第25話 メンヘラる斗真②
「では緊急会議を行う」
生徒会長、皇城真雪の指揮のもと作戦会議が始まる。
「まずは藤宮斗真の現状についての把握だ。綾小路ことねは特にしっかり聞くように。では一番近くにいた星野凛花より、状況の説明を頼む」
真雪は一歩下がり、そこへ凛花が入る。
「彼とは今朝に会ったわ。いつも通り一緒に学校へ向かうはずだった」
「いつも?」「一緒に?」と小声が聞こえるが指摘はしない。
「その時から様子がおかしかったの。覇気がなくて、生気もなくて、とても斗真くんらしさなんて微塵も無かったわ」
「ふむふむ」
「かと思ったら甘えてくるのよ。しまいには、その、好き、とか言い出して」
その言葉に前のめりになって聞くことね。
「告白されたってこと?」
「そこだけ聞くとそう聞こえるよね~。でも、それはアタシにも言ってきたんだ」
ことねの問いにユナが答える。それに続く紗良と葛城。
「私も。廊下ですれ違っただけですが、頭を撫でながら好き、と」
「私だって言われたわ。一緒にいてくれてありがとう、好きって」
斗真が好き好きマシンとなっているのが分かる。一度部屋がシンとなる。
静寂を破ったのはことねだった。
「ワタシが居られないからって、みんなしてトーマで遊んだんでしょ。それでストレスが溜まったんだわ」
「——いや、それだけではないな」
真雪が割って入る。
「私も君たちの事はだいたい把握している。どのような思いで彼のハーレム隊に加わったのかをな」
それはここ居る皆が、過去に斗真と少なからず接点があったことを意味する。
「だが今はそれは関係ない。今の問題は、我々が斗真をちゃんと理解出来ていなかったということだ。聞いてみようか、みんなは斗真のどこが好きだ?」
「優しい」「優しくて面白い」「優しい」「思いやりがある」「優しい」と出そろう。
「そうだ。私も感じているが彼は優しい。故に催眠アプリなどに手を出したはいいものの、使い勝手が分からないというのが現状だろう」
「……もしかして、催眠にかかってないことに気付いた、とか?」
「どうだろう。まだそんな段階ではないと思うが」
真雪と凛花が意見を交わす。真雪は次の話題を切り出す。
「さて、私が今回みなに知ってほしいのは、催眠アプリを使うものの心理というものだ」
皆集中して聞く。
「催眠アプリを使う者、それは好かれたい、けど傷つくのは嫌。という他人に依存してしまう人間が使用するものだ」
「依存……」
「そうだ。彼が何故、こんなアプリにまで手を出したのか。何かにすがらなければならないのか。そこが問題だ」
真雪は丁寧に紐解いていく。
「彼は、人の気持ちを試すことができない。だからこそ、アプリを使ってまで“確認”しようとしたんだ」
「確認……?」
凛花が眉を寄せる。
「“自分が好かれているかどうか”をだよ。催眠アプリの最大の利点はそこにある。強制ではない、暗示を与えるという形で、反応を得られるからな」
全員が黙った。
言い得て妙だった。確かに、催眠アプリはただの支配ツールじゃない。
「つまり、斗真は——」
ことねが言いかけて、言葉を詰まらせる。
それを紗良が無表情で、でもどこか優しく引き継いだ。
「自分が、ほんとうに好かれているか不安になった」
「うん、きっとそうだと思う」
ユナが肩を竦めて、でもその声には憂いがあった。
「彼、時々ほんとに目が寂しい顔するもん。たぶん自覚してないけど」
「誰かを信じたい。でも信じられない。だったら、信じたふりをするしかない……それが、彼が催眠アプリに求めたものだろう」
そこへ真雪が補足を入れる。
「そして想像し欲しいのが、なんでもいうことを聞かせられるという力を手にして、いつも通りでいられるか、という話だ」
「というと?」
「身の丈に合わない力は自信を滅ぼすという昔からのお決まりということさ」
沈黙。
ヒロインたちは、それぞれの胸に何かを抱きながら目を伏せる。
その空気を破ったのは、意外にも葛城一葉だった。
「でも、だったら……だったら私たちは、どうすればよかったの?」
珍しく、声が少し震えていた。
「彼の“好き”が、催眠なのか本心なのか分からない。だからって、何も言わなかった。それって……」
真雪はゆっくりと首を横に振る。
「責めているわけではない。ただ……我々は今、問い直すべき時に来ているのだ。彼を“好き”だと、私たちは言う。でも、その彼の心の奥にどれほど目を向けられていただろうか?」
「…………」
沈黙。全員に反省の色があった。
「……まあ、私たちだって”被催眠者”になるのなんて初めてなわけだし、なにもかも順調に、とはいかないだろうさ」
場の空気を軽くしようと真雪がいう。それからまとめに入る。
「いままでは藤宮斗真という人物の取りあいのようなものだったが、これからは違う」
改めて皆の前に立つ真雪。
「みなで協力し、口裏を合わせながらハーレムを形成する。そして彼を幸せにする。これが我々が目指す理想、ではないか?」
「そうね。彼の願いはハーレムだった。それに助力するのが一番の幸せなのかもしれないわ」
「これからは連絡を密に。彼を救うんだ!」
真雪の号令に皆が頷く。まずは彼を幸せにする。
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