⑤ 幼馴染
中の人の理想の恋人のペルソナの勇気くん(なげえよが登場です。
暖かく見守ってやってください
翌日、蒼が何気ない顔で言った。
「今日さ、幼馴染が来る」
「幼馴染?」
「うん。勇気。こっちに用事があるらしくて、少し寄るって」
勇気。
その名前を聞いた瞬間、花凛の胸の奥で何かが引っかかった。理由は分からない。でも確かに、何かが反応した。アリッサの店のルカを思い出した。静かな目。遠い場所を見ているような視線。
「どんな人?」
「いい奴だよ。静かで、変に鋭い。植物とか虫とか、そういうの好きでさ」
「へえ」
「あと、妙にモテる」
「蒼くんが言うと説得力あるのかないのか分かんない」
「あるだろ」
蒼が笑う。そのとき、チャイムが鳴った。
⸻
玄関に立っていたのは、背の高い青年だった。
金色の髪を後ろで軽く束ねている。
整った顔立ち。けれど、派手さよりも静けさの方が先に来る人だった。
「久しぶり、蒼」
「おう。入れよ」
勇気は花凛を見ると、柔らかく会釈した。
「はじめまして。勇気です」
「花凛です」
声を聞いた瞬間、花凛は少しだけ眉を寄せそうになった。どこかで聞いたことがある。
いや、違う。似ているのは声ではない。
間の取り方。視線の置き方。相手との距離。
ルカ。
その名前が胸に浮かんで、すぐに消えた。
まさか、と思う。
⸻
勇気は穏やかに話した。
蒼とは古い付き合いらしい。
昔の話をしているときの二人は、
少しだけ幼く見えた。
けれど会話の途中で、勇気の目がふと遠くなる瞬間があった。一瞬だけ、ここではないどこかを見ている。花凛は何度かそれを見た。
「最近、探してる人がいるんだ」
勇気が、何でもないことのように言った。
「まだ探してるのか」
「うん」
「名前、なんだっけ」
勇気は少しだけ沈黙した。
「愛菜」
その名前が落ちた瞬間、
花凛の胸の奥がかすかに鳴った。
愛菜。アリッサ。似ているわけじゃない。
でも、遠くで同じ鐘が鳴った気がした。
「大事な人?」
「うん。たぶん、僕が思っているよりずっと。出会ったときから、そうだったんだと思う。でも気づくのが遅かった。気づいたときには、もうどこかへ行ってしまっていた」
その言い方が静かすぎて、
花凛はそれ以上聞けなかった。
勇気の視線が、ふと花凛の右手に落ちる。
「それ」
「指輪。少し、変わってるね」
「あ、これは……お守りみたいなものです」
「綺麗だね。瓶みたいだ」
「はい」
「中に、何か入ってる?」
勇気の声は穏やかだった。
でも、観察する目だった。
植物の葉脈を見るような目。
花凛は指輪を見下ろす。
淡い紫色の光が、小さく揺れた気がした。
「……たぶん、願いです」
けれど勇気は笑わなかった。
「いいね」
ただ、そう言った。
本当にそう思っている声だった。
⸻
勇気が「そろそろ」と立ち上がった。
蒼が「送ってく」と玄関へ向かう。
花凛もつられて立ち上がった。
玄関で靴を履きながら、
勇気は花凛の方をちらりと見た。
「その指輪、なんか……」
少しだけ首を傾げる。
「いや、なんでもない。気のせいかな」
そう言って、小さく笑った。
それ以上は何も言わなかった。
蒼と勇気が外へ出る。
花凛は玄関口で二人を見送った。
夜の空気が、少しだけ冷たかった。
しばらくして蒼が戻ってくる足音がする。花凛はそのまま玄関に立って、暗い外をぼんやり見ていた。
なんでもない、と言った。
でもあの一瞬、
勇気の目は気のせいの顔をしていなかった。
その言葉が、胸に刺さったまま抜けなかった。




