第3話 アーント洞窟
ナコが黒い巨大な虫に向かって、ロットを全力で振り下ろすと金属音が鳴った。対象は無傷、木のロットの方が少し欠けてしまった。
今朝、ラビットーから取れたアイテムを換金所に持って行くと、ナコの清掃の仕事よりもかなり少ないお金しか貰えなかった。そこで、ラビットー狩りは辞めて、ナコと牛は近くの洞窟ダンジョンに来ていた。
ナコは中型犬ほどの大きさの黒い昆虫をお得意のロットで何度も殴りつけるが、このアーントというモンスターは硬い外骨格に覆われていてまるで効いていないようだった。
「硬いなあ、これじゃ、ロットの方が先に壊れちゃうよ」
牛はナコが困っている様子を見上げた。
ひょっとしてこの状況はナコのお役に立つチャンスなのでは? あのラビットーとかいうモンスターはナコが何の障害もなくお茶の子さいさいと虐殺してしまいましたが、このアーントには苦戦している様子。しかも、こいつ動きは鈍く攻撃もしてこない、残る不安材料はこの硬い外骨格ですが、私にはこれがあります。
牛は背中に背負っていた果物ナイフを取り出した。ナコが「共にダンジョンに出かけるのならば何かしら武器が欲しいだろう」と台所にあった錆びたナイフを一本くれたのだ。
果物ナイフといえど、牛の背丈には大きく、背中に結び付けると大剣使いのようなシルエットになっていた。
「これで、少しは役に立つのです!」
牛は大剣(果物ナイフ)を勢いよくアーントに降り下ろした────が、牛の刃はその黒い鎧の前にあっけなくはじき返された。
「モーくん、そのナイフじゃ、無理だよ」
ナコは苦笑いしてこっちを見た。
牛ははじき返された果物ナイフの重みに耐えきれず、転んでしまった。その時、洞窟の奥の方向で光る何かを見つけた。
「ねえナコ。あれはなんですかねえ、たいまつですか?それにしては消えたり大きくなったりしているような」
「え? うーん、あれはたぶん……爆発かな?」
ナコは目を細めて遠くを見つめた。
「ああ! 爆発ですか、だから明かりが大きくなったと思ったら一度消えて、また爆発してを繰り返してるわけですね。それにしてもあの爆発の灯だんだん大きくなってきてませんか?」
「いや、近づいてるんじゃないかな?」
二人ははっとした顔をして、すぐさま爆発と反対方向に走り出した。あっという間に牛が置いていかれたので、ナコは一旦引き返し、牛を掴むと再び走った。
「ああ、すみませんナコ。しかし、まずいですよ。二人とも黒焦げになってしまいます!あの爆発とても速いです!」
「分かってるよ! だから今必死に走ってるの!」
牛はナコの肩に乗ったまま、後方を見て、様子をうかがっていると、爆発の中に人影が見えた。
「んん? ナコ、あの爆発の中に人がいますよ」
「え?」
「大男です、それに女性を担いでいます。」
爆発の中心は、猛スピードで近づいていた。ナコの脚もかなり速いはずなのだが、それを上回る速さだ。気づけば、爆発音は耳が痛くなるくらい、大きくなっていた。
ナコは首だけ後ろを振り返って確認する。
「本当だ! 爆発の中心に人がいる! もしかして、あの人たちが起こしてる爆発なのかな」
「私、辞めてもらうように言ってみます。」
牛はそう言ってナコの肩の上に立ち上がった。両手を口のそばにつけて大きく息を吸う。
「ここに人がいます! 危ないので爆発を止めてください!」
「どう?」
振り返る余裕もなくなったナコは訊いた。
「だめです。爆音で聞こえていません。」
「だめか、じゃあもう、これしかない」
ナコは走るのをやめ振り向いた。みるみるうちに爆発が近づいている。
「どうしたのですナコ!?」
「このままじゃどうせ追いつかれる。あの爆発の合間を縫ってこのロットを投げれば、きっとこっちに気づく。」
「ああなるほど…っていけませんよナコ! 人様に向かってそんなもの投げては」
「そんなこと言ってる場合じゃないの!」
ナコはスタンスを広げて、大きく振りかぶり、豪快にロットを投げつけた。
「ああ! 危ない!」
ロットは回りながら直線的な軌道を描いて飛んで行き、爆発の合間を抜け、担がれている女性の頭部に直撃ーーーする直前で大男の裏拳に粉砕された。
絶え間なく続いた爆音が鳴り止み、木粉と化したロットが宙を舞う。爆風で巻き上がった砂煙の中から、大男が顔を出した。




