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夜戦、そして泥沼の籠城

「グルルル……」

「ガルゥ……」

半壊した小屋の壁に空いた大穴。そこから覗くのは、闇に怪しく光る無数の緑色の眼光だった。

フォレスト・ウルフの群れ。昼間に俺が倒したのは、この群れからはぐれた個体だったらしい。そして今の俺は、血の匂いをプンプンと漂わせた、逃げ場のない極上のディナーだ。

『ピコン! スキル【危険察知:Lv1】が【危機感知:Lv2】に統合・レベルアップしました』

「今そんな親切設計いらねぇから! 脳内のアラームがうるさくて集中できない!」

パニックになりそうな頭を必死に叱咤する。

敵はざっと10匹。まともに戦えば10秒でバラバラの肉塊にされる。生き残る手段はただ一つ、この狭い地形と、手元にある「凶器」を最大限に利用することだけだ。

「まずは、近づけさせるな……ッ!」

俺はアイテムボックスから、昼間の探索で拾っておいた【爆破イチゴ(ブラスト・ベリー)】を1玉、大穴の向こうの群れに向けて全力で投げつけた。

「ガウッ?」

先頭のウルフが鼻先でそれを捉えた瞬間――。


**ドォォォン!!**


凄まじい爆音と閃光が夜の帳を切り裂いた。

「ギャン!」という悲鳴とともに、前衛の2匹が吹き飛ぶ。だが、群れは怯まない。むしろ仲間の血の匂いに興奮したのか、残りの個体が次々と大穴から小屋の内部へと躍り込んできた。

「来いよ、ブラック企業のデスマーチに比べれば、お前らの突撃なんて可愛いもんだ!」

半分ヤケクソで叫びながら、俺は次の手を打つ。

狭い小屋の中にウルフがなだれ込んでくる。密集した空間。これこそが狙いだ。

「【生活魔法:着火ティンダー】!」

俺が放ったのは、ウルフではなく、足元の床――昼間、俺が苦労して解体し、アイテムボックスに仕舞いきれずに散らばっていた『ウルフの脂の塊』だ。

ボッ!

脂に引火した火は、一瞬で激しい業火へと化けた。狭い小屋の入り口付近が、炎の壁で分断される。

「ガアアァ!?」

炎を嫌って動きを止めるウルフたち。その隙を、俺は見逃さなかった。

手元に残った最後の爆破イチゴを、炎の向こうの過密地帯へと転がす。

「これで、終わりだぁぁ!」


**ズドォォォォン!!!**


本日二度目の大爆発。

今度は狭い室内での爆発だ。凄まじい衝撃波が俺を襲い、残っていた小屋の天井がバリバリと音を立てて崩落した。

俺は頭を抱えて床に伏せる。背中に木片や土砂が容赦なく降り注いだ。


……数分後。

耳鳴りが響く中、ゆっくりと頭を上げる。

「げほっ、ごほっ……!」

煙が薄れるにつれ、目の前の惨状が明らかになった。

小屋は完全に全壊。もはや天井はなく、夜空の月が丸見えだ。そしてそこには、爆風と炎で消し炭一歩手前になったウルフたちの死体が転がっていた。生き残った数匹は、あまりの恐怖に尻尾を巻いて夜の森へと逃げ帰っていくところだった。

『経験値を大量に獲得しました。レベルが5に上がりました』

『スキル【火耐性:Lv1】【投擲:Lv1】を獲得しました』

『称号【群れを討つ者】を獲得しました』

頭の中でファンファーレのような音が鳴り響く。

だが、俺の心は1ミリも踊らなかった。

「あはは……レベル、上がったなぁ……」

俺は煤まみれの顔で、ぽつりと呟いた。

周囲を見渡す。

女神がくれた、優雅なスローライフの拠点だったはずの木造小屋は、今や見る影もない。ただの「燃え盛る木屑の山」と化していた。

家を、失った。

異世界に転生して、わずか2日。

手元にあるのは、血塗れの短剣、わずかなウルフの生肉、そして無駄に上がったレベルだけ。

服はボロボロ、今夜の宿はなく、周囲には肉が焦げる嫌な臭いが立ち込めている。これから別の魔獣が来ないとも限らない。

「スローライフ……スローライフって、何だっけ……?」

満天の星空は呆れるほど綺麗だったが、今の俺には、それを見上げる心の余裕なんて微塵もなかった。

文明のありがたみを骨の髄まで噛み締めながら、俺は燃える我が家の残骸の側で、武器を握りしめたままガタガタと震え続けるのだった。

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