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異世界の即席エンジニアリング

「……よし、仕様は固まった。実装に移るぞ」

俺は折れた車輪の前にしゃがみ込み、脳内で組み立てた「修理プラン」を呟いた。

前世で何度もやってきた、納期直前のデスマーチ対応。手元にある限られたリソース(素材)だけで、システム(馬車)を最短で仮復旧させる。あの地獄の経験が、まさか異世界の河原で役に立つとは人生わからないものだ。

「カズトさん、本当にそんな黒焦げの木材で直せるんですか……?」

アレンが不安そうに、俺がアイテムボックスから取り出した「我が家の形見(大黒柱の端材)」を見つめている。

「心配するな。この木、見た目は悪いが、女神が用意した……いや、ちょっといい頑丈な木なんだ。【鑑定】でも強度は保証されてる」

さらに俺は、アイテムボックスの奥底から別のものを取り出した。

一昨日の夜、ウルフを解体した際に出た、使い道がなくて放置していた『ウルフのけん』と『強靭な皮の紐』だ。

「アレン、ちょっとその端材を押さえててくれ」

「は、はい!」

アレンに木材を固定してもらい、俺は折れた車輪の主軸に、添え木をするように我が家の端材をあてがった。

そして、ウルフの腱を巻きつけていく。ウルフの腱は、乾燥すると縮んでガチガチに固まる性質がある。これを即席の「結束バンド」として利用するのだ。

さらに、仕上げとして俺は右手をかざした。

「【生活魔法:着火ティンダー】」

ボッ。

小さな火種をウルフの腱に近づけ、炙るように熱を通していく。熱を加えることで、腱はさらに急速に収縮し、木材と車輪を凄まじい力で締め付けた。みしり、と木が鳴り、完全に一体化する。

「お、おおお……!? びくともしない! 折れる前より頑丈になってる気がします!」

アレンが車輪を揺らし、目を丸くした。

「よし、フロント環境のパッチ当ては完了だ。これなら街までは十分に持つ。……【鑑定】」


> **【応急修理された馬車の車輪】**

> 状態:稼働可能(耐久度:78/100)

> 特徴:元の車輪より若干重量が増したが、ウルフの腱による固定と頑丈な大黒柱のおかげで、街までの悪路にも耐えうる。


「オールグリーン。完璧だ」

俺は立ち上がり、パンパンと服の煤を払った。

その時、「う、ううむ……」と馬車の陰から低い呻き声が聞こえた。

毒を盛られて倒れていた御者のムト老人が、ゆっくりと目を開けたのだ。顔の赤みもすっかり戻っている。

「ムトさん! 気がついたんだね!」

アレンが駆け寄る。老人はまだ少しふらつきながらも、自力で上半身を起こした。

「アレン、か……。ワシは一体……。確か、大クモに刺されて……」

「カズトさんが助けてくれたんだよ! ウルフの胃液で毒を消して、馬車の車輪まで直してくれたんだ!」

アレンの説明を聞き、ムト老人は驚いたように俺を見た。そして、深く深く頭を下げた。

「おお、命の恩人殿……。なんと御礼を言えばよいか。ワシの不調のせいで、アレンの大事な初商いを台無しにするところじゃった……」

聞けば、アレンは今回が初めての遠征仕入れだったらしい。

街のギルドから格安で買い叩いた「ある商品」を、隣の大きな街へ運んで一山当てるはずが、この森でフォレスト・スパイダーの奇襲に遭い、詰みかけていたのだという。

「アレン、その大事な商品ってのは何なんだ?」

気になって尋ねると、アレンは馬車の荷台のほろをめくって見せてくれた。

そこにあったのは、大量の『青い薬草』の山だった。

「これです! 【ブルー・ハーブ】っていう、傷薬の材料になる薬草なんですけど、今年は大豊作で街じゃ二束三文で余ってて。でも、隣の鉱山街へ持っていけば、倍以上の値で売れるはずなんです!」

俺は荷台の薬草を【鑑定】してみた。


> **【ブルー・ハーブ(生)】**

> 状態:やや萎び始めている(品質:C)

> 特徴:傷薬の原料。採取から3日以上経つと、急速に薬効が薄れる。現在の消費期限:残り24時間。


「……おい、アレン」

俺の顔から引きつった笑いが消えた。

「え? なんですか?」

「お前、ここから街まで、馬車で丸一日かかるって言ったよな?」

「はい、急いでも明日の昼過ぎですね」

「この薬草、あと24時間でただの雑草になるぞ。ギルドが安く売ったのは、豊作だからじゃなくて『消費期限切れ直前の不良在庫』を初心者に押し付けたんだよ」

「えっ……!?」

アレンの顔から血の気が引いていく。

「そんな……じゃあ、街に着く頃には、全部ゴミに……? 俺の全財産をはたいた仕入れが……」

絶望に震え、涙目を浮かべる少年商人。

それを見つめる俺の脳裏に、前世の社畜プログラマーとしての、そしてシステムエンジニアとしての悲しいさがが騒ぎ出していた。

(……納期、残り24時間。要件は、商品の品質維持。手元にあるリソースは……)

俺は自分の【無限収納アイテムボックス】に意識を向けた。

女神が言っていたっけ。『アイテムボックスの中は、時間が停止します』と。

「……アレン。お前の初商い、俺がコンサルティングしてやろうか?」

煤まみれの元SEは、不敵な笑みを浮かべた。異世界スローライフなんてできるわけない。ならば、全力でこの世界の「ビジネス」をハックしてやるまでだ。

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