閑話 三つの心を一つに
最前線で戦っていたリューは、後方から響く轟音に視線を向けた。
直感的に、ガレオンの襲撃を悟る。
戦いの前にロッティが言い含めていた事だ。
確証のようなものはなかったが、リューはロッティの言葉を全面的に信じていた。
「ケイ、ジーナ、下がるぞ」
言って、音のした方角へとリューは走り出した。
「え、ここはどうするッスか?」
リューを追いかけながらも、残していく仲間達を心配してケイは問い返す。
「ロッティも気付いているはずだ。ボラーを寄越してくれるだろ。それより、あっちを放っておく方が危険だ」
「それはそうッスけど」
わかってはいても不安は拭えない様子だった。
しかし、その気持ちを汲む時間はなかった。
こうしている間にも、ガレオンの被害に合う人間が増えるかもしれない。
「でも遠いな。間に合うか?」
「ケイ、リューを肩車しろ。俺が運んでやる」
ジーナがそう提案した。
「ええっ!?」
「よし! ケイ頼むぞ!」
リューはケイの後ろに回り、跳んでケイの肩に跨った。
戸惑うケイの背をジーナが押す。
一気に最高速まで加速すると、その速度でケイの足が浮いた。
リューはケイの頭を左腕で抱え込むようにしてしがみつき、どうにか速度に耐えていた。
その耐える時間も一瞬、リュー達は現場へと到着。
仲間に迫るガレオンの姿を目撃した。
重力波の影響を受けて倒れそうになるが、その間際に放り込むようにしてケイを押し出した。
「行って来い!」
押し出されたケイは着地と同時に走り、ガレオンとの距離を詰める。
「くそっ! あがらねぇ!」
リューが戦斧を振り上げようとして苦戦する。
そんな彼女の腕を持ち上げるように、ケイが両手でアシストした。
「なにっ!」
倒れる反乱軍の仲間へ攻撃を仕掛けようとしていたガレオンは、唐突に迫ってきたリューとケイに驚きの声を上げた。
振り下ろされる斬撃に自らの大剣で対処する。
金属同士のぶつかる音、地面の砕ける音が混ざり合い、凄まじい轟音を周囲へと響かせた。
「よぉ! また会ったな、ゴラァ!」
「だからどうした! この雑魚が!」
リューとガレオンが互いに吠えあう。
その最中、ケイが掴みかかろうと腕を伸ばした。
「あぶねぇ!」
それに気付いたガレオンが、距離を取る。
ケイは踏み出してそれを追うが、それよりも一歩ガレオンの方が多く離れた。
「動けるのはたいしたもんだが、お前だけじゃ無理だなぁ」
「それはどうッスかねぇ!」
答えるのと同時に、ケイがガレオンへと一瞬で距離を詰めた。
「!」
明らかに今までの動きとは違う。
目で追えこそすれ、反応するに困難な速度だった。
そのまま腕を掴まれ、一本背負いされる。
「ぐっ!」
地面に背中から叩きつけられ、ガレオンは苦悶の声を上げた。
そのまま腕を極めようとするケイの顔面を強かに殴りつけ、腕を放させる。
どうして急に速くなった?
疑問の答えを探し、ガレオンはケイを注視する。
すると、ケイが先ほどまで着けていなかった脚甲を装着している事に気付いた。
脚甲である。
絆を結んだ相手であるならば、聖具を使わせる事ができる。
その活用法だった。
「ケイ! これも使え!」
リューが全身の力を駆使し、不恰好な形で戦斧を上に投げた。
「任せるッス!」
ケイは空中でそれをキャッチすると、一度構え、ガレオンへ斬りかかった。
技術よりも力を優先するリュー以上に、より力任せの強引な振り下ろし。
大剣で防ぐガレオンは、受け切る事こそできたが、その場で膝を着く。
完全な力負けを痛感し、転がるようにその場を離れて距離を取ろうとする。
しかし、それをケイは逃さない。
追いすがり、更なる斬撃を繰り出した。
ガレオンは受ける事が不利に繋がると悟り、回避に専念する。
三つの聖具によって、ケイは力と速さを兼ね備えた暴威となっていた。
使い慣れない得物がぎこちなさを生んでいる。
それに付け入ってしのいでこそいるが……。
しのぐのがやっとだ。
軽口を叩く暇もない。
それでもガレオンは、ケイとの攻防を続けた。
攻撃をしのぎ、時には真っ向から打ち合い、隙を狙う。
そしてその戦法は、ガレオンに勝機を作った。
何度目かの攻撃をしのぐと、ケイが体勢を崩した。
戦いにおける年季の違いが、彼女に軍配を上げたのだ。
「のわっ!」
振り下ろした戦斧の重みに引き摺られ、前のめりに地面を叩きつけていた。
重心は前に出すぎており、地面に突き刺さった戦斧で倒れないよう身体を支える形だ。
その一瞬で、ガレオンには十分だった。
「終わりだぁ!」
大剣の一撃をケイへ見舞おうとした時。
ガレオンの背後へ何かが落下した。
