がかっこいいですかね?


興味が無かったので、山本さんに「対戦相手どうでした?」とは聞かなかったです。

相変わらずの薄情者です。


というか今大会中、山本さんと試合後に「お疲れさまでした」以外の会話をした記憶がまったくありません。たった二人の出場者同士なのに...


別に山本さんの事が嫌いだったわけではありません。

スパーリングで苦手意識はありましたが(というかプロとプロを目指していた人には全然歯が立たなかっただけだが)仕事の話とか彼女の話とかはしていました。

練習も仕事もプライベートも一生懸命で、何もかも私と正反対な人だなと思っていた...というのは前にも語りましたね。


彼の試合の応援にも行きました。

結果はたしか判定勝ちだったと思います。


会員の中で山本さんにだけはキックを辞める時に連絡を入れました。

「40歳から始める人もいるんで、気が向いたら復帰してください」と励まされました。


今現在復帰する予定はありません。

統合失調症になって、様々な後遺症(なのか?)で苦しんでいる姿を見せたくないからです。

慢性疲労があるので体力的にもキツいです。


大分脱線しました。

そうです。試合の話です。


時間が近づいてきたので、ウォーミングアップのミット打ちを行いました。

ミットを持ってくれたのは中島さんでした。


「今日は右フックが良いですね。中心に使っていきましょう」


というファイトプランを頂きました。

しかし、私は左右のフックを多用するスタイルのわりにはパンチの中では一番苦手でした。

余計な力を使っていたのでキレの無い『硬い』フックだったと思います。

『菩薩の拳』を手に入れた後も、増したのは回転力だけでコツは全然掴めていませんでした。


「フックなんて一番力使わないパンチですよ」と辻倉さんが言っていましたが、力の抜き方がわからなかったので、サンドバッグやミット打ちでは力任せに振り回していました。


「こうやって打つのか」と理解したのはつい最近です。

健康体操代わりにシャドーボクシングをしていた時に「これ正解じゃね?」という力の抜けた流れるようなフックが打てるようになりました。

無性にサンドバッグが打ちたいなと思いましたが、近所迷惑になりそうなので購入は諦めました。

残念な発見でした。


ミット打ちを終えた後、息を整えていた時に拳ダコがミット打ちをしていたのを見つけました。

蹴りが独特のフォームだったのが印象的で、かなりデカい音を立てていました。


「あの蹴りをこれから受けるんだよな」とぼんやり思って見つめていました。

不思議とビビりはしませんでしたね。


拳ダコのミット打ちの見学が終わった後はまったりしていました。

軽く動いていた気もしますが、よく憶えていません。緊張感が無かった事だけは確かです。


そこへ辻倉さんが会長に話しかけているのを、特殊スキル『地獄耳』でキャッチしてしまいました。


「60kg級、マエカワさんの相手だけ異常に強くありませんか?」


嫌な情報でしたが、拳ダコの拳ダコを見た時から覚悟はしていたので、軽く「やっぱりな」と感じたくらいで特にメンタルに悪影響は無かったです。



※  ※  ※  ※



試合開始の時間になりました。

参加者と関係者は1列になって試合場外で待機です。

一応言っておくとリングではありません、畳敷きかマットだったかは忘れました。


渡された防具は緩衝材が薄くて鼻の部分を守るものが無く、アゴもほぼむき出しの物だったと思います。

中島さんは「あっ、これ僕の嫌いなやつですね」とか言っていました。

関係者の人、間違ってたらすいません。


私の試合は3試合目だったと記憶しています。

1試合目が終わり、2試合目が終わり、ついに私の番という事で入場です。


しかしここで問題が発生、ツギハギの闘志がぶっ壊れました。


(あっヤバイ、これは戦えない)


全身の血の気が引いて、地面に流れていくような錯覚を覚えました。


恐怖です。


相手にというより試合をする事自体に恐怖を覚えました。


(ヤバイヤバイヤバイヤバイ)


それしか考えていなかったです。

始め! の合図がかかっても私の心は凍てついたままでした。


とりあえずタッチグローブを...と思って手を出したら空ぶってしまいました。

私は苦笑いして「やりなおそう」と不注意に左手を前に出した所へ拳ダコのミドルキックが飛んできました。


グシャって感じでしたね。

変な所に当たったせいで左ひじが一発でイカれました。

試合後に会長から「左壊した?」と聞かれたので驚きました。


(マジかこいつ!)


