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熱海一泊旅行(3/4)

バスローブのままベッドに倒れ込む。


これは湯あたりか? いや、それだけじゃないよな……。


熱海に着いてまだそんなに時間がたってないけど、俺の心臓持つんだろうか。


そう思ってると、フッと眠気がやってきた。


あー、ここんとこ、忙しかったからな。


絶対土曜日出勤は避けたかったから、仕事を詰めてたのもある。


おまけに湯船に浸かったせいか怠さも出てきた。


そのままうつらうつらしていると────



額に何か温かいものが触れた。


何だ?


と思ったけど目が開かない。


これは夢かな?


そう思ってると


「悠樹」


紀子の声がした。


また温かいものが額に触れる。


「今日、誘ってくれてありがとう。嬉しかったよ」


ようやく薄目を開ける。


そこには白いバスローブを羽織った紀子がいた。


現実なのか夢なのか分からないけど、俺は思わず紀子の腕を引っ張ってベッドの上で抱き締めた。


紀子の体はいつもより暖かく、そして柔らかかった。


「……紀子、俺はさ……」


思わず呟く。


「……俺、本当はお前を外に出したくない。誰とも話してほしくないし、誰にも見られたくない。ずっと俺の腕の中にいてほしい……」


「……」


「……でも」


再び意識が沈みそうになるのを感じながら俺は続けた。


「……俺は、仕事してるお前も好きなんだよなあ……」


そのまま、俺は体の力が抜けていくのを感じた。




しばらくして、はっと目が覚める。


思わず身を起こすと、和室の座椅子に座ってスマホをいじっている紀子と目があった。


浴衣を着て、その上に半纏を羽織っている。


「起きた?」


「……ああ、今何時?」


「5時半過ぎだよ。そろそろ起こそうかと思ってた」


5時半と言うことは1時間以上は寝てたのか……。


せっかくの旅行なのにしくじったな……、思ってはっと気づいた。


「なあ、俺、変なこと言わなかった?」


「変なこと?」


「いや、あんまり覚えてないんだけど……」


少しの間を置いて、紀子は答えた。


「別に。いつもの悠樹だったよ」


「そ、そうか?」


ならいいんだけど。


少し安心して、俺もベッドから起き出し浴衣に着替えた。




─────────────────────




浴衣を滅多に着ないのでどっちが上だっけ?と迷ったけど、紀子に聞いて右前で合わせた。


半纏を羽織り冷蔵庫の中から水を取り出して飲む。


風呂に入ってから水分を取ってなかったから、結構喉が渇いていた。


水を飲みながら浴衣姿の紀子を見る。


前もきっちり合わせてるし半纏も着てるんだけど、何だろう、何でこんなに色っぽいんだ?


俺、食事喉を通るのかな?


