第24話 メンヘラる斗真①
如月ユナは笑う。
「ねぇ斗真くん。アタシなんでもいうこと聞いてあげるのよ」
それは妖艶に、誘うように囁く。
「なんでもよ。なんでも……」
「なん、でも……」
斗真の心が揺れる。なんでも、だというなら、俺は――。
「トーマ」「藤宮」「斗真」
きっとみんな受け入れてくれる。きっと──。
「——斗真」
背後から響く、冷たい女王のような言葉。
「なんでも。でも度が過ぎれば――分かるわね」
女王凛花が問い詰める。俺は、俺は――。
* * *
「ぐはっ……。ゆ、夢か……」
恐ろしい夢だった。と額を拭う斗真。
催眠アプリを使ってこのハーレム状態を作った・・・・・・と思っていたのだが、なんか思ってたのと違う。ギスギスが特に凄い。
(ホントはもっとイチャイチャしたい! ギスギスしないで欲しい!)
心の底からそう思う様になった。なんか思ってたハーレムと状況が違うのだ。
というか一週間経って気付く。斗真は命令するのに性格が向いてない。そのことに溜息をつく。
「イチャイチャしたいのに、どうしてこんなにうまくいかないんだ……」
催眠アプリを使う前はもっと気楽に振る舞えていたのに、今はなぜかギクシャクしてしまう。例えどんな命令に従うとしても、冷血にはなりきれないのだ。
「はぁ……俺って……」
こうして――メンタルがヘラってしまった男の一日が始まる。
* * *
ピンポーン。ガチャ。
「おはよう斗真くん。学校に――」
「うん……行く……」
のそのそと靴を履く。
「と、斗真くん。朝食はいいのかしら?」
「うん……いいや……。いってきます……」
覇気がなく、動きも遅い。明らかに様子がおかしい。
「その、斗真くん? 具合が悪いなら欠席したほうが」
「ううん、大丈夫」
返事はする。だがどう見ても大丈夫ではない。
(こういうしおらしいのもかわいいわね)
なんて考えた凛花。しかし――特大のカウンターを喰らう事になる。
「凛花は……優しいよな。俺なんかに付き合って」
「当然よ。あなたに”付き合ってと言われ”――」
「俺、凛花の事が好きだ」
「それは……——。え?」
さすがの凛花も思考が鈍る。突然の告白。しかも全く覇気のない。
(ど、どういうこと? 確かにあなたに恋心はあったわ。でも私が想像してた告白とは違うというかなんというか)
凛花は必死に思考を巡らす。一つは自分の思い。もう一つはアプリ同盟のこと。
(相手から告白されたらOK、よね。でもこれは、なんていうか……)
「……だよな。ごめんな、俺、お前の優しさにすがっていたんだ」
「ち、ちがっ――」
返事が遅れたのは時間にして五秒ほどだろうか。その沈黙で彼は勝手に答えを決めてしまった。普段の彼はこんな感じではないはずなのに。
「斗真くん。はっきりと言わせてもらうわ。私はあなたの味方よ。絶対に、最後まで。言葉を借りるなら、世界中が敵になっても、あなたの味方よ」
「世界中が……?」
「ええ、そうよ」
「じゃあことねも、紗良も、一葉も、皆敵なのか?」
「え?」
「俺、みんなに幸せになってほしいのに。みんな、敵になっちゃったのか?」
「そ、れは……」
回答に困ってしまう。どうしたというのだ。彼は催眠アプリを使って皆を自由自在に出来る(という設定の)はずなのに、どうしてこんなにネガティブなんだ。
「あのね斗真くん。今のは比喩で、みんながあなたを嫌うだなんて、ありえないことだわ」
「そうだよな。何言ってんだろう俺。ハハハ」
から笑いをする斗真。しかし……。
「でも時間の問題じゃないかな……」
「そ、そんなことは……」
これは、異常事態だ。凛花一人では対処出来ないと判断し、携帯を取り出しグループトークを開く。
>緊急事態よ。
>斗真くんがヘラってしまったわ。
送るだけ送る。その後はなんとか話を聞きながら校門まで一緒に来た。
「お、来たな~」
最初のヘルプはユナだ。昨日の今日で思う所はあるが、今は使えるものをなんでも使うつもりで挑む。なんとかしてみせろユナ。
「斗真く~ん……、えい!」
顔を抱きしめるようにハグをした。その豊満な胸に顔をうずめる形になる。普段なら殺気を放つ凛花だが、今は静観している。
「どうした~、今日は元気がないのか~? お姉さんのおっぱいで元気だそ?」
「おっぱい……」
並みの男子なら十分すぎるご褒美だが……。
「ユナさんは優しい。こんな俺にも……」
「もう、こんな、なんて言わない。あなたはあなたの素敵な所があるじゃない」
しっかりとメンタルをケアしていく。だが……。
「ユナさんは優しいから――好きだ」
「ふえぇ!?」
やさしくされた反動で告白するという変な状態になってしまっている。
(す、好きって言った!? これで私のひとり上がり? でもなんか違うような)
「えへへ、好きって言われるの嬉しいな。アタシ、斗真くんなら――」
「ごめん。優しくておっぱいがふわふわでいい匂いがした。けど、俺に付き合わせるのはよくないよな」
「そ、そんなことないって――」
「ありがとう。おっぱい、ごちそうさま」
そう言って再び歩き始めた。凛花とユナは互いに見合っていた。ユナが携帯を取り出す。
>斗真がヤバい。
>緊急事態よ。
その後、廊下で紗良と一葉、それぞれと出会ったがふたりとも撃沈した。
>緊急事態ね。
>緊急事態だわ。
残す戦力はことねと生徒会長・真雪だがふたりは部活やらで忙しい。
教室に着いた斗真はそのまま席へ向かった。そして机に伏せってしまった。
「えっと、長谷川くんに伊藤くん、よね?」
凛花は更なる増援を呼ぶことにした。斗真の友達、同性の友達ならなにか解決策を知っているかもしれない。彼らに一日任せることにした。
昼休み。
「おう、斗真。メシ行こうぜ」
「でも俺——」
ピンポンパンポーン。
「業務連絡だ。心当たりのあるやつは生徒会室に集まれ。以上だ」
真雪の声だった。随分ざっくりとした、恐喝のような呼び出しだったが――。
「斗真くん。私行かなければならないわ。今日は彼らと食事を共にして」
そう言い放つ凛花。それを受けて彼らは……。
「だってよ。行こうぜ斗真」
「でも俺は……」
「いいから行こうぜって。財布忘れたんなら今日は奢りにしとくからよ」
「……うん」
斗真は男子二人に誘われ食堂に向かった。
(これで大丈夫なはず。あとは――)
凛花は生徒会室へ向かった。
* * *
「由々しき事態だ」
生徒会室に集まった催眠ヒロインズ六名。神妙な面持ちだった。
「ねぇ、トーマに何があったの?」
唯一、今朝の斗真に出会っていないことねが疑問を呈する。それは会長も同じだが――。
「今こそ、我らは共に手を取り合わなければいけない。ということだ」
生徒会室で「対メンヘラ斗真」作戦会議が始まる……!
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