祇園社事件(3)
久安3年(1147年)7月5日
こんにちは、平重盛です。
世間は先月の事件のことで騒がしいですが、僕は専ら、宗盛に近づこうとする病蟲を倒すので忙しいです。
幽世から現世に干渉するのもずいぶん上手になりました。お手のものです。
ところで、幽世を使っていると、じいちゃんと清盛パパのコソコソ話がつい聞こえてしまうことがあります。
決して聞き耳を立てているわけではありません。決して。
どんな話が聞こえてくるかというと、このまえ
比叡山「おう、この落とし前どうつけるんや!」
鳥羽法皇「ひえええ、2、3日中には返事しますぅぅ。」
って、約束したのに、何の返事もしないから
比叡山「もういっぺん強訴しちゃろか、コルアァ!」
と息巻いてるので、
鳥羽法皇「ちゃんと裁くから、強訴だけは勘弁してぇぇ。」
と言ってる、というような話とか、
鳥羽法皇に差し出した7人の家人が、検非違使に引き渡され、今日から取り調べで拷問を受けるとか。
「って、ダメじゃん!」
拷問ってアレでしょ!?
逆さ吊りして気絶したら水ぶっかけたり、ギザギザの木の上で正座させて、その脚の上に石を積み重ねていったり、裸にして体に蜜を塗って木にくくりつけて、そのまま放置して虫を這い上がってこさせるとか「わーーーー!むりムリ無理――!!」
想像しただけでしんどい。
うちの大事な家人に拷問なんて受けさせられない。
よし!幽世を通って助けに行こう。
ピコンッ
-緊急Misson 平氏の家人を苦痛から解放しよう-
おっ! 女神様、分かってるね。うん、頑張ってくるよ。
「あれっ、Missonの下にまだ何か書いてあるな?」
※先行取得:スズラン配糖体 100g ビン詰め
「・・・分かってないじゃん! 毒用意してどうするの! 苦痛から解放って何!?」
とりあえず、こんな物騒なものはしまっておこう。
ちょんちょん、と小狼に脛をつつかれる。
見ると、「ボクにまかせてー」と言っているような気がする。
瓶ごとスズランの毒を渡すと、瓶を加えてどこかへ走っていってしまった。
なんとなく任せて大丈夫な気がするので、家人たちを助けるために幽世を通って検非違使庁に向かった。
検非違使庁は広く、普通であれば、その中で人を探すのは大変なことだ。
「でも、見つからないから楽勝だよねー。」
もう勝った気になって捜索を続ける。小狼もさっき追いついて帰ってきた。
程なく家人たちを見つけた。怪我や殴られたあとがあるが、いつも何か怪我をしているような連中なので、体に問題は無いだろう。
「お前たちっ。無事だったか!」
嬉しくて、すぐに声をかけた。役人がいないのは確認済だ。
「ありゃ、坊ちゃんじゃねえか!?」
「坊ちゃんだと?! いってぇどうしてこげなとこへ?」
しまった。嬉しさのあまり、どうやって忍び込めたのか説明を考えていなかった。
だが、家人たちを逃がす大事な場面だ。覚悟を決めて幽世のことを話そう。
「みんな、落ち着いて聞いて。」
誰にも見つからずに脱出できる道があることを説明した。
「いや、脱出するわけにはいきやせん。頭と若頭に迷惑かけちまう。」
どうやら、逃げると平氏の立場が悪くなることを気にしてくれているようだ。ありがたくて涙がでそうになる。
「でも拷問があるって。早く逃げなきゃ。」
「へ? 拷問? ないですぜ、そんなもん。」
家人まさかの衝撃発言だ。
「え、無いの? 拷問? 逆さ吊りされて水ぶっかけられたり、ギザギザの木の上に正座させられて上から石をのっけられるとか、体に蜜塗って虫を這わすとか。」
「ひ、ひえええぇぇ! 坊ちゃんがあっしたちを地獄に突き落とそうとするーー!」
「やっぱり坊ちゃんは物の怪だったのかーー!」
僕の発言に、急におびえ出すしまつ。まったくコイツらは・・・。
よく聞くと、本当に拷問は無いらしい。特に今回はすべて白状しているから拷問してまで聞くべきことがない。
また、他の事件でも
「証拠も無いのに拷問するなぞ、尋問能力のない無能な役人がやることだ。拷問したヤツは次の査定に響かせるぞ。」
と、どこぞの同士が拷問に否定的であるため、今は拷問する事件が嘘のように少なくっている。
「よし、証拠固めはこれくらいでよかろう。では忠盛、清盛親子の罪名を決めるぞ。」
僕が家人たちを説得しきれず、行きと同じく帰りも1人で帰ろうとしていたころ、事件は証拠調べが終了し、いよいよ罪状を決めるための審議が始まろうとしていた。