第40話 トラウマそして
久しぶりに二人の小屋に戻り、夕飯にスープを食べる。アリスには、一度騎士団にもどりアドラやリサに現状を伝えてほしいと頼んでいた。
「わあ、やはりナコの作るスープはおいしそうですね、誰に教わったわけでもないのに大したものです。」
ナコは何も言わずに、一口もつけることなく、スプーンをおいた。
「ほら、温かいうちに食べないと…」
こちらに目線をむけ、そしてゆっくりと視線が下がっていった。かなり落ち込んでいるようだ。
部屋に沈黙が訪れる。彼女になんて声をかけたらいいか、もうわからなかった。
スープも冷めきり、部屋のなかも薄暗くなってきた。日が暮れるのであろう。
「…今日は…もう寝ましょうか」
ナコは黙って頷いてスープを片付け、布団を敷いた。
布団に入って目をつぶるナコの枕元に座った。
「ねえ、ナコ、以前どうしてそんなに冒険がしたいのかと聞いたことがありましたよね…
、あれ、教えてくれませんか」
ナコはしばらく黙っていたが、ゆっくりと話始めた。
「昔、まだお母さんがいたころ、一度だけ冒険者の姿を見たことがあるんだ。もうそこがどこで、なんでそんなものを見たのかも覚えてないけど……死ぬことも恐れずに集団で危険に立ち向かってく姿がすごくかっこよかったことだけ覚えてる。でも、もう無理だよ、本当に死ぬかもしれないと思ったら、死ぬのはこわいよ…」
ナコは寝返りをうってこちらから目をそらした。
そんなことがあったのですか…でもそれならまだ方法があるかもしれません。明日、アリスさんに頼んでみま
──ない──せ
また空耳ですか?ああもううるさいうるさい。
翌日、牛とナコ、アリス、それにフーシは樹海にいた。
「ナコ、術が出せなくなったなんて…」
フーシはここ最近ひどく忙しい様子だったので、呼ぶつもりはなかったが、アドラたちから話を聞いて駆けつけたようだ。
「あの、今日は樹海に来て何をするつもりでして?彼女のことを考えたらあまりよろしくないのでは?」
「それはそうなんですが…、どうしてもナコに見せたいものがあるのです。私についてきてください。」
牛を先頭にして、ナコがそのすぐ後ろ、最後尾をアリスが守る一列の形で進んだ。ナコの視線はその気分からか下がっているので、牛が振り返るとちょうど目があった。するとナコはまた目をそらす。先日、騎士団が大勢で樹海を調査した際に、危険な獣は大方駆除していたため、障害もなく進むことができた。
「ありましたよ」
牛は木の根本にある穴を指して言った。
「これは、なにか中型の獣の巣穴じゃないか?」
「ええ、おそらく」
牛はその穴に入っていった。大丈夫なのか?と聞くフーシにこう続ける。
「大丈夫です。もうなにもいないようですから、みなさんもついてきてください。」
いわれるがままに、全員続いた。
その穴は中が以外に広く、4人全員が入ってもまだまだ余裕があった。もっとも暗く、彼らにはその全貌は見えなかったのだが。
「明かりをつけますね」
牛が集中してレイと叫ぶと明かりがついた。すると空間の全貌が見える。そこの壁は水晶でできていた。広さは10人くらいは入れる大きさで、なにより特筆すべきはその美しさだった。牛の光魔法を分散して虹色に光っている。
「おお!」
「これは…水晶ですわ、しかし、これだけ大きな空間を埋め尽くしているとは、一体どうして??」
声を出して驚く二人とは違って、ナコは一言も発さない、しかししっかりとその目に七色の光は写っていた。
「私もよくわからないんですよ、この穴を見つけたのも完全に偶然で、あっ、アドラさんには伝えておいたので騎士団は調査できたはずです」
吸い込まれるように水晶の光を見つめるナコに牛は話しかけた。
「きれいでしょうナコ…、ねえ、ナコは命をかけて戦う姿に憧れて冒険者になりたかったんですよね」
「そうだけど…でもそんなの無理だった。死ぬのはこわいよ」
「そうですね、死ぬのはこわいです。でも、それはみんな同じことだと思うのです。誰もが死ぬことは怖くて」
「───でもあの人たちは」
「きっとその人たちもこわいことは怖かったの思うのです。でも、それよりも求めたいものがあった。何か素晴らしいものに惹かれていた。ここにいると私はそんな気がするのです。」
ナコはただ命をかけて戦う様に憧れていた。しかし、それではいざ死の恐怖に直面したときにそれだけでは自分の命をかけるには足りなかった。
牛としてはナコがそれで冒険者を諦めるのも良いと思っていた。しかし、冒険した先にあるもの、多くの冒険者を魅了したものの存在を知らないまま終わってしまうのは心苦しかったのだ。
皆、樹海から帰り、原っぱにいた。円形になりナコの詠唱を注目して待つ。目をつぶり集中しているナコの姿は凛としていて、あたりの空気が冷やされるようだ。
「ファイヤ!!」
空気がどよめくような特大の火柱が上がった。
ナコは死に対するトラウマを乗り越えたのだ。
「やったああああ、ナコ!!」
牛はナコのそばに駆け足で寄っていった。
ナコも安心したような表情で、それを両手で待つ。
フーシとアリスは少し離れてその様子を見守った。
ああ、良かった。良かった。ナコがあんなに憧れていた冒険を諦めなくt──────
───許さない 殺せ
また空耳だ。頭が痛い。あ…意識が…
頭が痛い。今気を失っていたのでしょうか?前がよく見えない。モヤがかかったみたいです。
しかしやっとわかった。あの声はオクールだ。あの最期、術は放たれていたのだ。それもなにか脳に作用するタイプの術をかけられていたのだ。みんなに知らせなければ
やっと目の前の景色が見えてきた。
「みなさん…聞いてほしいこと───」
牛はその光景に戦慄した。
ナコが腹から血を出して倒れている。
「ナコ?????いったい何が!!!」
全く意味がわからなかった。
すぐに後ろからフーシとアリスが走ってきた。アリスは治癒魔法をかけ始める
「二人ともこれは一体何が?!」
「一体何がだと?!ふざけるな!!!!お前がやったんだろう!!」
牛は自分の右手にナイフを持っていること、そしてそのナイフに血が滴っていることに気づいた。




