戦いのあと
(矢野視点)
解散総選挙の修羅場がようやく一息付いた。
澱んでいた省内の空気も少し柔らかくなり、とりあえず帰れる人は帰り支度を始めていた。
これからの仕事も山積みだが、それはあとから考えることにする。
今は少しでも早く帰って寝たい。
LINEで紀子に今から帰ると伝えると、即既読が付き「私も帰る。一緒に帰る?」と返事が来た。
OKの返事を返し、出入口で待ち合わせて一緒に帰ることになった。
以前は一緒にいるところを見られるなんてご法度だったけど、もう籍も入れて周りにも認知されてるし仕事中以外はそんなに神経質にならなくなっていた。
夫婦になることでの周りへの説得力もすごいが、何より紀子が普通に一緒に帰ってくれることも大きい。
でも今はそれをしみじみ喜んでる余裕もない。
とりあえず早く帰りたい。
お互い無言で電車に乗り家まで歩く。
紀子は相変わらず顔色は悪かったけど、とりあえず山を越えたせいか緊張感は緩んでいるように見えた。
途中でスーパーで買い物をするか聞いたが、紀子は無言で首を振った。
家には冷凍食品やレトルトもあるし、とりあえずは凌げるか。
そのまま無言でマンションに着き、玄関のドアを開ける。
靴を脱いで部屋に入ろうとしたところで、目の前の紀子が突然足から力が抜けたように倒れ込んだ。
「ちょっ……!」
とっさに支えて抱き止める。
慌てて顔を見ると紀子は、─────完全に熟睡していた。
さっきまで普通に歩いていたのに、この落差に驚く。
ほとんど気力でここまで帰ってきたんだな。
「おい、せめてベッドまで……」
と声をかけたが、全く起きる気配もない。
仕方がないのでそのまま体を抱え上げる。
今まで何度か抱えたことはあるけど、熟睡して脱力してる人間の重さはけた違いだ。
こちらも体力の限界に来ているが、最後の気力を振り絞ってキッチンを抜け、寝室のベッドの上にようやく降ろす。
「きっつい……」
息が上がりながらも紀子の顔を見ると、相変わらず目の下の隈はすごく、皮膚もカサカサだ。
元々華奢なのにさらに痩せた気がする。
さっき抱え上げたときは重かったけど、体重は前より軽くなってる気がした。
……これ以上痩せてどうするんだよ。
ほんと無茶しすぎだろ。
とりあえず紀子のジャケットを脱がせ、シャツのボタンも緩めて布団を掛けた。
……俺はどうするか、とりあえずシャワーでも浴びるか?
でもベッドに座るととてつもない眠気が襲ってきた。
ダメだ、俺も限界だ。
なので俺もジャケットを脱ぎシャツもそのままにベッドに入る。
すると紀子が寝返りを打って俺にくっついてきたので、俺も紀子を抱き締めた。
そしてそのまま俺は意識を手放した。




