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最終話 催眠アプリ

 これは次の日かもしれないし、だいぶ後の話かもしれない。


 クラスにて、学級委員の仕事をこなす俺と凛花。


「……ところで斗真くん」

「なんだ、終わったか?」

「いいえ、そんなことよりこれを見て」


 凛花がスマホを向ける。そこに映っていたのは謎のぐるぐる。


(……ん? これって……)


「さて、斗真くん」


 なんだ……? 言葉の一つ一つが鮮明に聞こえるというか……。


「疲れたわ。肩でも揉んでもらおうかしら」

「まあそれくらい……っておおお、おおおおおお!」


 か、体が勝手に動く! まるで”言われた通りに動いている”様だ!


「あら。なかなか加減がいいじゃない。この調子で頼むわ、——しばらく」


 しばらくってどんだけ!? ってなんで体が言う事を……!

 ぐぎぎ。頑張れば抵抗出来そうだ。体がすごい重たいぐらいで、なんとかなるかも知れな――。


「あら?」

「!」

「そんなところも揉めなんて言ってないのだけれど」

「あわわ……」

「——いいわ。好きにしてみれば?」

「いや! これマジで抵抗出来なくって!」

「ならこれが本心ということね。分かりやす……」

「ち、違うんだ……! うおおおおお……!」


 気合で手を凛花から引きはがすことに成功する。途端に軽くなる体。


「ちょっとトイレ!」


 一旦冷静になるために凛花と物理的に距離を取る。まずは教室から出るんだ。

 教室から出る。幸いにも? 凛花は何も発しなかった。すんなり外へ出られた。


「あれ、とーま。どうしたの?」


 そこに出くわしたのはことねだ。体操着なところを見るに部活中だろうか。


「おおことね。聞いてくれ、凛花が変なアプリを使ってて……」

「へえ。それって――こんなやつ?」


 目の前に出されるぐるぐる。ま、まさか――。


「ねえとーま」

「だっ、ダメだ! それ以上を言っては――」

「——星野さんにやったこと、私にもやってほしいな」


 そ、それなら肩を揉むだけ。多少のインターバルを挟んで隙をみて手をひきはがせば――って手が違う方に伸びるぅぅぅ!


「あっ……」

「ことねっ、これは違——」

「……私は、別に……んっ」


 うおおおおお! 腕を引き千切れ! 気合を込めろぉぉぉぉ!


「ふんぬああああああ!」

「と、とーま!?」

「しゃべるなああああ! うわあああああ!」


 その場から去ろうとする。どこか、人がいない所へ……!


「とーま! 他の子に手を出しちゃダメだからね!」


 クソ! 聞いてしまった! でも手を出さないならかえってラッキーか?

 なんて雑念を抱きながら廊下を曲がった。——その拍子に人にぶつかってしまう。


「す、すまん大丈夫か?」

「ん……」


 ぶつかった相手は……紗良。なんだろうこの感じ、なんかデジャブが……。


「悪い、すぐに退——うぷ!」


 彼女に覆いかぶさる態勢だったのに、”手を使って”体を起こそうとした結果——。


「むぐぐ……」

「斗真、さん。喋ろうとしては、う……」


 彼女の意外とある胸に顔がおぼれている。手が使えない、それだけでここまで動けないとは……!


「んむぅぅぅ!」

「ぁぅ……」


 なんとか横に転がり窮地を脱する。と、同時に手が自由になるのを感じる。


「はあはあ。す、すまん紗良。こうするしか方法がなくて……」

「そのようですね。別に疑っていませんけど」

「理解が早くて助かる。まったく……なんでみんな――」

「こんなものを、ですか」


 目の前に出された画面を見てしまう。まさか、そんな……。


「うわああああああ!」


 すぐに立ち上がり走り出す。特に何かは、聞いてない、はず……!

 階段を降り、そのまま校庭に出てぐるっと建物を回り込むように逃げる。

 そこはいつぞや訪れた校舎裏。人気がない。


「ここなら、誰もこない、だろ。はあぁ……」


 息を整える。滲む汗を拭う。深く息をする。


「落ち着いた?」

「なんとか……。――ッ!」


 振り向くといた。いつから? 最初からか!?


