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眠るたび異世界の少女と入れ替わる服飾学生は、滅びかけた都を繕う  作者: 魔法使いアリッサ
6章 お風呂がない!

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③ アリッサの店へ



 アリッサの魔法用具店に着くと、店の空気は昨日より少しだけ明るかった。


 棚に並ぶ瓶が、朝の光を受けて淡く光っている。

 布の束も、昨日より柔らかく見えた。


 カウンターの向こうにルカがいた。


 彼は花凛たちを見ると、静かに頭を下げる。


「おはようございます」


「おはようございます。あの、アリッサさんの具合は」


「昨日よりは落ち着いておられます」


 その言葉に、花凛はほっとした。


 店の奥の小部屋では、アリッサが寝台の上で上体を起こしていた。


 まだ顔色は完全には戻っていない。

 けれど昨日のような、触れたら割れてしまいそうな危うさは少し薄れている。


 短い蜂蜜色の髪にも、淡い光が戻っていた。


「花凛」


 アリッサは手を振った。


「昨日より顔がましでしょ」


「それ、自分で言います?」


「言うよ。昨日のわたし、だいぶ終わってたし」


 ルカが薬草茶を注ぐ手を止めた。


「アリッサ様」


「何?」


「ご自分で終わっていたなどと」


「終わってたでしょ」


「……否定はしません」


「ほら」


 アリッサは少し得意そうに笑った。


 その軽さに、花凛は思わず笑ってしまった。


 昨日より、アリッサの声に少し力が戻っている。

 それだけで、部屋の空気がずいぶん違って見えた。


「それで、今日は何? ポーション? 布? キノコ?」


「今日はお風呂です」


「お風呂」


 アリッサはきょとんとした。


「お風呂って、見るもの?」


「入るものです」


「ああ、そっち」


「そっち以外あります?」


「あるよ。飾り風呂とか、薬草を浮かべるだけのとか」


「ややこしい」


「この世界だいたいややこしいよ」


 アリッサは当たり前のように言った。


「で、お風呂に入りたいの?」


「入りたいです。切実に」


「じゃあ入ればいいよ。奥にあるし」


 花凛は固まった。


「……あるんですか?」


「あるよ」


「この世界、お風呂文化ないっぽいのに?」


「ないところはないね」


「ないところは?」


「あるところはある」


「その説明、何も説明してないです」


「そっか」


 アリッサは悪びれずに頷いた。


 ルカが横から静かに補足する。


「アリッサ様の浴室は、一般的な湯浴みとは少し異なります。調律用です」


「調律用」


「身体がずれた時に使うの。魔力とか、記憶とか、気分とか」


 アリッサが言った。


「気分も?」


「気分、大事だよ」


 アリッサは真顔だった。


「気分が終わってると、だいたい全部終わるから」


「それは分かります」


「でしょ」


 花凛は深く頷いた。


 現実でも異世界でも、気分が終わっている時はだいたい全部終わる。


「ルカ、お湯いける?」


「すでに温度は整えてあります」


「早い」


「必要になると思いましたので」


「心配性」


「アリッサ様が無理をなさるので」


「今日はしてないよ」


「昨日されました」


「昨日のこと持ち出すの、ずるくない?」


「実績です」


「実績って便利な言葉だね」


「はい」


「認めた」


 アリッサは肩をすくめた。


 花凛は思わず蒼を思い出した。


 実績。

 どこの世界でも、過去の行いは重い。


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