外務省の片隅で(2/6)
外務省と異世界は繋がっているらしい。
そんな都市伝説のような噂は、実際に入省してみると本当だった。
異世界と言うと一気にファンタジーみたいなイメージになるけど、その世界のシオガ国とは同盟を結んでいて交易もあり、手続きも作業も至って事務的だった。
一見クールな栗山はああ見えてかなりのオタクなので異世界と言うだけで最初はテンションが上がってたけど、契約書や同盟での手続き項目等の羅列を見て一気に現実に引き戻されたみたいだった。
異世界だろうとどこだろうと、外交なのは変わりがないからだ。
そのシオガ国との窓口業務を担当しているのが政策課であり、祷雨という大昔行われていた儀式を現代で再現しようという計画に斎藤さんは奔走していた。
色々資料を読んだり斎藤さんの業務の補佐を行ったりしたけど、私はなぜ斎藤さんがこれに精力を注いでるのかはいまいち分かってなかった。
逆に栗山のほうが祷雨に興味津々で、私が教わることも多かった。
「龍ねえ、本当にそんなのいるのかな?」
私が言うと、この間飲んだときとは逆のテンションで栗山は熱く語った。
「でも日本には龍神信仰が根付いてるし、龍は雨の神って位置付けじゃん。絶対繋がってるんだって。斎藤さんは日本でもそれを行いたいって言ってるんでしょ? 絶対見たいわ。いいなあ、私も政策課行きたい」
「異動希望出したら?」
「出してるよ。でも当分無理みたい」
「まあ、私は斎藤さんの仕事を全力サポートできたら何でもいいんだけどね」
「それもどうかと思うけど」
そんな感じで1年ほど過ぎ、祷雨計画が佳境になってきて、斎藤さんは実際にシオガに出向くことが増えてきた。
異世界って意外とあっさり行けるんだな。
そんなある日、私は気づいた。気づいてしまった。
斎藤さんと矢野さん、何かあったなと。
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「矢野さん、予算委員会の答弁草案、もう完成されたんですか?」
相変わらずある課長補佐が煮詰まってしまい時間がかかると覚悟していた草案が、不意に矢野さんから持ち込まれたので私は驚いた。
「ああ、あれ論点ずれてたんですよ。明日の予算委に間に合ってよかったです」
思わず顔に嬉しさが出る。
「ありがとうございます。これで進められます」
軽く頭を下げ、自席に戻る。
良かった。この時間なら今日中には仕上げられる。
そう思いながらもふと矢野さんを見る。
別におかしいところはないし、いつもの淡々とした感じで仕事は進めている。
でも────
パキッと軽い音がして矢野さんが持っていたボールペンを見、諦めて別のボールペンを引き出しから出しているのを見た。
普通にインクが切れただけかもしれない。
でも何かが引っ掛かる。
おまけにスマホをちょくちょく見てるし、斎藤さんの方を少し気にしてるようにも見える。
斎藤さんはいたっていつも通りで、何の変化も見えない。
気のせい? いや、どうなんだろう。
気になるけど、私は自分の仕事をしなきゃいけない。
そう思い、自分のPC画面に集中することにした。




