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眠るたび異世界の少女と入れ替わる服飾学生は、滅びかけた都を繕う  作者: 魔法使いアリッサ
第一章 眠りの向こうの少女

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④ 服飾学生は結界を縫う


 叫ぶと同時に、周囲がどよめく。


「細いやつ、あと同じ布の切れ端、ないの!?」


 学者風の老人が慌てて箱を差し出した。中には銀色の針のような棒と、小さく畳まれた布片が入っている。


「結界布の予備だ!」


「貸して!」


 花凛はそれを受け取った。


 指が震える。

 心臓がうるさい。


 なのに別の部分は奇妙なほど落ち着いて、構造だけを見ていた。


 裏側の糸から。

 表だけ綺麗に繕っても、中が死んでいたら長くは持たない。


 花凛は布の重なりを目で追い、震える手で銀の針を差し込んだ。


 すう、と針が吸い込まれる。

 まるで布が待っていたみたいに。


 一針。

 二針。

 三針。


 縫うたびに、黒い染みの広がりが鈍る。


 補強ではなく、導き直す。

 押さえつけるのではなく、元の流れへ戻す。


 最後のひと針を抜いた瞬間、結界布がふっと息を吐くように波打った。


 次いで、塔全体に淡い青白い光が走る。


 黒い染みは、それ以上広がらなかった。


 静寂が落ちる。


 鐘の音も、いつのまにか止んでいた。


「……収束した、のか」


 老人の震える声。


 周囲の視線が一斉に花凛へ集まる。


 感謝ではない。

 驚き。恐れ。より深い疑い。


「やはり」


 最初に口を開いたのはセレスティアだった。


「レイナ様は、結界布に干渉できる」


「違っ」


 花凛は反射的に否定しかけて、言葉を失う。


 違うと言い切れるのか。

 今、自分は明らかに普通じゃないことをした。


「だからって、わたしが壊したとは限らないでしょ」


 やっと絞り出した声は、思ったより強かった。


 セレスティアは扇を閉じる。


「ええ。限らない。ですが、無関係とも言いがたい」


 ユリウスが花凛の前に半歩出た。


「今夜はこれ以上、彼女を責めるな。塔はひとまず持ち直した」


 セレスティアは花凛を見つめたまま、やがて踵を返した。


「……なら、続きは明日。今度は逃げないでくださいませ、レイナ様」


 明日。


 その言葉に、花凛の背中が冷たくなる。

 この世界は、眠っているあいだの夢では終わらない。明日がある。続きがある。暮らしがある。


 そしてたぶん、壊れかけているのは塔だけじゃない。



 部屋へ戻る道は、行きよりずっと遠く感じた。


 花凛は黙ったまま歩いた。頭の中がぐちゃぐちゃだった。


 レイナ。

 結界布。

 封印塔。

 罪人。

 そして、自分の中へ差し込んできた、あの声。


 部屋の前まで来たところで、ユリウスが足を止める。


「……さっきのは、何だ」


「分かんない」


 正直に言うと、ユリウスは意外そうに目を瞬かせた。


「分からない?」


「わたし、ほんとにただの服飾の学生だし。魔法とか封印とか知らない。縫い方も、あんなの……わけわかんないままやった」


「だが、結界布は君に応えた」


「だから、それが分かんないって言ってるの」


 怖さと疲れで、声が少しきつくなる。


 ユリウスはしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。


「君はレイナではないんだな」


「うん」


「名は」


「花凛」


 その名を口にした瞬間、妙に胸が熱くなった。

 ここで初めて、自分の名前をちゃんと名乗れた気がしたからだ。


「花凛」


 ユリウスは確かめるように繰り返した。


「君が来る夜だけ、レイナは少し穏やかになる」


「え」


「逆に、日中は記憶が途切れたような振る舞いを見せることがあった。辻褄が合った」


 花凛の喉が鳴る。

 向こうでも、同じような継ぎはぎが起きていたのだ。


「……わたしたち、ほんとに入れ替わってるんだ」


「ああ。おそらく」


「レイナは何したの」


 ユリウスの横顔が硬くなる。


「まだ言えない」


「なんで」


「君を巻き込みたくないからだ」


 花凛は思わず、は、と笑ってしまった。


「もう十分巻き込まれてるよ」


 ユリウスは言い返さなかった。

 その代わり、少しだけ視線を伏せる。


 その横顔に、花凛はほんの一瞬だけ、責める以外の疲れを見た気がした。

 この世界では、守ることも、疑うことも、きっと同じくらい消耗するのだ。

 

ちょっと遅くなってしまった、、、


今日は直し0です。


チャッピーくん賢い


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