拳ダコの蹴りを食らった感想がこれです。

開始5秒も経たないうちに左ひじを故障した事で、私の闘志は完全に萎え...ることはありませんでした。


そうです。私はヤバイと感じた時に全力でアクセルを踏むタイプの人間なのです。


完全にキレていました。


ノーガードで突っ込み、拳ダコの顔面目掛けて連打を浴びせました。

何発かは直撃しました。

それで相手もキレたのかも知れません。

キックを使ってきたのが開幕の1発だけだったからです。


拳ダコは連打を返してきました。

防御をかなぐり捨てていた私は当然顔面に全弾受けました。

「重い」とは感じましたが、痛みはまったく無かったですね。


そこからは顔の殴り合いです。

左をぶっこわしていた私は「ひじ痛いな」と思いながらもフルパワーでパンチを繰り出し続けました。


しかし、殴り合いを制したのは拳ダコの方でした。

故障に加えて体重差もあったのでしょう。圧倒的に手数で負けていました。

それでもキレて冷静さを失っていた上に、対してダメージを感じていなかった私は、殴られながらも前進し、反撃の拳を顔面に叩き込みました。


辻倉さん曰く「顔から突っ込んでた」らしいです。


この時、拳ダコが放った右ストレートを右目に被弾したのですが、それが原因で後遺症が残りました。

右目だけパチパチと瞬きする事や完全に閉じてしまうという症状です。

一応眼科に見てもらったら「確かに普通の人とは違うね」と言われましたが処置は無かったです。

生活に支障はありませんが、仕事中に右側から見られた時、目を閉じたまま作業をしていたところを見つかって「大丈夫?」と心配されました。


もちろんキックで負った傷だという事は黙っていました。

「ちょっと右目が疲れやすいだけ」とか答えていた気がします。


拳ダコのセコンドは「倒せる! 倒せる!」と叫んでいましたが、私は「倒れるわけねーだろボケ」と思いながらパンチを返していました。

ローキックも1発だけ放った気がします。


そこまで! の合図で3分間ほぼフルでの殴り合いは終わりました。

体感ですが30発以上は顔面に被弾していた気がします。

私は負けを確信していたので、判定結果が出る前に「次の試合もがんばってください」と笑顔で拳ダコに伝えました。

キョトンとされましたね。

やっぱり私は変な奴なのでしょうか?


結果は当然3-0の判定負け。

2連敗です。


負けるべくして負けたって感じだったので、悔しさはあまり無かったですね。

その代わり「ひじが痛すぎるけど帰りの運転大丈夫かな?」とか考えていた気がします。

あと今回は酸欠にはなりませんでした。

試合後の吐き気も無かったです。


辻倉さんからは「マエカワさんの試合はプロでやったらめちゃくちゃ客が喜ぶやつですよ!」と慰められました。


会長にはまたしても「冷静にやったら勝てたかもね」とダメ出しされました。

しかし「主催者が良い選手だねって褒めてたよ」とも言ってくれました。

お世辞かもしれませんが、これは嬉しかったです。


ちなみに山本さんは勝利し、後日行われた2回戦で判定負けしてしまいました。



※  ※  ※  ※



ホテルに帰った私は試合の事を思い出して悔し泣きした...とウソ書きたいところですが止めておきます。

2試合連続で暴走機関車になって判定負けした事も反省していませんでした。

そうです。私は猿ではないので反省はしないのです。


逆に「あの状態から思ってたよりマトモに試合ができて良かった」とすら考えていました。

格闘技ナメててすいません。


夜の8時くらいに辻倉さんから電話が来て「何してました?」と半笑いで尋ねられたので「寝てました」とボケが思い浮かばなかったので適当に返しておきました。


「ダメージの事もあるし、一人なんで気を付けて帰ってくださいね」

と優しい言葉もかけてもらいました。


月曜日も休みを取っていたので、激闘後にその日のうちに帰るという強行軍にならなかったのはナイス判断でした。


ですが、東京観光する元気は無かったので、チェックアウト後はそのまま家に帰りました。

断じて風俗には行っていません。


拳ダコに殴られた右目は薄くあざになっていましたが、これくらいなら眼鏡かけていればバレないだろうと職場への言い訳は必要無さそうでした。

顔の腫れも全く無かったです。


左ひじは痛かったですが、運転に支障はありませんでした。

こちらは数日後には痛みも無くなっていて、特に後遺症も残らなかったです。


後日知ったのですが、あの大会は衛星放送で中継されていたらしいです。


武道館で試合して中継までされていた。

なんだか夢のような話です。


また一つ、自分の人生だったのか疑わしいエピソードが増えました。


家族へのお土産はひ〇こにしておきました。

定番ですね。


この大会以降グローブ空手の試合に出場する事はありませんでした。

なので道着の出番はもうありません。


退会した後は記念に取っておこうか迷いましたが、燃えるゴミに出してしまいました。


「よくあれだけのパンチを貰って立っていられたな」


右目がパチパチするたびに大会の事を思い出します。

敗戦の記憶ではありますが、今では美しい思い出の一つとなっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