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眠るたび異世界の少女と入れ替わる服飾学生は、滅びかけた都を繕う  作者: 魔法使いアリッサ
6章 お風呂がない!

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①館で目覚める



 花凛が目を覚ましたのは、館の一室だった。


 天井が高い。

 カーテンが重い。

 窓の外には、現実ではありえない色の朝が広がっている。


 薄い青と、淡い金。

 その間に、桃色の雲が少しだけ溶けていた。


 ここは、アリッサの魔法用具店ではない。


 館だ。


 花凛はしばらく天井を見つめたまま、ぼんやりしていた。


 現実の部屋。

 机の上のデザイン画。

 深緑の線。

 レイナが書いた文字。

 蒼の、反省しすぎて布団の端に寄っていた顔。


 そこまでは覚えている。


 そのあと、眠った。


 そして今、ここにいる。


「……戻ってきた」


 声に出すと、身体の奥が少しだけ揺れた。


 完全に自分の身体なのか、それとも誰かの身体を借りているのか、まだ分からない。

 でも、以前よりは少しだけ、感覚がはっきりしている。


 指先を動かす。

 手首を回す。

 肩を起こす。


 身体は動く。


 けれど、重い。


 昨日の現実の作業の疲れなのか、こちらの世界に来た時の揺れなのか、身体の芯に湿った布を巻かれているようなだるさがあった。


 花凛はゆっくり上体を起こした。


 シーツが肌に触れる。

 柔らかい。

 けれど、どこか落ち着かない。


 この世界の布は美しい。

 手触りもいい。

 でも、現実の洗いたての布団とは違う。


 ふと、昨夜ノートに書いた言葉が頭をよぎった。


 身体を休めること。

 清潔にすること。

 洗うこと。

 湯に浸かること。

 自分の身体に戻ること。


 その瞬間、花凛は固まった。


「……お風呂入りたい」


 切実だった。


 ものすごく、切実だった。


 昨日からずっと、心も身体も境界をまたぎ続けている。

 レイナの記憶を見た。

 勇気くんの朝を見た。

 現実ではレイナが花凛の机に線を足した。

 蒼は寝起き三件目未遂を起こした。


 情報量が多い。


 多すぎる。


 そして、身体が追いついていない。


 花凛は布団の上で膝を抱え、しばらく真顔で考えた。


 そういえば、この世界に来てから、まともにお風呂に入っていない。


 いや、軽く身支度はした。

 水で手や顔を洗ったり、香りのする布で拭いたりはした。


 でも、それは違う。


 全然違う。


「……待って」


 花凛は小さく呟いた。


「この世界、もしかして、お風呂ない?」


 部屋の中で、返事はなかった。


 重いカーテンだけが、朝の風にわずかに揺れている。


 嫌な予感がした。


 かなり、嫌な予感がした。

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