中央広場の防衛戦
「追手……っ!?」
アレンの顔から血の気が引く。彼は商売の天才だが、戦闘に関しては完全に一般のスペック(非戦闘員)だ。ここでパニックになられては、こちらの足並みが乱れる。
「落ち着け、アレン。歩くペースを崩すな。相手の目的はおそらく、新意匠の書類か、試作品の奪取。あるいは俺たちの口封じだ。大通りじゃ手を出してこない。だが、裏路地に誘い込まれたらアウトだ」
俺は脳内で高速に周囲の地形をレンダリングする。
中央広場はすぐそこだ。昼下がりの広場は露店が並び、買い物客や衛兵で賑わっている。そこは彼らにとって最も「法が厳格に適用される場所」であり、手出しができない安全地帯のはず。
だが、敵もそれを察知したらしい。
「ちっ、気づかれたか! 構うな、ここで仕留めるぞ!」
背後から低く鋭い声。
人混みを割り、マントの男たちが一気に加速した。大通りの端、ちょうど路地裏への分岐点で、彼らは懐から異様な形状の魔道具――小型の『魔導空気銃』を突き出してきた。
(遠隔攻撃だと……っ!)
「アレン、伏せろ!」
俺はアレンの襟首を掴んで強引に地面へ引き倒した。
直後、シュパッという風切り音とともに、俺たちの頭上があった空間を、麻痺毒の塗られた鉄針が通り過ぎていく。石壁に当たって火花を散らす針。
「ひっ……!」
悲鳴をあげるアレン。周囲の買い物客たちも異変に気づき、「な、なんだ!?」と騒ぎ始める。
「一般市民を巻き込むか。完全に法律を無視した犯罪者だな」
俺は倒れたアレンを背中に庇いながら、素早く立ち上がった。
敵は三人。距離は約五メートル。中央広場まではあと数十メートルある。衛兵が駆けつけるまで、およそ一分。その一分間、俺の貧弱な戦闘ステータスでこの場を維持しなければならない。
「【鑑定】」
俺は一瞬で敵のデータをスキャンした。
> **【対象:職人ギルド雇われの暗殺者】**
> **【レベル:14】**
> **【メインスキル:隠密、短剣術、連携】**
レベル14。ウルフより遥かに高い。まともにブレード(短剣)を交えれば、SE上がりの俺など数秒で細切れだ。
「だが、お前たちの行動パターン(アルゴリズム)は単調だ」
三人がかりで一斉に間合いを詰めてくる男たち。
俺は腰のポーチから、さっきまで弄んでいた『試作型・システムコンロ(魔石抜き)』を引っ張り出した。そして、もう片方の手で、ポケットにあった最高品質の『赤魔石』を握りしめる。
「おいおい、そんなおもちゃで抵抗する気か?」
先頭の男が、せせら笑いながらダガーを突き出してきた。
「おもちゃじゃないぜ。」
俺は、コンロの「火力調整ダイヤル」を最大値まで回しきり、剥き出しの回路に赤魔石を直に叩き込んだ。
通常、魔導コンロは内部の抵抗ルーンで魔力を安全に変換する。
だが、俺が昨日施したリファクタリング(改造)により、ダイヤル最大時は「魔力を一切制限せずに熱伝導石へ流し込む」という、安全装置を完全解除した仕様になっていた。
高純度の魔力が、一瞬でコンロの熱伝導板にオーバーフロー(過負荷)を起こす。
「――エラーコード:熱暴走」
俺はコンロを、突っ込んでくる男たちの足元へ放り投げた。
直後。
眩い赤色光とともに、コンロが凄まじい「熱波の爆風」を巻き起こして炸裂した。爆弾ほどの破壊力はない。だが、一瞬にして周囲の空気を数百度にまで跳ね上げる熱の塊だ。
「ぎゃああああああっ!?」「熱っ、目が、目がぁぁぁ!」
まともに熱風を喰らった男たちが、顔を押さえて転げ回る。マントがチリチリと焼け焦げ、大通りの石畳が熱で爆ぜていた。
「よし、足止め完了」
俺はへたり込んでいるアレンの手を掴み、一気に引っ張り上げた。
「おい、走るぞアレン!撤退だ!」
「は、はいぃぃぃ!」
騒ぎを聞きつけた衛兵たちが「何事だ!」「あっちから爆発音が!」と槍を鳴らして走ってくるのが見える。男たちは衛兵の影を見るや否や、火傷を負った身体を引きずりながら、脱兎のごとく路地裏へと消えていった。
中央広場の安全地帯へ滑り込み、俺は大きく息を吐き出した。
心臓がバクバクと五月蝿い。冷や汗が背中を伝う。
「ふぅ……。スローライフを送るためのインフラが、まさか即席の兵器になるとはな」
俺は煤けた手を眺めながら、自嘲気味に呟いた。
職人ギルド。あいつらは、自分たちの既得権益を守るためなら、文字通り物理的に人間を消しにくる。
「カズトさん……す、すみません、僕のせいで……」
ガタガタと震えるアレン。
「謝るな。これでハッキリした。あいつらは俺たちの技術を恐れている。なら、次のフェーズ(開発)を急ぐだけだ」
俺は中央広場の青空を見上げ、眼鏡の位置を直した。
売られたケンカなら、倍のロジックで叩き返す。職人ギルドを完全に市場から叩き出すための「次の一手」を、俺の脳内コンパイラはすでに高速で組み上げ始めていた。




