外務省の片隅で(3/6)
「斎藤課長補佐、2回目の祷雨の巫女派遣も失敗に終わったと聞きましたが」
ある日、祷雨計画の定例会議であの新島が発言した。
斎藤さんは淡々と答える。
「はい、残念ながら期待する結果は得られませんでした。まだ次の派遣機会がありますので巫女選定から再検証を行いたいと思っております」
すると新島が軽く鼻で笑うように言った。
「そもそも現時点では本計画の実現可能性について、まだ十分な検証ができていないのではないでしょうか。400年前の記録を根拠に、現代において同様の現象が再現できると国民に説明できるのか、そこは慎重に考える必要があると思いますが」
「それをこれから検証します」
「既に税金も投入してますし二度の派遣で結果が出ていない以上、次回については相当慎重に選定されたほうがよろしいでしょうね」
そこでしばらく様子を見ていた矢野さんが口を開いた。
「新島課長補佐のおっしゃる懸念は理解しています。ただ、現時点ではまだ検証途中です。次回派遣に向けて選定方法も見直していますので、まずは結果を見てから評価していただければと思います」
堀江課長も続ける。
「前例のないことに取り組んでいるリスクは承知しています。ただ、現時点で中止する段階ではないと考えています。引き続き検証を進めましょう」
2人にそう言われ新島はその言葉にお手並み拝見と言った感じで斎藤さんに視線をやったけど、斎藤さんは我関せずと言った感じでスルーしていた。
新島が言ってることは理屈は通ってる。
でも、私は改めて思った。
こいつ嫌い。
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モヤモヤを抱えたまま自席に戻る。
普段の斎藤さんはガチガチの正論でどんなイチャモンも一瞬で論破するのに、今回の祷雨計画に関しては言われっぱなしだ。
確かに結果を出せていない以上、こちらは分が悪い。
ただ個人的に気に入らない新島から言われたということで、私のイライラは止まらなくなっていた。
あの新島のことだから、祷雨のことというより斎藤さんに絡みたいだけなんじゃないか。
そう思えて仕方ない。
マグカップにインスタントコーヒーの粉を入れ給湯室に行くと、斎藤さんがコーヒーを淹れていた。
職員は大体忙しいのでコーヒーを飲むにしても缶かインスタントでさっと淹れて席に戻る人が大半だけど、斎藤さんはいつもドリップでコーヒーを淹れていた。
この間が斎藤さんの僅かな休息時間なのかもしれない。
「……斎藤さん、お疲れさまです」
斎藤さんはこっちを振り向き「お疲れさまです」と返したあと、私がマグカップを持っているのに気づきポットの前からずれた。
「ありがとうございます」
お湯をさっと淹れさせてもらう。
給湯室の中は斎藤さんのコーヒーの香りが漂い、ほっとする空間になっていた。
「……さっきの新島さん、かなり突っ込んできましたね」
思わず斎藤さんに愚痴ってしまう。
私がポットの前からどくと、斎藤さんはお湯をゆっくり注ぎ足しながら言った。
「祷雨計画は反対派も多いですからね。あれくらい想定内です」
「……そうですか」
「でももう次が最後のチャンスだから、失敗できないのも事実なんですけどね」
斎藤さんは女性にしては少し背が高いしいつも堂々としてるから存在感はあるんだけど、こうやって間近で隣に立つと華奢さが目立つ。
新島始め、ヤイヤイ文句言ってるだけの連中に対してこの人は一人で毅然と戦ってるんだ。
そう思うとますます私はこの人を支えたいと思った。
「祷雨計画、絶対成功させましょうね。私も全力でサポートしますから」
すると斎藤さんはちょっと驚いたようにこっちを見たけど、少し表情を緩めた。
「ありがとうございます。助かります」
そのフワッとした笑顔がまた私の脳天に刺さる。
……斎藤さん、一生ついていきます。




