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第26話 葛城一葉はがんばる

 ヒロイン達の協力プレイが始まろうとしていた。これは斗真を元気づけるためのものだ。


<藤宮くんの家はここよ。八時には家を出るはずよ。

 >なんであんたそんなことまで知ってるのよ……。

<もう独占なんて言ってられないでしょ? 私の情報も共有しておくわ。

 >住所特定はやりすぎだと思うけど……。


 ヒロイン達のグループトークが朝から白熱する。今日から全員で斗真を見守る。


<では朝は任せるわ――葛城一葉。


 今朝の藤宮宅前には一葉がいた。いつもは凛花が来ていたが今日からは来れるものは順に投稿してみよう、となったわけだ。


(な、なに緊張してるのよ。普段通りに接すればいいだけじゃない)


 といいつつ、彼女の過去を振り返ると、斗真と二人きりになったことがない。そして彼女の性格、ツンデレも相まって一対一には弱かった。


(あ……出てくる)


 ドアの方を見る。生唾を飲んで出てくるのを待った。そして、斗真と目が合う。


「お、おはよう藤宮」

「葛城? なんでお前が?」

「なによ。ちょっと教えてもらっただけよ。……昨日、なんか調子悪そうだったし」

「ああ……まあな」


 玄関から出て登校を始める斗真。すかさず隣に並ぶ一葉。

 しばしの沈黙。斗真は気にしないが――。


(なんかすっごい見られてる気がする! こんなの毎日やってたの凛花《あの女》。恥ずかしい!)


 だが今日は、今日だけは頑張るのだ。


「……アンタ、さ、無理してない?」

「急にどうした」

「ど、どうしたもこうしたもないでしょ。顔に出てんのよ、疲れてるって」


 斗真は少しだけうつむきながら、歩を進める。


「別に……疲れてないよ。いつも通り」

「……あんたの“いつも通り”ってさ、信用できないのよ。昔から、無理してる時ほど笑ってんじゃん」

「……そうか?」

「そうよ」


 一葉は斗真の過去を知っている。本人にはそんな気はないのかもしれないが、正義感が強いタイプなのだ。だからこそ、催眠アプリなんてものを使った時は驚いたが、そんなものに頼らなければいけないような状況に追い込まれている、なんて昨日言われるまで分からなかった。


「……本当は、今日くるの、すっごい緊張したんだから。でも、アンタがああやって黙ってたら、なんか……ムカつくのよ」

「俺が黙ってるとムカつくのかよ」

「そうよ。……しゃべりなさいよ、バカ」


 そう言って、一葉は小さく口をとがらせる。

 その顔を見て、斗真の肩がふっと軽くなった気がした。


「……ありがとな、葛城」

「……べ、別に……」


 一葉は真っ赤な顔で前を向いたまま、手をぶんぶん振ってごまかす。


「ねぇ藤宮」

「なんだ?」


 一葉は恥ずかしがりでもあるが、効率家でもある。どうせ恥ずかしいなら全部まとめて、といった感じだ。


「……名前で呼んでよ」

「……一葉?」


 ぼっと顔が熱くなるのを感じる。やっぱり恥ずかしかった。でもこれでいい。これで一葉もある意味でスタートラインに立ったようなものだ。


「ふふっ」


 前を歩く斗真の袖を掴む。それに気づいた斗真は歩くペースを落とした。


(やっぱり優しいわね……私も、斗真のそういうところが……)


 以前の事を思い出す。私が少し距離感が近めな人間関係を築くせいか、勘違いして言い寄ってくる男子が多かった。それは今もだが、そのたびに守ってくれた存在、それが斗真だった。

 そんな斗真自身にも、幸せであってほしい。


「ねぇ藤宮」

「お前は苗字呼びなんだな」

「い、いいじゃない! ……それとも、名前がいい?」

「いや、どっちでもいい」


 ただのやり取り、に見えるが斗真は不機嫌というか疲れているように見える。やはり心のケアが必要だ。


「藤宮はさ、わたしに何かしてほしいこと、ある?」


 この流れでこの話題、自然と”言う事を聞く”流れに持って行けたんじゃないだろうか。思い出してほしい。最初にアプリを手にした頃、何をしようとしたのか。


「俺が……してほしいこと……」

「そうよ」


 最初は楽しそうだった。その時の気持ちで言って欲しいのだ。わざわざ催眠アプリまで使ったんだから……!


「——無い、かな」

「えっ……」


 その回答は困る。なんでも言う事を聞かせられるのに何もないなんてことは無いはず。


「なんでも、なんでもいいのよ!? 私に出来るなら、だけど」

「なんでも……」


 再び考える斗真。何もないなんて言わないで欲しい。ある種恩人でもあるのだから、もっと傲慢に、強欲に、助けを求めて欲しい。


「じゃあ……」


 重い口が開く。


「みんなと仲良くしてほしい」

「……」


 もっと傲慢でいい、強欲でいい。なのに彼が願うのは自分だけではなく周りの幸せだというのか。


「……分かったわ。——約束する。絶対みんなと仲良くするわ」

「……本当か?」

「マジよ。絶対に不仲なんて起こさない。それに聞いて」


 一葉は斗真の前に回り込んで顔を見て言う。


「そのみんなの中には藤宮も含まれているということ。みんなで、仲良くするわよ」


 そう宣誓する。じっと斗真の目を見ていた一葉。その目に光が戻ったような気がした。


「……そっか。ありがとう、一葉」

「まだお礼を言うには早いわ。今日からみんな、仲良くなっていくのよ」


 そんなこんなで話をしていたら校門前に着いた。今日はユナの姿はない。


「わたしこっちだから、またね」

「ああ――また」


 そう言って別れた。と思ったら戻ってきた。


「いい藤宮? わたしはアンタの味方なんだから、いつでも頼っていいんだからね」


 それだけ言って再び別れた。


「味方……。俺のしてほしいこと……」


 斗真は少しだけ前向きになったのだった。


     *     *     *


 この学校は朝学校が始まったらまず三十分の読書タイムがある。

 その時間、生徒会の手伝いという名目でヒロインズは生徒会室に集まっていた。


「……以上が今朝の出来事よ」


 こうして集まって情報共有をする。そして次の一手を考える。


「うむ。存外いい展開にもっていけたんじゃないか?」


 真雪は言う。他のみんなも頷いていた。


「これから朝は”生徒会手伝い”の名目で情報の交換だ。明日からはこの後の事、昼休みや放課後のことも共有していくぞ。とりあえずは解散だ」


 皆が生徒会室を出ていく。一人残った真雪は思案する。


(さあ、君の本当の思いを教えてくれ)

お読みいただいてありがとうございます。

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