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「逆境の返り討ち」という名の策略

俺たちは『跳ね馬の蹄亭』の部屋を借りた。

アレンはまだ少し手を震わせながら、ハーブティーのカップを握っていた。部屋の入り口には、ライラックが手配してくれた商業ギルドお抱えの護衛ガードが二人、厳重なセキュリティとして立っている。

「す、すみませんカズトさん。まさか職人ギルドが『闇ギルド』の息がかかった暗殺者(ならず者)を使って実力行使に出てくるなんて……」

「いいさ、リスク要因が早い段階で明確になっただけマシだ。それに、あいつらは致命的な悪手バグを犯した」

俺は机の上に、白紙の羊皮紙を叩きつけた。

「商業ギルドの『意匠登録』がある以上、あいつらは表立ってこのランプをコピーして売ることはできない。だから俺たちを物理的に消そうとした。だが、これで商業ギルドのトップ――ライラックさんは、職人ギルドに対して完全に激怒(ブチ切れ)モードだ。大通りで爆発騒ぎを起こされて、ギルドのメンツは丸潰れだからな」

「確かに……ライラックさんは、さっき『徹底的に裏を洗って、職人ギルドの幹部を吊るし上げてやる』って、恐ろしい笑顔で言ってました」

「政治的な防壁ファイアウォールはライラックさんに任せればいい。で、俺たちの仕事は、あいつらが手も足も出ないレベルの『圧倒的な市場独占』を完成させることだ」

俺は羽ペンを走らせ、羊皮紙に新しいロードマップ(開発計画)を書き殴っていく。

「製品名:『スイッチ式魔導ランプ・一号(仮)』。アレン、当初予定していた貴族向けの高級品ルートは一時凍結する。まずは『圧倒的な低価格』で、一般市民と冒険者層の市場を一気にハックするぞ」

「えっ……!? て、低価格ですか? でも、魔導ランプって本来は中流階級以上のもので……」

「これを見るんだ」

俺は羊皮紙に、昨日デバッグした『導電インクによる転写製法』のコスト計算(試算表)を提示した。


* **従来製法(職人による手彫り+魔銀融解):**

* 製造時間:3日

* 原価:大銀貨5枚

* 販売価格:金貨2枚(一般市民には手が届かない)



* **カズト式(プレス金型+魔銀粉末ペースト):**

* 製造時間:5分(乾燥時間除く)

* 原価:**大銀貨半分(10分の1以下)**

* 予定販売価格:**大銀貨3枚**


アレンが試算表を二度見し、三度見し、最終的に「あ、ありえない……」と声を枯らした。

「原価が10分の1……!? 売り値を大銀貨3枚にしても、利益率が驚異の80%オーバー……!? これ、一般市民でもちょっと貯金すれば買える値段ですよ!?」

「そうだ。職人ギルドの連中が『手作りの伝統と格式』にあぐらをかいている間に、こっちは『工場制手工業マス・プロダクション』で市場に供給過多を起こす。あいつらが暗殺者を雇う金が尽きるか、職人としてのプライドが崩壊するまで、圧倒的な物量と低価格ダンプで殴り倒すんだよ」

前世のテック市場でもよくあった。どれだけ優れた技術を持っていても、圧倒的な資本力と製造コストの差で、新興の海外メーカーに市場を根こそぎ奪われるレガシー企業が。

それを、この異世界で再現してやる。

「これぞ『コストリーダーシップ戦略』だ。アレン、今すぐ商業ギルドのツテを使って、信頼できる『白粘土の焼き物工房』を丸ごと一つ買い叩け、いや、専属契約を結ぶんだ。金型は俺が【精密操作】で原盤を作る。それを鉄鍛冶に複製させる」

「わ、分かりました! 商業ギルドのライラックさんを保証人に立てれば、職人ギルドの嫌がらせを受けない工房の確保はすぐに可能です!」

アレンの目に、恐怖ではなく「商人の野心」が燃え上がり始めた。ピンチをチャンスに変える、こいつもなかなかのベンチャー気質だ。

「よし、発売は三日後。ターゲットは、この街で最も拡散力の強い『冒険者ギルドの夜番たち』と『深夜営業の露店通り』だ。異世界のブラック労働環境を、俺の光で照らし出してやるよ」

スローライフの邪魔をする奴らは、市場の原理という名の濁流で、一人残らず溺死させてやる。

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