と心配してるとドアがノックされ、宮本さんが現れた。


「矢野さま。お食事のご用意ができました。お運びしてよろしいですか?」


紀子と二人でうなずき座椅子に座ると、宮本さんともう1人の仲居さんが手早く料理を運び始めた。


飲み物を聞かれたので俺は瓶ビール、紀子は烏龍茶を頼んだ。


「当旅館では日本酒もお勧めしています。お風呂上がりに冷やで楽しまれる方が多いですよ。いかがなさいますか?」


日本酒か……、あまり飲まないな。


と思っていると紀子がさらっと答えた。


「じゃあ、1本お願いします」


え? と思ってると宮本さんは頭を下げた。


「かしこまりました。のちほど冷蔵庫の方へご用意いたします。お好きなタイミングでお楽しみください」


「ありがとうございます」


「……飲むの?」


思わず聞くと、紀子はあっさり頷いた。


「うん。たまにはいいかなって」


「飲んでるの見たことないから、飲めないのかと思ってた」


「飲めなくはないよ。すぐ眠くなるから飲まないだけ」


……そうなんだ。


でも初めて紀子と晩酌できるかもしれないと思うと、ちょっと楽しみになってきた。


そして目の前には様々な料理が並べられた。


宮本さんの説明によると、


先付

金目鯛の炙り 柚子胡椒添え

菜の花のお浸し いくら乗せ

生湯葉と雲丹の小鉢


お造り

本鮪中トロ

真鯛

地魚盛り合わせ


焼物

金目鯛の煮付け


とのことだった。


どの料理も手が込んできれいに盛り付けられている。


やっぱり熱海、海産物が旨そうだ。


「のちほど強肴をお持ちいたします」


そう言って宮本さんは一旦退室し、俺たちは乾杯して食事を始めた。


「誕生日おめでとう。紀子の方が3ヶ月誕生日早いもんな。少しの間姉さん女房だな」


すると紀子は少し冷めた目でこっちを見た。


「私にはこんな子供っぽい弟はいないよ」


「はいはい、そうですね」


「……悠樹こそ、最近お腹出てきたよね?」


口に含んだビールで噎せそうになる。


「……今それ言う? ってか気づいてたのか?」


「そりゃ分かるよ。一緒に住んでたら」


確かにここ半年で、ベルトの穴を二つ緩めたんだよな……。


「これでもお前と住んでから食生活はましになったんだよ。前は仕事帰りの夕飯はマックと牛丼とラーメンのヘビロテだったから」


「まあ、仕事終わりに開いてて手軽に食べられるってなるとその辺になるよね」


「なかなか運動の時間も取れないしな。……でもこれから白飯減らすわ」


「糖質は減らしすぎない方がいいよ。仕事で頭使うんだから」


そんな会話をしながら口に運ぶ食事は、絶品だった。


一口一口に料理人の拘りが感じられる。


普段は肉料理が多いけど、魚も旨いと感じるようになったのはやっぱり歳のせいだろうか。


「……紀子、魚料理好きだよな」


美味しそうにお造りを口に運ぶ紀子を見て思わず呟く。


昼休み、日替わり定食で魚がメインの時は紀子は大体それを選んでたから。


「うん。子供の頃から食べてたしね。でも家で作るのはお肉の方が手軽だからそっちが多いけど。……でも悠樹のメタボ対策のために魚増やそうか?」


「……そこは任せる」


そこまで喋ってたときに宮本さんがノックと共に入ってきて、強肴の伊勢海老の鬼殻焼き、地野菜の炊き合わせなどが並べられた。




─────────────────────




食事も終盤になり


土鍋炊きご飯

赤出汁

香の物


デザートで

抹茶ティラミス

フルーツ盛り


が運ばれた。


事前に誕生日だと伝えておいたので、紀子の皿には小さなバースデープレートも乗っていた。


それをしばらく紀子は見入っていた。


「……こういう祝われ方をしたの初めてかも」


「……じゃあ、これから毎年やろうか」


「次の悠樹の誕生日、どうする?」


「……考えとくよ」


喋りながらティラミスを口に運ぶ。


結局土鍋ご飯も旨くて完食したから、腹が一杯になった。


紀子も完食してたな。


あれだけ食べて体型が変わらないのは反則だろ。


そう思いながらつい自分の腹を見る。


……これからたまに腹筋でもするか。



食べ終わったタイミングを見計らって宮本さんがやって来てお皿を片づけ、お茶を入れてくれた。


「日本酒は先ほど冷蔵庫にご用意いたしました。この後はごゆっくりお過ごしくださいね」


「ありがとうございます」


宮本さんが退室した後、また二人だけの時間になる。


しばらく二人で無言でお茶を飲み、まったりとした時間を過ごした。


腹も落ち着いたころ、二人でまた風呂に入る。


もうすっかり日も落ち空も海も真っ暗で、熱海の町の夜景が浮かび上がっていた。


昼よりも空気が落ち着き波の音、そしてたまに通る電車の音が響く。


それ以外は何も聞こえない。


立ち上る湯気が夜の闇に漂い、それ越しに見る紀子は本当に輝いて見えた。


俺、本当に紀子と結婚してよかったな。


そして今回はのぼせすぎる前に風呂から出ることにした。




─────────────────────



バスタオルで体を拭き、浴衣と半纏を羽織って座椅子でスマホをいじっていると、紀子も浴衣を着てやって来た。


半纏を着ておらず湯上がりで顔も赤いから、余計に目のやり場がない。


「日本酒、飲むか?」


と聞くと紀子が頷いたので、冷蔵庫から徳利を取り出しお猪口も二つ並べる。


それにお酒を注ぎ軽く乾杯をした。


日本酒は飲みなれてないけど香りを嗅ぎ口にすると、すっきり辛口で仄かに甘い味がした。


これは飲みやすそうだな、と思っていると、紀子はお猪口に口をつけちょっとずつ飲んでいた。


「美味しいね、これ。ちょっと辛口で」


「うん。日本酒あまり飲んだことないけど、これは旨いわ」


紀子はすぐ眠くなると言っていたけど、どれくらいまで飲めるんだろう。


そう思っていたけど紀子はいたって普通で、2杯目をさっさと継いでいた。


ペース早くないか?と思ったけど、すいすいと飲んでいく。


大丈夫かな?


冷やだから飲みやすいけど、これ結構度数強いだろ。


そう思っていると、3杯目を継いで口をつけた後、お猪口をテーブルに置いた。


見ると少し目がとろんとしている。


あー、そろそろ限界かな。


ちょっと顔も赤らんできてるし。


俺も飲み慣れない日本酒だから少し酔いが回ってきたみたいだ。


ちょうど徳利も空になったし、いい頃合いかもしれない。


そう思い、ちょっとふわふわしてる紀子の方に近づいた。


「そろそろ寝るか? ベッドまで行ける?」


「うん……」


そう言ってこっちを見た紀子の目は完全に潤み、赤らんだ顔が完全に無防備な表情になっていた。


そんな顔するのかよ、お前。


すると紀子は甘えるように腕を伸ばし俺の首に絡めてきた。


そして顔を近づけ、耳元で囁いた。


「……悠樹、抱っこして」


「……!」


一気に酔いが覚めそうになる。


そんな俺の動揺をよそに、紀子は更に甘い口調で続けた。


「……早く。ベッド行きたい」


そう言いながら更にぎゅっとしがみついてくる。


ぶちギレそうになる理性を抑えながら、紀子の身体を抱え上げベッドまで連れていきそっと降ろした。


それでも紀子はしがみついてきて離れない。


……もしかして、紀子が飲まないのはこれのせいか?


こういうの見ると、本当にほっとけないんだよ。


これは絶対に外で飲ませられないな。


そう思いながら、俺もしがみついてくる紀子と共にベッドに沈んだ。



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