ほぼ同時に、ガレオンの背に痛みが走った。
血が噴き出す。
傷を付けたのはボラーだった。
上空より真下へと加速したボラーは、相手の重力波すら利用して全身全霊の斬撃を放った。
重力波に囚われれば動けないだろう。
そんな彼女が取れる一度きりの攻撃であり、奇襲である。
それは見事に決まり、ガレオンに深い傷を負わせるに至った。
ガレオンは、すぐさま重力波を解いた。
重力波は自らにも枷をかける。
身体能力で強引に動いてこそいるが、どうしても動きは鈍っていた。
重力波に耐え続ければ、出血の量も増えるだろう。
「なっ!」
急な重力の変化に、戦斧を振り上げようとしていたケイがバランスを崩す。
振り上げた勢いのまま、後方へ倒れた。
その隙を衝いてガレオンはケイに攻撃を仕掛けた。
しかし、彼女の大剣がケイへ届くことは無い。
脚甲を装着したジーナの蹴りが、ガレオンの腹部に突き刺さっていた。
重力波の解除と同時に脚甲を呼び戻し、フォローに入ったのだ。
「ぐぅ……っ!」
搾り出すような苦悶の声。
追い討ちをかけるように、リューが戦斧を振り下ろす。
蹴りから間髪いれずの追撃に防御は間に合わず、避けようとするが戦斧の切っ先に右腕を斬り付けられる。
一筋の傷が走り、さらなる出血を強いられた。
その頃にはケイも体勢を立て直し、ガレオンへと迫っていた。
脚甲をつけていた時ほどの機敏さはないが、ガレオンに重圧を与えるのに十分だった。
自分よりも劣るとはいえ、三人の強者から同時に攻められるという現状。
それも互いの行動を把握しているかのように流麗な連携を取ってくる。
重力を駆使すれば、切り抜ける事もできるかもしれない。
いや、できるだろう。
そう、ガレオンの冷静な部分が判断する。
しかし、ガレオンの心はそう言っていない。
焦りを感じ、鼓動が早い。
出血の多さに命の危機を感じる。
迫り来る相手に、どう対応しようか判断が鈍ってしまう。
ガレオンは、自身が不利を悟っている事に気付いた。
自覚すると、彼女はすぐさま逃げに転じる事を決めた。
重力を操り、自分の身を軽くする。
背を向けて駆け出した。
「逃げんのか!」
リューの叫びが聞こえる。
何とでも言え。
心の中で答える。
あくまでも報酬のために戦っている。
誰かに勝ちたいから戦っているわけではない。
格下相手に敗走を決める事には歯がゆさを覚えるが、その感情に囚われるようでは今日まで生き残る事もできなかった。
しかし、逃げに徹するもすぐさまジーナが追いつき、ガレオンの背中から体当たりした。
そのまま腹に腕を回し掴んでくる。
「放せ!」
重力波を放つ。
苦悶の声を上げるほどの重圧を受け、肘を受けながら振り回されても、それでもジーナは腕を放さなかった。
その間に、リューとケイが追いついてくる。
重力波に気付いたリューに戦斧を託され、ケイが走り寄ってくる。
「ちっ! くそっ!」
逃げられない。
いよいよ以って万事休すの状況に、ガレオンは悪態を吐く。
その時だった。
銃声が響く。
「ぐわっ!」
自分に撒きついていたジーナの腕が、悲鳴と共に力を失った。
それに気付いたガレオンは、ここぞとばかりにジーナを振り払う。
思っていた以上にあっけなくジーナの拘束が解け、ガレオンは走り出した。
「追いつけないッス!」
全力で走りながらも、広がっていく距離にケイは叫ぶ。
重力を駆使したガレオンの逃げ足には、リューも追いつけそうに無かった。
ジーナは腕から血を流し、その傷口を手で押さえていた。
唯一、追いつく事ができるだろう彼女は怪我を負い、追いつけても何もできないだろうと判断してその場へ留まっていた。
これは無理だな。
リューはガレオンの追撃を諦める。
「大丈夫か?」
ジーナに近寄り、安否を確認する。
「肘も指も動く。大丈夫さ」
その答えが返ってきて、リューは安心した。
そして、視線を彼方へと移す。
遠く、銃声のした方向。
「シロってやつか……」
リューは舌打ちした。
「……前線にもどるぜ。あいつはもう、戻ってこないだろ。ジーナ、ボラーを後方に運んでやってくれ。終わったら、部隊各所のフォロー頼むわ」
ボラーは一撃を与えた後、動けなくなっていた。
重力波の中、無理やり加速した事が祟って体のどこかを傷めた様子だった。
「わかった」
「さ、行くぜ。ケイ」
「わかったッス」
その後、リューとケイが戦線に戻り、ガレオン不在の拠点はあっさりと陥落した。
最近、某ゲームでロッティという名前のキャラクターを見つけました。
なんとなく嬉しい。
あ、この種族喋れるんだ。とちょっと驚きました。




