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眠るたび異世界の少女と入れ替わる服飾学生は、滅びかけた都を繕う  作者: 魔法使いアリッサ
第4章 魔法の図書館と調律鏡

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③ 図書館の管理人


 図書館は、街の奥まった場所にあった。

 大きな建物だった。

 けれど威圧感はない。

 石造りの壁に蔦が絡み、葉脈には細かな文字が光っている。

 入口の上には丸い時計があり、針は動いているのに、同じ場所を何度も行ったり来たりしているように見えた。


「時計、壊れてるんですか?」

 

「図書館の時間は、少し癖があります」

 

 ルカが言った。

 

「本を読む者は、過去にも未来にも触れますから」

 

「それ、便利なんですか?」

 

「便利な時もあります。不便な時の方が多いですが」

 

「正直ですね」

 

「図書館に嘘は似合いません」

 

 扉の前に、ひとりの青年が立っていた。

 黒に近い紺の外套。

 銀の細い眼鏡。

 表情の薄い顔。

 本棚の影が、そのまま人の形になったような佇まいだった。

 

「ノエル様」

 

 ルカが静かに頭を下げる。

 青年は返事をしなかった。

 ただ、ルカを見て、それから花凛に視線を移した。

 

「花凛様ですね」

 

 まだ名乗っていない。

 それなのに名前を呼ばれて、花凛は少しだけ背筋を伸ばした。

 

「はい」

 

「奥の閲覧室を開けます」

 

 ノエルの声は低く、乾いていた。

 冷たいわけではない。けれど、余分な温度がない。

 彼は扉に手をかける。

 大きな扉が、音もなく開いた。

 

「記憶の鏡は、親切ではありません」

 

 ノエルはそれだけ言った。

 

「親切じゃない?」

 

 花凛が聞き返すと、ノエルは少しだけ視線を落とした。

 

「見たいものではなく、残ってしまったものを映します」

 

 それ以上は言わなかった。

 説明してくれる気は、あまりないらしい。

 ルカが小さく付け加える。

 

「ノエル様は、必要なことしかおっしゃいません」

 

「それ、今の私には結構困るんですけど」

 

「図書館では、困ることも閲覧の一部です」

 

「図書館こわ……」

 

 花凛が小さくつぶやくと、ノエルがこちらを見た。

 聞こえていたらしい。

 花凛は慌てて口を閉じた。

 

「長く覗かないことです」

 

 ノエルは言った。

 

「記憶は、あなたのものとは限りません」

 

 その言葉を最後に、彼は一歩下がった。

 案内はここまで、ということらしい。

 図書館の中は、紙と革とインクの匂いで満ちていた。


 現実の図書館にも似ている。

 でも、それだけではない。

 古い木。

 蝋燭。

 乾いた花。

 少しだけ、雨の匂い。

 

 天井まで届く本棚が何列も続いている。

 はしごがひとりでに移動し、本が小さな羽音を立てて棚へ戻っていく。

 床には深い青の絨毯が敷かれ、模様はよく見ると星図だった。

 

「うわ……」

 

 花凛は思わず声を漏らした。

 美しい。

 けれど、少し怖い。

 アリッサの店が「触れてもいい魔法」なら、図書館は「触れる前に許可がいる魔法」だった。

 

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