「斗真……」


 上目使いに見上げてくる一葉。手は後ろ手に組まれており……。


「おい……、まさかおまえも……」

「も? もってなによ」

(まさか示し合わせたわけではない……!?)

「ところで斗真、これを――」

「見ない! じゃあな!」

「ちょ――」


 またしてもアプリを喰らいそうになったので逃げる。


(くっ! 今日は一体どうしたというんだ!)


 こうなれば一人になる手段は一つ。トイレの個室。そこへ隠れるしかない。

 校舎内に戻る。一番近いトイレに向かう。もう障害は……。


「なん……だと……」

「あ、斗真! やっほー」


 ここへ来てユナか……! 強い……。


「ユナ……、お前は、アプリを持っている、のか?」

「アプリ? なんの?」

「催眠アプリだ。俺が前に使ったような……」

「前に……?」


 考える素振りを見せる。真か贋か、見抜けない……!


「それってぇ……」

「待て、見せる必要は――」

「ほいっ」


 早かった……! いや俺もなんで真面目に見てるんだ!


「くっ……!」


 見ただけなら大丈夫、聞かなければ――。


「止まって」

「うぐ!」


 体がつんのめる。なんとか倒れずに済んだが……。


「へぇ~、効くってのは本当みたいだね~」

「ぐ……、う、動けん……」

「あはは~。え~、何をやらせてみようかなぁ……」


 何か、ペットに芸でも仕込むかのような……。楽しそうだ。俺はそれどころではないが。


「そうだなぁ……」


 これはきっとロクなことにならない……! 何を言ってくるか一番予想が出来ない。


「肩でも揉んでもらおうかなぁ」


 普通。……とみせかけて――。


「最近コリが酷くって。——元からほぐしてもらわないと」

「ぐ……!」


 そのコリの原因は豊満な胸だろう……! また不可抗力(?)で揉んでしまう!


「ふふふ……。優しく、ね?」


 分かってやっている……! 俺の手は……。


「う、お、お……!」


 その柔らかな双丘を捉え……。


「——藤宮斗真」


 声がする。声の主の方を首だけ向く。


「雪ちゃん!」

「ほれ」


 雪ちゃんの手元にもスマホ。当然画面は例のアプリ。


「”こっちへ来い”」

「ああ~! ちょっと!」


 ふわふわ双丘から手を離し、雪ちゃんのいる教室へ駆け込む。そういう命令だからな。

 俺が入った直後に戸を施錠する雪ちゃん。


「あ~! も~!」


 外からユナの声がする。まさかこじ開けてきたりとかは……。

 戸のすりガラス越しに人影がどこかへ行くのが見えた。諦めた、のか?


「やれやれ。大丈夫か斗真くん」

「助かったよ、雪ちゃん」


 空き教室、二人きり。相手の手には催眠アプリ。

 この状況で雪ちゃんは……。


「——どうだ? 掛かったフリ、というのは」

「……ああ。悪くない、ですね」


 催眠アプリを使ってくるみんな。そしてそれに従う俺……を演じている。


「これが、みんなの感覚かぁ」

「どうだ、実際にやってみて」

「うん、存外楽しいな」


 そう。いつぞやの時の逆パターン。掛かったフリをするみんな、ではなく。俺が掛かっているフリをするというやつだ。

 今までのは演技で、実際には体の自由は奪われてはいない。


「さて、どうするんだ、これから」

「うまい事やってみようかなって思います。……かつてみんながそうだったように」


 かつてのみんなも本当にかかっているようなフリをしていた。それに俺はまんまと騙されていた。——それの仕返しだ。


「ふふ……フハハハハハ!!」


―――――――――――

【視点変更:女子ーズ】

―――――――――――


「全員揃ったわね」


 彼女らも作戦会議をしていた。


「今回の作戦は以前のアプリの時とは逆……」

「私たちがかけるフリをして……」

「かかったフリをする斗真を楽しむ……」


 彼女らもまた全容を把握する者達だった。


「いつか出来なかった事、これからやってあげるわ。斗真くん」


 そう、この物語はなしは――。

 催眠を掛ける者と、掛かったフリをする者。

 器用なようで、不器用な、少年少女たちの物語はなしである。

お読みいただいてありがとうございます。

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