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ギルドの一角落ちる

「ええっ!? 職人ギルドの若手を引き抜くんですか!?」

アレンのひっくり返った声が室内に響いた。

「そうだ。驚くことじゃない。職人ギルドの構造は典型的な『ピラミッド型の搾取構造』だろ? 旨い汁を吸っているのはバルトロのような一部の幹部だけで、実際に手を動かしている若い職人は、安い徒弟賃金で徹夜のサービス残業をさせられているはずだ。つまり、彼らの不満度は限界に近い」

俺は手元の書類(求人票)をアレンに滑らせた。


* **【カズト・アレン商会 募集要項】**

* **職種:** 魔導回路生産ラインのマネージャー、および次世代魔道具の開発補助

* **給与:** 職人ギルド時代の**一律3倍(固定給+インセンティブ支給)**

* **勤務時間:** 1日8時間(完全週休2日制、深夜労働の原則禁止)

* **福利厚生:** 商業ギルド公認の安全な宿舎完備、魔力回復薬ポーション支給


「完全週休2日……? 1日8時間……? カズトさん、これ、労働環境がホワイトすぎて逆に怪しまれませんか?」

「前世の基準からしたらこれでもまだ標準なんだがな……異世界の労働環境は本当にブラックすぎる。だが、この圧倒的な条件の差こそが最大の武器だ。アレン、職人ギルドの息がかかっていない中立の酒場に、この募集要項を『噂』として流せ。あいつらの組織に強烈なドミノを仕込むんだ」

「分かりました……! すぐに手配します!」

アレンが目を輝かせて部屋を飛び出していった。


---


その二日後。

職人ギルド・フォルトン支部は、静かな、しかし決定的な『システムダウン』を迎えていた。

「おい、どういうことだ……。なぜ今日の朝会に、中堅と若手が半分も来ないんだ……!?」

バルトロはガタガタと震えながら、誰もいない広大な作業場を見下ろしていた。

いつもなら、朝早くから鉄を叩く音や、魔銀を錬成する熱気が満ちているはずの場所が、不気味なほど静まり返っている。

そこへ、残った一人の年老いた幹部職人が、顔を真っ青にして駆け込んできた。

「ギ、ギルド長! 大変です! ハンスやレイルをはじめ、うちの有望な若手職人たち三十名が、一斉に『退職届』を置いていなくなりました!」

「なんだとぉっ!? あいつら、ギルドを裏切ってどこへ行った!?」

「アレンの商会です! あそこが立ち上げた新しい『魔道具生産工房』に、信じられないほどの好条件で一斉に転職した模様です! しかも……!」

幹部は言葉を詰まらせ、さらに絶望的な事実を告げた。

「あいつら、自分が担当していた顧客リストや、最低限の工具まで持ち出していまして……現在、我がギルドの受注しているランプやコンロの納期が、完全に遅延しております! 各地の貴族や商人から『違約金を払え』とクレームが殺到しています!」

「ぐ、は……っ!?」

バルトロは胸を押さえ、その場に膝をついた。

技術を失い、さらに労働力まで一気に引き抜かれたのだ。今の職人ギルドは、外見だけ立派で中身が完全にクラッシュした「ハリボテのシステム」に過ぎない。

「カズト……アレン……! おのれ、よくも我がギルドを……っ!!」

バルトロの怨嗟の声が、誰もいない冷え切った作業場に虚しく響き渡る。

市場の原理と労働環境のアップデートによる、無血の組織解体。俺の仕掛けた人材の引き抜きは、職人ギルドという巨大な会社を、根底から腐らせて崩壊させつつあった。

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