⑦アリッサも入る
花凛が奥の小部屋に戻ると、アリッサは寝台の上でこちらを見ていた。
「どうだった?」
「最高でした」
「でしょ」
「自信ありますね」
「あるよ。あれ、わたしが作らせたから」
「作らせた?」
「たぶん」
「たぶん?」
「記憶がちょっと曖昧」
アリッサは悪びれずに言った。
花凛は思わずルカを見る。
ルカは静かに目を伏せた。
「アリッサ様が必要だとおっしゃったのです」
「ほら。言ったらしい」
「本人が一番ふわっとしてる」
「でも必要だったんでしょ?」
アリッサは首を傾げる。
「なら、いいんじゃない?」
そういうところが、アリッサらしいのかもしれない。
自分の記憶が曖昧でも、必要ならいい。
理由が後から追いつかなくても、身体が覚えているなら、それを信じる。
花凛は少し笑った。
「アリッサさんも入った方がいいんじゃないですか」
花凛が言うと、アリッサは目をぱちぱちさせた。
「わたし?」
「はい。顔色、まだ完全じゃないし」
「でも、今わたし店主っぽく座れてるよ」
「座れてるだけです」
「厳しい」
アリッサは少し笑った。
ルカがすぐに口を挟む。
「花凛様のおっしゃる通りです」
「ルカまで」
「湯を整えます」
「もう決定?」
「はい」
「わたしの意見は?」
「伺います」
「じゃあ、今日はやめる」
「却下いたします」
「伺っただけだった」
花凛は笑いをこらえきれなかった。
アリッサは頬を膨らませるでもなく、ただ肩をすくめた。
「仕方ないなあ。じゃあ、戻ってくる」
「戻ってくる?」
花凛が聞き返すと、アリッサは不思議そうに自分の言葉を繰り返した。
「戻ってくる。うん。そんな感じ」
ルカの手が、ほんの少しだけ止まった。
けれどアリッサは、それに気づかない。
ミモザが中で手伝うことになり、ルカは浴室の外に控えた。
彼は湯の温度を何度も確かめ、薬草の量を調整し、布の位置まで整え直していた。
「ルカさん、細かい」
花凛が小声で言うと、ユリウスが真顔で頷いた。
「細かい」
「聞こえております」
ルカが扉の方を向いたまま言った。
花凛とユリウスは同時に口を閉じた。




