表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠るたび異世界の少女と入れ替わる服飾学生は、滅びかけた都を繕う  作者: 魔法使いアリッサ
第五章 眠れば異世界、目覚めれば締切

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/46

③ 花凛の現実



 レイナにとって、現実世界は異世界だった。


 まず、部屋にあるものが多い。


 机。

 椅子。

 本棚。

 スマートフォン。

 布の束。

 裁縫道具。

 クロッキー帳。

 よく分からない充電器。

 小さな機械。

 光る画面。


 どれも花凛にとっては当たり前なのだろう。


 けれどレイナには、ひとつひとつが魔法具に見えた。


 特にスマートフォンは危険だった。


 黒い板の中に、文字も絵も人の声も閉じ込められている。

 花凛の指紋を知っているらしい。

 勝手に光る。

 通知という名の小さな悲鳴を上げる。


 レイナはそれを、警戒すべき生き物を見る目で眺めた。


「それ、そんなに怖い?」


 蒼が聞く。


「急に光るものは信用できないわ」


「まあ、分からなくはない」


 画面には、通知がいくつも並んでいた。


 学校からの連絡。

 コンテスト関係のメモ。

 画像検索の履歴。

 リマインダー。

 未読のメッセージ。


 その中に、花凛が自分で設定したらしい文字があった。


『締切まであと少し。デザイン画を進める』


 レイナは眉を寄せた。


「この板、脅してくるのね」


「リマインダーだからね」


「脅しではないの?」


「本人が自分で設定したやつだから、まあ、自分からの脅しではある」


「花凛、自分にも厳しいのね」


 蒼は少しだけ黙った。


「厳しいっていうか……焦ってるんだと思う」


「焦る?」


「うん。やりたいことが多いんだよ。学校の課題もあるし、コンテストもあるし、異世界のことも……」


 そこまで言って、蒼は自分で口を閉じた。


「異世界のことも、って言っていいのか分かんないけど」


「今さらね」


「だよな……」


 蒼は髪をかいた。


「でも、花凛がどこにいるのか分からないまま、俺が勝手に話を進めるのも怖い」


 その言葉に、レイナは少しだけ蒼を見直した。


 彼は、すぐに踏み込まない。

 知りたい顔はしている。

 不安そうでもある。

 それでも、花凛の知らないところで勝手に決めることを怖がっている。


 そこは悪くない。


「花凛は、あなたを信頼しているのね」


 レイナが言うと、蒼は一瞬だけ目を丸くした。


「そうだといいけど」


「同じ家にいて、追い払われていないのでしょう」


「それ、信頼なのかな」


「少なくとも、警戒対象ではないわ」


「警戒対象……」


「私にとっては、まだ少し警戒対象よ」


「三件目未遂のせいで?」


「実績があるもの」


「はい……」


 蒼はまた謝りそうな顔をしたので、レイナは手で制した。


「謝罪はもう聞いたわ。今は、花凛のことを教えなさい」


「花凛のこと?」


「この現実で、彼女が何をしているのか。何に追われているのか」


 蒼は少し考えてから、机の上の予定表を取った。


 紙には日付と、細かい予定が書き込まれている。


 学校。

 課題提出。

 コンテスト準備。

 布リサーチ。

 デザイン画。

 裁断。

 縫製。

 資料集め。

 体調管理。


 レイナはその量を見て、黙った。


「……これを、ひとりで?」


「うん」


「人間は、これだけの予定をこなして死なないの?」


「死なない……けど、疲れる」


「でしょうね」


 レイナは紙を置いた。


 花凛は、こちらの世界でも戦っている。

 剣も魔法もない場所で。

 でも、別の種類の圧力に押されながら。


 締切。

 評価。

 提出。

 制作。

 自分の夢。


 どれも目に見えないのに、人を追い詰める。


 レイナは、現実という場所が少し怖くなった。


「学校には、今日行くの?」


 レイナが聞くと、蒼は時計を見た。


「午後からかな。たぶん、今日は行く予定だったと思う」


「私は、行けるの?」


「……行く気?」


「花凛が行く予定だったのなら、行くべきでしょう」


「でも、君は花凛じゃない」


「だからといって、花凛の現実を止めるわけにはいかない」


 蒼は困った顔をした。


「危ないと思う。学校で誰かに違和感持たれたら」


「すでにあなたには違和感を持たれているわ」


「俺は特殊ケースだろ。寝起き事件を三件抱えてるから」


「自覚があるならいいわ」


「よくないけどな……」


 蒼はしばらく考え込んだ。


「今日は、無理に授業まで行かなくてもいいかも。学校に連絡して、体調不良ってことにしてもいい」


「体調不良」


「嘘ではないだろ。中身が入れ替わってるの、体調より重い」


「それはそうね」


 レイナは素直に頷いた。


 知らない世界で、知らない人々に囲まれ、花凛のふりをする。


 それは無謀かもしれない。


 でも、何もしないでいるのも落ち着かなかった。


「では、学校には行かない。けれど、作業はする」


「作業?」


「花凛のデザインを見る。彼女が何を作ろうとしているのか、知る」


 蒼は少し安心したように息を吐いた。


「それなら、俺も手伝う」


「あなたが?」


「資料を探すくらいなら」


「寝ぼけていないなら、少しは役に立つかもしれないわね」


「信用が低い」


「実績があるもの」


「それ強いな……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