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騎士ホルスタイン  作者: コジュ
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キャタピラント林

「集中するのです…」

 牛はナコにもらった果物ナイフを両手に持って、精神を研ぎ澄ましている。目の前には牛の三倍はある大きさの緑色のやわらかく細長いモンスター、キャタピラントのオスが立ちはだかっていた。キャタピラントには警戒心はなく、やわらかなタンポッポの葉を無心に食べている。

「いざ!!サンダー!!」

 牛が叫ぶと、両手から火花が散りはじめた。すかさず、刀身を体の前で横にする。さらに、右手を柄から刀身にそって滑らせる、すると電気が刀に帯びた。

「くらえ!キャタピラント! サンダーソード!!」

 そのまま一気に振り切ると見事にモンスターは真っ二つになり、中から紫色の液体が音を立てて飛び散った。

「勝負あったようですね」

 振り向きざまにつぶやいた。牛はここに来る前に、この魔法をアドラに教わっていた。牛のようにマナ量が少ない場合には魔法を直接ぶつけて戦うのではなく、魔法を武器にまとわせて戦うのが主流らしい。

「ちょっとモーくん、一匹倒すのに時間使いすぎだよ」

 ナコはそう言って、リサに貰った新しい杖でキャタピラントを叩き潰した。ただの杖の一振りでそのモンスターは中身が飛び散っている。この柔らかいモンスターが相手では、電気を纏わせようが纏わせまいが関係ないようだ。牛は魔法を解いてただの刀でモンスターをつぶした。


 リサが紹介してくれた依頼と言うのはキャタピラントの駆除だ。このブヨブヨとした虫は近隣の畑に入っていき、農作物の葉を食べてしまうらしい。ナコのファイアで燃やせれば楽なのだが、林を燃やすわけにもいかないので、一匹ずつ潰していた。

 しばらくして、ナコがため息をついた。

「ナコ、具合でもわるいのですか?」

「ううん、体調はいいんだけど。ちょっと、思ってたギルドの仕事と違うなあって」

 牛は今潰したばかりのキャタピラントの死骸を見つめた。

 ナコが幼い頃から夢見ていたのは、ハラハラドキドキするような冒険だ。こうしてキャタピラントを退治するのは、冒険というよりも、害虫駆除と言った方が近い。ナコが気乗りしないのも仕方ないかもしれない。

「アドラ殿たちには申し訳ない気持ちもありますが、他のギルドを探してみてもいいのではないでしょうか? リサ殿もそうおっしゃっていましたし。」

 牛としては、ナコを危険な目にあわせたくない気持ちもあるので、複雑な心中だった。ドラゴンとの戦いに出して帰りを不安に待つより、キャタピラントを潰す姿を安心して眺めていたいと思ってしまう。

 それでも、ナコが子供の頃から冒険に憧れていたのはずっと見てきたから、叶えてあげたい気持ちの方が勝った。

「うん、この後、ちょっと見てこようかな」

 ナコは少しだけ嬉しそうに言った。

 それからナコは浮かない顔をすることもなく、作業に集中していた。その様子を見ていると、牛はふと疑問に思った。

「……ナコはそもそもどうして冒険がしたいのですか?」

「え?」

「いや、純粋に気になったのですよ、ナコが昔からどれだけ冒険がしたかったのかは、今まで見てきて伝わっておりますが、どうして冒険に憧れを持ったのか聞くことは叶わなかったので」

 牛の低い目線からは、ピンク色の髪は木漏れ日に当たって透けている。

「昔、モーくんと出会う前にね、冒険者がでっかいモンスターと戦っているのを見たことがあるの。」

「なんと、それはどこでですか?」

 ナコは首を振る。

「あそこがどこで、誰が戦っていたのかも覚えていないの。ただ、恐ろしいモンスターを相手にして、それでも向かっていく姿が、すっごくカッコ良かったことだけは覚えているの」

 おそらく十年くらい前のことだというのに、当時の光景を思い出しているナコの目はキラキラと輝いていた。この目を見てしまったからには、牛としては応援するしかない。

「そんな冒険ができそうなギルドが見つかるといいですね」




 



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