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策略決行

「仕様書通り、完璧な仕上がりだ。素晴らしいな、ハルクさん」

翌日。商業ギルドの紹介で極秘裏に契約した、街外れの頑固な陶器職人・ハルクの工房。

俺は焼き上がったばかりの『魔導回路用・白粘土ベース』を検品していた。

俺が貸し出した鉄製の金型でプレスされた白粘土板には、ミクロン単位の狂いもなく、カズト式バイパス回路の溝が刻まれている。

そこに、錬金術師に作らせた「魔銀の粉末」と「松脂の定着液」を混ぜた導電性インクをヘラで流し込む。乾けば、それだけで通電効率100%の高級基板(魔導回路)の完成だ。

「へっ、最初はどんなお遊びかと思ったが……まさか、魔道具の心臓部を『型押し』で作っちまうなんてな。あんた、悪魔にでも知恵を売られたのかい?」

職人気質の親方ハルクは、呆れ果てたように煙管キセルをふかした。

「いや、ただの効率化ですよ。ハルクさん、これで1日に何枚作れます?」

「手伝いのガキども総出でプレスさせりゃ、1日に300枚はカタいね」

「よし、生産能力は十分だ」

俺はアレンを振り返った。アレンの背後には、彼が必死に買い集めてきた低品質の「割安な魔石」が、カゴいっぱいに詰め込まれている。

「アレン、組み立てラインの構築はどうだ?」

「バッチリです! 商業ギルドの身元が確かな身寄りがない若者たちを10人雇いました。回路の仕込まれた粘土板を木製のケースにはめ込み、レバーを取り付けるだけの単純作業ですから、半日の研修で全員が完璧にマスターしましたよ!」

「素晴らしい。属人性を排除した完全な『マニュアル化(自動化)』だな。これでファーストロットの300個が完成した。……行くぞ、アレン。職人ギルドの息の根を止めにいく」


---


その日の深夜。

フォルトンの街の『深夜露店通り』は、薄暗いオイルランプの煙と、冒険者たちの怒号で満ちていた。

深夜営業の露店主たちは、夜間の高い灯油代に頭を悩ませ、冒険者たちは暗がりのなかで不便そうに武器や道具を点検している。

そこへ、アレンが商業ギルドの台車を引いて乗り込んだ。

「さあさあ、夜間に働くすべての人々へ! 商業ギルド公認、歴史を塗り替える新発明のランプをお持ちしました!」

アレンがよく通る声で叫ぶ。だが、周囲の反応は冷ややかだった。

「おいおい、兄ちゃん。魔導ランプなんて高嶺の花、俺たち露店商やC級冒険者に買えるわけねえだろ? オイルの煙で十分だよ」

「そうですよ。通常なら金貨2枚はします。……ですが! この『スイッチ式魔導ランプ・一号』は、なんと**大銀貨3枚でのご提供です!」

「「「……はあ!?」」」

周囲の空気が、一瞬で凍りついた。

大銀貨3枚。それは、一般の市民でも少し節約すれば手が届く、文字通りの破壊的低価格。

「おい、騙されるな! そんな値段、まともな魔道具なわけ――」

「まあ見ていてください」

アレンが不敵に笑い、台車の上のランプの真鍮製レバーを「カチリ」と押し下げた。

フワァッ……!

煤煙まみれの薄暗い通りに、昼間のような、圧倒的にクリアで温かみのある魔導の光が広がった。その光は、周囲のオイルランプの灯りを完全に過去のものへと追いやっていく。

「な……なんだこれ、めちゃくちゃ明るいぞ!?」

「おい、今、レバーを倒しただけで点いただろ!? 魔石を触ってないぞ!?」

「はい! 指一本でON/OFFが可能! 魔石の寿命も従来の1.5倍長持ち! さらに、万が一落としても壊れにくい強化木製ケース仕様です!」

アレンのプレゼンが炸裂する。

驚きと興奮が、夜の市場に津波のように広がっていく。

「おい、俺に一品くれ!」

「私にも! 店の分と合わせて三つ頂戴!」

「俺もだ! これがあれば夜のダンジョン探索の安全性が跳ね上がる!」

「毎度あり! 順番にお並びください、在庫は十分にあります!」

押し寄せる客の波。

夜番の衛兵、夜間営業の串焼き屋、これから討伐に向かう冒険者たちが、狂ったように大銀貨を投げ込んでいく。

瞬く間に積み上がっていく銀貨の山を見ながら、俺は通りの陰で腕を組み、静かに眼鏡を上げた。

「これが市場の要求ユーザーニーズだ、職人ギルド。お前たちの『利権という名の旧システム』、これにてサービス終了だ」

爆発的な売り上げを記録した異世界の夜。

俺たちの進めた「魔道具の民主化」は、一晩にして、フォルトンの街の夜を完全に書き換えてしまった。

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