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百十一話 信頼

「えーと、それで二人に何があったの」


 いろいろと疲れて、昨日はあれからすぐに休んでしまった。

 事後処理でいいや、と。

 その事後を今処理しているわけである。


「私達は酒を呑んでいた。この部隊に来てから、特定の面子でよく呑んでいてな。昨日もヨシカとボラーは同じ場所で飲み食いしていたわけだ」


 事情聴取を受けているのは、件の渦中にいた一人でもあるウィンだ。

 彼女は、事件が起こるまで二人と一緒にいた。


「ずいぶんと塩気の多い食事だったからな。それと、倉庫の酒にヨシカの好きな銘柄があったんだ。食事も酒も進んで、いつもより呑んでいたな。ボラーの方はそもそもあまり酒が強くない」

「それで?」

「酒の肴に、汚ねぇ話でもしようという事になったんだ」

「何で飯時にそんな……」

「我が家では定番だったんだ。酒が入ると下品な話で盛り上がってた」


 シャパド一家の習慣か。

 つまり、話を提案したのはウィンだった、と。


「それで?」

「ヨシカがとんでもなく汚い話をした。汚すぎてボラーがキレた」


 わかりやすい。


「どれだけ汚かったんですか……」

「いや、個人的には感動的な話だった。男女の機微というものは綺麗ごとだけではすまない。ボラーは、そういう部分がわかっていなかったのかもしれないな」


 まぁ、大人の恋愛関係というのはいろいろあるものだろう。


「そういう、恋愛に関する汚さの話だったんですね」

「いや、人の関係性とか関係なく、物理的に汚い話だった」

「じゃあ何で今その話をしたんです?」


 わけがわからないよ。


「物理的に汚かったが、感動的な話でもあったんだよ。私的には。まぁ、そこからはあんたも見た通りだ」


 全体的に酔っ払いの不祥事か。


「わかりました。ありがとうございます。で、事件の当事者達は?」

「近くの川でいろいろ洗ってるよ。巻き添え食った連中も一緒だ。しばらく帰ってこないな」


 そうだろうな。

 朝まで放置していたなら、こびりついてもいるだろう。


 発端となった二人への罰はどうしようかな?

 秩序維持のためにもお咎めなしとはいかない。

 当人達は失態を反省できる人間だが、対外的に示す意味で罰は必要だ。


 一ヶ月の禁酒とかでいいかな。




「次の標的はこことここです」


 軍議の席。

 指揮者達を集めて、ミラが地図を示しながら説明する。


 場所はここから見て、北東と北西に位置する場所。

 北西側の方がここからは近い。

 北東側は少し遠いが、ゼリアの部隊が近くまで来ている。


「二つとも戦略的な価値は低いですが、我々の目的は別の部分にあります」

「ガレオンを釣るってやつだな?」


 リューの問いにミラは首肯を返す。


「現実的な話、我が部隊でガレオンに対抗できるのはケイとクローディアだけ。二人揃って、ようやくガレオンと拮抗する。少なくとも、ガレオンはそう思っているでしょう」

「だから、二人を別の部隊にしておびき寄せるんだろ?」


 リューが答えると、ボラーが口を挟む。


「それはいいとして、おびき寄せても肝心の戦力が分割されていては倒せないのではないですか?」


 それはもっともである。


「それに対しての策はあります。ガレオンがケイのいる方に食いついてくれれば、どうにかなるでしょう」

「クローディアの方に食いついた場合は?」

「クローディアにけん制してもらいつつ、撤退してもらうしかないでしょうね。ですが、クローディアの方が狙われる可能性は極めて低いと思われます」

「根拠は?」


 ミラは再び地図へ視線を落とし、指差しながら説明する。


「陛下の部隊が近いからです。向こうも私達の行動には気を配っているはず。陛下の合流を視野に入れて行動する可能性が高いです」


 なるほど、とボラーは納得の声を出す。


 ゼリアの部隊は、ゼリアを始めとして四天王が全員揃ったオーバーキル部隊だ。

 私が敵だったら、出会いたくない部隊である。

 双子はわからんけど、あの部隊の将なら個々人でガレオンを倒せそうな雰囲気がある。


「作戦の概要は以上です。質問があるならば受け付けます」


 それからいくつかの細々とした質問があがり、それらにミラが答えて軍議は終わった。




「お前は一緒に来てくれないんだな」


 軍議が終わって、リューが声をかけてくる。


「一緒に来てほしいのかぁ?」

「別に……いや、やっぱ来てほしいわ。お前がいてくれた方が、力入る気がするし」


 ふむ……。


「クローディア。私もそろそろ大人の庇護下から出る時かもしれないな」

「まだ早い」


 過保護だねぇ。


「お前のそばにいるのは、何も親から頼まれたからだけではない。そうしたいと私が思うからだ」


 クローディアは私の頬に手を添え、親指で軽く撫でた。

 触れる力は優しく、慈しむ気持ちが伝わってくるようだった。


「これまでも何度か、私から離れて作戦を取ってくれたじゃないか」

「今回は相手が違う。危険すぎる」


 それは確かに。


「なぁ、姐さん。俺、絶対にロッティが傷つかないようにするよ。だからさ、今回は任せてくんないかな」


 リューの懇願に、クローディアは視線を向ける。


「……難しい話だな」

「やっぱり、信用できない?」

「そうじゃない。お前に言われれば、少し迷ってしまうという話だ」


 クローディアが誰にどういう気持ちを持っているのか。

 一緒にいる時間が一番多いであろう私にも判断が難しい。

 だから、こうして直接的に心情を吐露され、驚いているのはリューも同じだろう。


 彼女なりに、リューを信頼しているのだ。


「言ったからにはやり遂げろ」


 クローディアはリューの肩に手を置いて告げた。

 お前に任せる、という意思表示だ。

 それを察して、リューは表情を引き締めた。


「おう」


 そして、力のこもった声で答える。


「僕の安否でこんな重苦しいやりとりが起きるなんてね。まるでお姫様みたいだ」

「だって、お前お姫様じゃねぇか」


 ……そうだった。

今回はここまでになります。

次は月末に更新させていただきます。

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