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67.ううん、違うの。


 

 次の日、コーヒー喫茶サンセットのドアにかけられた札をオープンからクローズひっくり返す。

 

 いつもは和やかに進む締め作業にどこか緊張感を覚える。

 シンクから洗い物の音と、箒の床を掃く音が静かな喫茶店内に響く。

 

「詳しく聞かせてくれるんだよね」 

 

 全ての工程を終えて、僕はあっちゃんに詰め寄った。

 昨日、切羽詰まった表情でいった懇願、『同棲して欲しいの!』という言葉の意味を聞く為だ。

 するとあっちゃんは押し黙ってこくりと頷いた。


 昨日は夜遅かったし、詳しく事情を聞こうにも僕の家の中には七菜ちゃんや八茅留ちゃんがいたから仕切り直して次の日の今日、バイト終わりに聞くことになったのだ。


「ここじゃなんだから私の部屋に来てくれる?」


 僕はあっちゃんに着いてく。喫茶店の奥の扉を開けると住居が広がっていた。

 この喫茶店は住居兼お店になっているとは聞いていたけど、実際にあっちゃんの家に上がるのは初めてのことだった。

 

「ええっと、お邪魔します?」


「ふふ、そんなにかしこまらなくていいのに」 


 あれ、友達の家に上がるのって実は初めてかも?

 なんてことを思いながらぎこちなくも歩みを進める。

 

「私の部屋こっちだよ」


 案内された部屋はパステルカラーの壁紙、ふわふわとしたベッドとクッションが印象的で、レースのカーテンや丸いテーブル、全体的に女の子っぽさを感じさせた。

 

 んな!! 僕、今あっちゃんの部屋に来てるの?!

 友達の家に上がるだけでも初めてなのに、女の子部屋に上がるのなんてもっと初めてだよ!


 初めてにもっともなにもないか。落ち着け僕。

 すうっと深呼吸をすると、甘い香りが鼻腔いっぱいに広がる。


 うわあああ!! ますます落ち着けなくなるよ!!


 姉妹の部屋に入ったことはあるけどその時とはなんか心境が全然違う!

 それにあの時は掃除をしに入ってだけだし、ノーカウントだよね?


 六槻の部屋は特に酷かったなあ。

 機嫌が悪い日はぬいぐるみが散らかり放題だったし。

 掃除させられてるのに部屋のもの触ったら殺すとかいってくるし。


 あれ、辛い日々をなぜだか気分が落ち込んできたぞ。


「あっくん大丈夫?」


 目と鼻の先に、あっちゃんの顔が映る。

 

「ううん、大丈夫だよ!」

 

 だめだ、だめだ。最近様子のおかしかったあっちゃんがお願いに来たから心配して僕はここにいるというのに、あっちゃんに心配されちゃ立場が逆転だよ。


 ふと、本棚に目をやると僕の見知っている作品があった。


「あっちゃんも『10年振りに会った男友達が実は女の子で、その子から女の子だと思われてた件』読んでるんだね! うわあ、それに各巻10冊もあるなんてとてもファンなんだね!」


 書籍の他にも『10年振りに会った男友達が実は女の子で、その子から女の子だと思われてた件』、略して『だんじつ』の特典が沢山あった。

 特典を集めるためにこんなに買ったのかなあ。

 

「あ、うん。そう、なの……」


 僕とは対照的にあっちゃんの反応は芳しくなかった。

 

「ごめんね、関係ない話して」


 そうだよね。昨日の言葉の真意を聞きに来たんだ。

 いくら好きなものとはいえ、話題に出すのは場違いだったと自分に反省する。

 交流会はまた今度だ。

 

「関係なくはないけど……」


 ん、どういうことだ?

 同棲の件と『だんじつ』が関係あるということ?

 話が見えない。


「えっとね。あっくん驚かないで聞いてほしいんだけど」


「そんじょそこらのことじゃ僕は驚かないから、安心してよ」


 僕は胸をドンと叩く。

 最近は、家族から追放されたり、好きなVtuberが同級生だったり、トップアイドルが転校してきたり、歌劇団俳優と擬似デートをお願いされたり、世界的モデルにデザイナーさせられたりと色々あったから耐性がついてるんだ。


 良かった、とあっちゃんは胸を撫で下ろした。

 そしてあっちゃんは呼吸を整えた後、意を決したようにいう。

 

「実はね私、『だんじつ』を書いてるの」


「それは、二次創作でかな?」


 詳しくないけど、好きが高じて作品の登場人物で自分で物語を書く人もいると聞いたことがある。

 

「ううん。違うの。作者なの」


「いや、書いている人はあっちゃんじゃなくて夕凪灯里先生だよ」


 僕は、本棚に並ぶ『だんじつ』の背表紙に表記されているペンネームを読み上げる。

 

「だから、私が夕凪灯里なの」 


 続けてスマホで小説サイトのマイページを見せられる。

 そこは作者以外では見れないページだ。


 僕はあっちゃんとスマホを交互に見る。


「ええええええええええぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ!!!!!!! あっちゃんが夕凪灯里先生?!?!?!」

 

 信じられない事実に僕は衝撃を受ける。


「あっくん! し、静かに!! ど、どうしたらいいんだろう……。え、えいっ!」


 突然、顔が柔らかいものに包まれる。

 

「もご、もがもが」


「あっくん、くすぐったいよお」


 な、なにが起こっているだ! 大きなクッションを押し付けられている?

 それにしても、い、息ができない!!!


 ぽんぽんとタップして、あっちゃんからの拘束を抜け出した。


「はぁ……はぁ……」


「落ち着いた?」


「……うん。ありがとう」


 ある意味、あっちゃんのせいで危なくなったけどそれは言わないでおこう。


「それにしても、あっちゃんが実は『夕凪灯里』先生だったなんて……」


 なるほど、前にガルコレに参加できなかった時に締切があるからといってたのも納得がいく。


「本が10冊あるのも特典が沢山あるのも出版社から送ってもらってるやつなの」


 作家の人はそんなに送られてくるなんて、知らなかった。


「でも、それと同棲して欲しいってことになんの関係があるの?」


「それがね。最近、執筆のちょっと調子が悪くて。〆切も近いし……焦っていて……。次の巻では主人公とヒロインが一緒に暮らす話がメインなんだけど、上手く書けなくて困ってるの」

 

 小説が更新できてないって話題になっていたけど、苦戦していたんだね。

 ていうか知らず知らずに先の展開を先生直々に教えてもらってるなんて、あまりにも光栄のことじゃないか?!

 

「だからあっくんの同棲をして男女が暮らすのを取材したいの! あたしの周りに男の子の友達はいないし。こんなことあっくんにしか頼めないから」


 あっちゃんはぎゅっと目を瞑り、僕に拝むように手を合わせていた。

 

「わかったよ」


「あっくん!」

 

「僕は同棲をしながら、あっちゃんの執筆のための身の回りのお世話をすればいいんだね」


 学業に加え、喫茶店を切り盛りしながらも執筆をしているからふらふらになっているあっちゃんを支えたいと素直に思う。

 

「ううん、違うの。あっくんはあたしにお世話されて欲しいんだ」


 ん、僕があっちゃんのお世話になるの?!


 

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可愛い女の子に憧れる王子様系ヒロインの鈴と小さいのにでっかい幼馴染ヒロインの茜が表紙を飾っています!

喫茶店アルバイトに遊園地デートと青春を謳歌しながら、元家族へのざまあがあったりと本作の魅力が詰まってます。

ぜひお手に取ってください!!

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